2026年01月01日
AIの「品質不良」にどう向き合うか?-ヒントはものづくりにあり
今や生成AIの活用は企業にとって“特別な戦略”ではなく、既に“当たり前の選択”になりつつあります。今後、企業内でAIの業務活用が急拡大していくとともに、そのアウトプットには事実と異なる回答や著作権等の法規に反する出力など、品質問題が深刻な課題として浮上してきます。今回は、長年にわたり高品質を追求してきたものづくりの視点から、AIの品質問題とその対応について考察します。
品質から見たものづくりと生成AIの類似性
ものづくりのアウトプットは製品であり、品質の基本指標の一つが製品の不良率です。出荷数ベースの不良率は出荷された製品全体に対する不良品の割合を示します。よくある不良例として、機能・性能不良、外観不良、そして安全・法規不良があります。不良率が高まると顧客満足度は低下し、売上のみならず企業ブランドにも悪影響を与えます。このため企業にとって不良率の低減は重要な目標設定の一つとなります。
これをAIの品質に当てはめるとかなり類似しています。AIのアウトプットは「回答」であり、品質指標は「誤回答率」となります。その代表的な誤回答が、事実に基づかないもっともらしい回答を生成する「ハルシネーション」です。他にも回答のフォーマット崩れや禁則違反(個人情報保護など)も誤回答と見なすことができます。これらの誤回答率が高くなると、製品不良と同様、利用者満足度は低下し、AIへの信頼が失われ、利用頻度は減っていきます。
AI誤回答率≫製品不良率
品質から見た類似性はあるものの、品質問題の発生割合の差は歴然です。AIの誤回答率はモデルや質問の難易度等によって大きく異なりますが、一般的な用途で1%~10%発生すると言われています。一方、ものづくりでは「6σ品質」、つまり100万回に3.4回以下という極めて高いレベルの目標が有名です。その実態を見ても、業界差はありますが0.01~0.1%のオーダーのようです。この品質レベルは製品利用者にとっては決して高いものではなく、むしろ当たり前です。つまり、製品不良と比較して100倍も高いAIの誤回答率は、AIのビジネス活用における大きな問題となります。工程比較で見える品質差の理由
それでは両者の工程を比較し、品質の差がどこで生まれるのか見ていきましょう。ものづくりでは、製品の開発段階と製造段階の両方で品質を作り込んでいきます。開発段階では試験で規格適合を保証し、製造段階では検査工程で不良品を排除します。異常があれば、品質最優先でラインや出荷を止める、品質最優先の仕組みです。
一方、AIのLLM(大規模言語モデル)開発段階の品質保証は基準が曖昧です。さらに、製造工程には出荷前検査に当たるものはなく、危険な内容はブロックするものの、例え低い確信度であってもAIは常に回答します。このように、AIの品質保証は、ものづくりに比べると格段に弱いのが現状です。ものづくりは工程で品質を作るのに対し、AIの品質はモデルの賢さ頼みです。統計確率的な評価はあっても、個別の誤りを検査する仕組みはありません。
品質を高めるためのAI工程見直し
それでは、これまでの検討内容を基に、AI工程の品質向上策を考えてみましょう。AIの品質をものづくり並みのレベルに高めるには、モデルを賢くするだけでなく、工程を見直す必要があります。まず製造段階では、検査工程を置き、「不確実な答えであれば答えない」という品質ゲートを設けることが有効です。そのためには、外部知識や検証のメカニズムを装備し、不確実な場合は「根拠が弱ければ答えない」を工程に組み込みます。試験工程においても、ものづくりのように明確な合否基準を設ける必要があります。従来のAIは、無理やり推測してでも「常に答える」ように設計されてきました。今後は、「分からない」と正直に回答する仕組みが求められます。
既に、ハルシネーションを低減するツールや出典必須の回答など、信頼性重視のAI技術も実装されつつありますが、ものづくりにおける工程での品質作りや明確な基準による品質保証の考え方は、ビジネスにおけるAI活用にも大きなヒントを与えます。
AIが自身の思考で事実に基づかない誤った回答をすることは、見方を変えればより人間の思考に近づいてきたと見ることもできます。結局のところ、「我々がAIに何を求め、その性能や品質をどのように測るか」―この問いに答えることが今後のAI活用の鍵となります。今後本格的なAIのビジネス活用に進んでいく際には、その用途に応じてこの問いに対する答えを持っておきたいものです。
ご参考
生成AIの最新技術や事例は、こちらのページでご紹介しています。
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