ものづくりコラム 設計、生産管理、原価管理などものづくりに関するトピックを毎月お届けします。

2026年03月01日

生成AIパラドックス(生成AIの利用拡大と成果の乖離)に陥らないために

生成AIが登場してから早くも3年経ちました。企業における導入・利用は急速に広がっていく中、最近は“生成AIパラドックス“なる言葉が使われ出しています*1。生成AI利用の広がりの大きさと、そこからもたらされる成果の小ささ。この乖離がパラドックス(逆説)と呼ばれる所以です。今回は、生成AIの普及スピードと成果の現状、そしてパラドックスに陥らないための方策について考察します。

生成AIの異例の普及スピード

デジタル技術の普及スピード

図表1:デジタル技術の普及スピード
(クリックして拡大できます)

生成AI(以下、AI)は2022年末の出現からほぼ3年で、過半数の企業が導入方針を表明しています。クラウド技術が浸透するまで10年以上、電子メールに至っては20年を要したことを踏まえると、AIの普及スピードは、これまでのデジタル技術と比べて“異例”と言えます。唯一これより早く、一気に普及したのがWEB会議システム(1年)ですが、これはコロナ禍という特殊要因による例外的なケースです。なお、これらのデータは欧米企業のものですが、日本企業も1年ほど遅れながら、ほぼ同様の傾向にあります。

なぜこれほど早く普及したのか?

AIは、資料のドラフト作成や分析・要約、調査、プログラミング、顧客対応まで、誰もが直ぐ利用できる身近な業務が対象で、その効果も利用者自らが実感できます。また、企業にとっても、従来のIT投資が導入や研修に何カ月も要し、コストも膨大になりがちなのに対し、AIは短期間・低コストで導入でき、直ぐ利用可能となる、極めてハードルの低い投資という点が普及を後押ししています。
但しAI導入にも前提条件はあります。AI特有のリスクとなる、機密情報の漏洩、法的権利の侵害、そして一定割合で発生する誤回答への対策が必要です*2。そこで、AIの全社的な業務利用には、これらのリスクを踏まえたAIガバナンスの構築が前提となります。そのため、「AI利用を早く進めたいが、社内のAIガバナンス整備待ち」の企業も実は多いと推察されます。

広く使われているが、顕著な成果は出ているのか?

このように普及スピードは速かったAIですが、果たしてその成果は出ているのでしょうか?すでに多くの方がAIを利用し、その利便性は体感されているでしょう。文書のドラフト作成や校正などでAIを使うことで、確かに“楽になった”という感覚は直ぐに得られます。しかしながら、AI導入の結果、業務担当者数が削減できて企業の収益が改善した、或いは業務スピードや品質向上により高い投資対効果(ROI)が認められたといった経営的成果を出せているAI導入企業は約2割に留まっていると報告されています。そもそもAI導入による定量的な効果評価ができていない企業が大半というのが実態です。
例えば、社内外向けの問合せや対応を自然言語で行うAIチャットボットは、業界を問わず各社での導入率が高いAI利用です。その中でコールセンター業務における効果実績に関する調査結果を見ると、低スキルのコミュニケーターには一定の効果がある一方、熟練者にはほとんど効果がなく、全体の生産性向上は15%程度とされています。すでに自動化が進んでいる領域、そもそも人件費が高くない領域では、AI導入による効果は顕著なビジネス成果につながり難いようです。さらに、AIによって社員の生産性を高めることができても、事業競争力向上や収益貢献につながっている適用例は限定的です。こうした実態が、「AIの利用は広がっているのに、成果がそれほど観測されない」という”生成AIパラドックス“の根底にあります。

パラドックスに陥らないための方策は?

「AI導入は左程コストが掛からないから、まずは使ってみよう」というアプローチではパラドックス一直線です。「コストは小さかったが、効果も小さかった」では意味がありません。ではパラドックスに陥らないためには、どうすればよいのでしょう?

生成AIパラドックスに陥らないための方策

図表2:生成AIパラドックスに陥らないための方策
(クリックして拡大できます)

まず、大きな効果を確実に出すためには、全社一斉導入ではなく、有望な業務単位に投資し、その業務に適した成果指標(KPI)を事前に設定した上でAIを導入します。例えば、これまで先行してDX投資が行われてきた定型業務よりも、非定型で属人的な業務の方が期待効果は大きくなる可能性が高くなります。その業務のAI支援は、チャットや下書きにとどまることなく、業務を代行できるレベルに近づけ、人が適切に監視し、意思決定するというスタイルへの進化が求められます。これまでのDXの教訓と同じように、業務プロセスや事業モデルの変革と一体にならなければ、ビジネス成果は大きくなりません。業務プロセスや事業モデルを変革させて収益を高めるようなAI利用へと発展させることが求められます。

調査会社ガートナー社のデジタル技術の利用段階を表すことで有名なハイプサイクルを見ても、生成AIはまさに幻滅期に向かいつつあります。この“幻滅期”とは、過度な期待が落ち着き、用途・効能に合った冷静な利用の段階に移行する時期を指します。今こそ、AIを適切に業務へ組み込みながら、本質的な価値を生む活用へと進化させる必要があります。

ご参考
*1 : エージェント型AI優位性を活用する |マッキンゼー
*2 : AI利用拡大で高まる企業リスクー急務となるAIガバナンスと実践的整備

2026年3月

ITの可能性が満載のメルマガを、お客様への想いと共にお届けします!

Kobelco Systems Letter を購読