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2015年08月01日

産学融合イノベーション
「Industrie4.0」

ドイツがイノベーションで成功している秘訣は、産業界と学術機関の融合関係にあると前回のコラムで述べました。実は、昨今急に有名になってきた、ドイツの製造革新の取り組みである「Industrie4.0」の推進においても産学融合が大いに寄与しています。「Industrie4.0」のものづくりとしての革新性については別途考察する機会をもつとして、今回はその概要を紹介します。

ドイツの製造業は産業構造の中核であり、輸出額の60%を占めています。しかしながら、我が国同様に少子高齢化による労働人口の減少、工場の海外移転がこのまま進んでいくと、ものづくり大国としての存在感や競争力が低下していくとの危機感が「Industrie4.0」取り組みの背景にあります。「Industrie4.0」とは「インダストリー4.0」のドイツ語表記です。あえてドイツ語で表すことで、新しいコンセプトとしてグローバルに認知されることを目論んでいます。

「Industrie4.0」が脚光を浴びている理由の一つは、第4次産業革命というインパクトのある意味付けがされていることです。

産業革命の4段階
図1 産業革命の4段階
(出典 ものづくり白書2015より編集加工)

図1で示すように、第1次産業革命が蒸気機関による機械化、第2次が電力による大量生産、第3次が電子・ITによる自動化です。そして今始まろうとしている第4次産業革命が「CPS(サイバー・フィジカル・システム)」による変革と定義されています。「CPS」による製造現場では、スマートな生産設備がそれぞれ自律的に情報交換し、制御できる機能を持ちます。一方、ICタグ付きのスマート製品は、完成までの製造工程/製造条件、出荷日/出荷先などを保持するとともに、センサーで現状をリアルタイムに認識します。工場全体を管理する生産システムは、ネットでつながった営業からの需要動向や受注に応じて、調達先からの部材納入タイミングも加味しながら、常に最適化された生産を行うことができます。

「Industrie4.0」が目指すのは、顧客が求める仕様の製品を1個単位で柔軟・迅速に生産・出荷するマスカスタマイゼーションの実現です。画一的な大量生産によるものづくりから、柔軟な生産ラインで顧客の好みに応じた個別仕様の製品を大量生産並みの価格と納期で提供するサービス化、コトづくりへの変革です。「Industrie4.0」でドイツが狙いとするのは、付加価値の高い製品をドイツ国内で効率よく生産し世界に向けた輸出を増やし、生産拠点としてのドイツの未来を確実なものにすることです。さらに、もう一つの狙いは、マスカスタマイゼーションを可能にする工作機械やモジュールを世界に向けて輸出し、世界各国の工場の製造技術の標準をドイツがリードすることです。

ドイツと同じものづくり大国でありながら成長戦略に悩む日本では、「Industrie4.0」の明確な戦略と着実な取り組みに多くの関心が寄せられています。 そこで今回はドイツの過去10年の製造業振興策と「Industrie4.0」の推進方法を探ってみます(図2参照)。

ドイツの過去10年の製造業振興策とIndustrie4.0
図2 ドイツの過去10年の製造業振興策とIndustrie4.0
(出典 科学技術振興機構 研究開発戦略センター   
   「科学技術:イノベーション動向報告 ドイツ」より編集)

2007年よりドイツ連邦政府は「ハイテク戦略」で生産技術を含む17の重点技術を設定し、イノベーションで新製品・新サービスを提供し、世界において競争優位に立つことを目指しました。「ハイテク戦略」では、科学的な発見やアイデアを実用に繋げるために企業と大学・研究機関の連携が不可欠との考えから、産学の密接なネットワーク形成、産学協働に対するインセンティブ提供、応用指向の基礎研究や人事交流の促進などが強化されました。

「ハイテク戦略」の改訂版として2010年に発表された「ハイテク戦略2020」では、「Industrie4.0」が「未来プロジェクト」の1つとして登場しました。「未来プロジェクト」は10~15年の中長期的な期間で解決すべき最重要課題のアクションプランをプロジェクトに落とし込んでいます。ここでまず注目すべきは、企業と業界団体そして学術機関が一体となった「Industrie4.0」の運営体制です。次に注視したいのが、地域単位で企業と大学、研究機関が協力して新しい知識・アイデアを迅速に市場化し、社会で応用していく「先進クラスタープログラム」というフレームモデルです。連邦制を採るドイツでは、もともと特色のある産業拠点が各地域に分散しています。その一つのクラスター拠点であるバダーボルン市の「it’s OWL]プログラムは、スマートファクトリーをテーマに同地域にある17の大学・研究機関と22社の地元企業がコンソーシアムを構成し、さらに地元の中小企業80社も賛助会員として新技術の導入に取り組んでいます。

2014年9月には第3期となる「新ハイテク戦略」が発表され、「未来プロジェクト」の実施継続、イノベーション創出のツールとして産学融合の一層の強化が明記されています。これまで日本でも産学連携は行われてきましたが、その成果は十分ではありませんでした。最近はその重要性が再認識され、日本の大学構内に産学連携の施設を用意するなど、産学融合を目指した環境整備も行われつつあります。日本とドイツの製造業は一見似ているようで色々な違いがあるのも事実です。しかしながら、今後日本の製造業の成長戦略を確立する上で、「Industrie4.0」における産学融合の取り組みは大いに参考になると考えます。


2015年8月

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