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2023年11月01日

クラウドとAI活用で、守りから攻めの会計へ

前回のコラムでは、企業の人・もの・金の経営資源の中で人の活用をテーマにしましたが、今回はお金の管理、つまり会計をテーマとします。企業の中で経理や財務を担う部門が、いかに守りから攻めの会計へ転じていくかについて考察していきます。

日本でコンピュータが企業に導入され始めた1950~60年頃、真っ先に導入された業務領域が会計でした。このように早くシステム化が進んだ領域ですが、会計部門は今でもなお多忙な部門であり、常に月次、四半期、期末のサイクル毎の締めや報告に追われています。入出金処理、納税、そして株主への情報開示といった、企業のお金に関わる対外的な役割を一手に担っています。社内においても、各部門で発生する様々な売り・買いの計上処理や資産管理、報告などをどれも100%会計基準に準拠して当たり前という認識で行わなければならず、念入りに確認し修正するため、どうしても手間を要します。締め日を守らない部署、勘定科目をいつも間違える部門に対しては、最後の関門となる会計部門としては止む無く、チェックを増やし、個別に修正せざるを得ません。また、経理、財務、税務などの仕事は相応の専門知識、経験を必要とするため、それぞれ分担することになり、結果、属人化が進みます。対策として会計業務のアウトソース化やシェアード・サービス化がよく検討されますが、その前提となる業務標準化がネックとなりなかなか進みません。さらに、よく施行される法改正への対応も会計部門の負担です。毎度の税率変更、会計基準の改訂には多大な対応時間を要し、この1~2年では改正電子帳簿保存法、インボイス制度への対応に振り回されました。このように、会計部門は恒常的に締め日と法令順守のプレッシャーを受け、決められたことを果たすのに精一杯の状態です。

会計部門として定型業務に追われるだけでなく、是非とも経営に貢献する付加価値の高い業務にシフトしていきたいものです。そこで、会計部門を守りから攻めに転じさせてくれる有力手段がデジタル技術であり、その筆頭にくるのがクラウド型会計システムです。サービスを提供する業界は比較的クラウド活用が進んでいますが、現場においてものを扱う製造業では、バックオフィスである会計領域といえどもクラウド化には慎重でした。しかし、製造業各社は国内外に子会社を多く抱えています。そのビジネスに占める割合が徐々に大きくなってくるとともに、グループ・グローバルでのデータの一元管理や、分析の必要性が急速に高まってきました。結果、製造業においても拠点ごとに設置されたオンプレミス会計システムから、グループ・グローバルで共有するクラウド型会計システムへの刷新が増えつつあります。

:製造業で増えつつあるクラウド型会計システム図表1:製造業で増えつつあるクラウド型会計システム
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クラウド型会計システムの特長として、オンプレミス型と比較すると、システム連携そしてデータ統合のレベルが一気に高まります。生産や販売システムなど社内システムとの連携、金融機関や取引先など社外システムとのデータ連携を効率よく行うことができます。その結果、会計部門と他部門との人手を介する非効率な業務が解消されます。さらに、クラウド型会計システムでは各拠点、社内外の関連データが統合されることで、業務の標準化、集約化、そして的確な意思決定が可能となります。

会計部門が攻めに転じるための、もう一つのデジタル技術がAIです。クラウド型システムになることで、演算能力やデータ可用性が高まり、これまでオンプレミスでは困難であったAI機能が利用可能になります。

クラウド型会計システムで期待できるAI機能図表2:クラウド型会計システムで期待できるAI機能
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AIを活用することで、業務の効率化や品質、スピードの向上が期待できます。例えば、チャットボットは、複雑で専門知識が求められる会計担当者の助けとなります。自動仕訳と自動消込は、手作業や人為的な判断に起因する煩雑な会計業務を軽減します。また、決算時の自動チェックやミス防止により、決算スピードを早めることができます。グループ企業の経理内容をモニターし、リスク検知も早期にできます。さらに、売上や利益などの業績予測においては、根拠のない数字の積み上げや意図的な数値を使うことなく、合理的な予測を行うことができます。

一方で、「大事な会計業務をクラウドにしてしまって大丈夫?」といった不安の声はでてきます。社外ネットワークを通しての業務となるため、その処理スピードやセキュリティへの懸念が生じます。また、クラウドの場合は標準機能に合わせることが基本となるため、自社特有の機能はどこまで対応可能なのかといった不安も募ります。確かに、オンプレミスからクラウドへの切り替えは大きな変化です。当然大量データを処理するときは時間を要しますが、最近のネットワーク環境では特に処理速度の問題はなさそうです。セキュリティ対策についても、そのアクセス管理は一層重要になりますが、専門チームが運営するクラウド型システムのセキュリティの堅牢さは自社システムに劣ることはありません。また、自社向けにカスタマイズしたい場合も自由度は制約されますが、個別対応の仕組みは提供されます。

クラウド型会計システムへのシフトに伴い、システム運用の役割・体制も見直しが必要です。クラウドでは頻繁に機能追加・アップグレードが行われますが、その対応はシステム部門のみではなく、会計担当者の役割・関与が増えていくと想定されます。また、システム担当者もクラウドの運用状況把握と利用の見通しを踏まえたシステム設定の見直しが求められるなど、従来の自社システム運用の役割・体制と大きく変わります。クラウド型会計システムの運用には、新たなクラウド人材の育成・配置が必要となります。会計部門とシステム部門が協働で、クラウドそしてAIを武器に自社の競争優位の実現に貢献していくことを期待します。

2023年11月

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