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2020年09月01日

5Gで製造業を活性化

この2-3年デジタル化を牽引する有望テクノロジーとして、5Gが注目されてきました。今年2020年3月には5G商用サービスが開始され、改めて5G関連の記事やセミナー案内が増え、5G対応製品のコマーシャルも盛んです。経済面においても、多くの企業がコロナ禍で苦しんでいる中で、5G関連企業は元気です。5Gに注目しているのは日本だけではありません、欧米やアジア・中東の20か国以上で5Gのサービスが開始されています。中でも中国は5G化を国家戦略そのものと位置付け、加速しています。昨年来、大きな問題となっている米中貿易戦争も、5Gの覇権争いが背景にありそうです。今回は、このように世の中で大いに注目され、国家レベルでも重視している5Gについて、ものづくりの観点から考察します。

5Gとは第5世代通信システムを意味し、現在の4Gの後継通信規格です。5Gでは4Gに比べ遥かに高速かつ大容量になることに加え、低遅延と多数同時接続が大きな特長となります。最近は在宅勤務でリモート会議が増え、「声が聞こえない」、「画像が見えない」など、ネットワーク制約によるトラブルを何度も経験していると、5Gの高速化や大容量化の必要性は十分理解できます。プロ野球中継が、固定カメラではなく選手の体に付けたカメラで、好きな選手の目線で映像が見られるようになれば、野球観戦の楽しみ方も変わり、5Gの価値を感じることができます。
産業界の5G対応は業界により温度差がある中で、関心の高い製造業では95%以上の企業が「5Gで自社ビジネスに変化を迫られる」と考えています。それでは製造業において、現在の4Gから5Gになることでどのような効能があるのか、具体例を見てみましょう。

活用領域 活用シーン 5Gによる変化
スマートファクトリー 画像による検品処理 高精細データをリアルタイムでクラウドAI処理
生産ラインレイアウト 5Gによる状況に応じた最適化・組み換え
ロボットのケーブルレス ケーブルから5G化で自由にレイアウト変更
搬送用ロボット制御 協調ロボットが遠隔制御も可能
試作品・製品確認 遠隔で確認・検証 VRで触感なども含め実物相当の確認
遠隔保守・整備 デジタルツイン 高精度、リアルタイム化でメンテ費用削減
VRマニュアル 自動車修理&点検ガイドのクラウド処理
製品遠隔操作 自動車の自動運転 低遅延の遠隔制御による自動運転
建機の無人化 遠隔操作で工事現場無人化

図表:製造業における5G活用の具体例

日本の製造業が抱える大きな課題は人材不足と高齢化であり、年を追うごとに深刻化しています。この構造的な課題の打開策として期待されるのが、スマートファクトリーです。工場内には様々な機器や設備が稼働しています。ところが、これまで製造機器や設備とネットワークの相性は、あまりよくありませんでした。工場内には、製造ラインごとの特性に合わせた個別のネットワークが張られ、ロボットなど遅延に厳しい機器では無線でなくケーブルが使われています。このため機器や設備の接続や状況に応じた変更は、けっして“スマート“に行うことができませんでした。工場内ネットワーク制約が、スマートファクトリー化を阻害していたことになります。この阻害要因は、5Gの高速化と低遅延、そして目的に応じて限られたネットワークリソースを分割し、最適な形で割当て活用ができるネットワーク・スライシング機能によって、一気に解消されます。ロボットや搬送機が5Gでつながれば、今まで以上に高度な遠隔制御が可能となります。検品工程が5Gでつながることで、高精細のデータをクラウド上のより強力なAIがリアルタイムで解析を行い、検品精度が一層高まります。VR/AR(仮想現実/拡張現実)技術も5Gにより、一層リアルな映像を、プロの視点からガイド情報と合わせて見られるようになり、熟練技術者のノウハウ共有・伝承に役立てることができます。これまで4Gのネットワークにつながる主役はスマホでしたが、5Gになるとその主役は機器やモノであり、まさにIoTが本格化していきます。手や耳目を使った人手作業をIoTが代行し、熟練者の判断をAIが代替し、それらを瞬時につなぐ神経の役割を5Gが果たすことで、スマートファクトリーが実現されていきます。

5Gは製造業における新規サービス創出や既存サービス強化も可能にします。瞬時のコントロールが求められる自動車や建設機械の遠隔操作のためには、5Gの特長となる低遅延が不可欠です。これまで工場に出向いて実施していた機器・設備の保守は、5Gによる遠隔保守で行えるようになります。また、これまで当たり前に行っていた、試作品をお客様拠点に持ち込んでの確認、お客様に工場に来ていただいての工作機械完成品の検査なども、5Gでリモートから映像や感触を確認できるようになります。
このような5G活用を早く進めていきたいところですが、残念ながらもう少し先になりそうです。5Gサービスは開始されたものの、現時点では都市部を中心とした限定サービスにとどまっています。敷設済み4Gの通信インフラを5Gに変えるには多大な投資と期間を要し、通信会社は携帯利用者が多い都市部から順にカバーしていきます。ところが通信会社が当面目指す人口カバー率99%が達成されても、都市部外に立地している工場のカバー率は3%程度に止まります。基地局を急いで増やしていったとしても、全国の工場で5Gサービスが使えるようになるのは、2025年以降になってしまうとのことです。

大きな期待の下に商用サービスが開始された5Gですが、具体的な活用が進まないと、期待が大きいかった分、幻滅感が強まっていきます。そこで、注目したいのが、ローカル5Gです。ローカル5Gは企業が自社敷地内において5Gを使用する免許が与えられます。インターネット網はまだ5Gになっていなくても、自社エリアに限定した5Gを運用することができます。活用範囲は限られますが、スマートファクトリーに向けた5G活用を進めることができます。クローズドなネットワークであるため、5Gで懸念される工場内機密情報が外部にもれるリスクが軽減されるメリットもあります。このようにメーカーが5G本格活用を進める上で、ローカル5Gは有力な選択肢であり、5G活用ロードマップのファーストステップと位置付けることができます。

5Gは日本の製造業を活性化する重要テクノロジーとして大いに期待できます。コロナ禍で停滞する経済を一気に回復させるカンフル剤にもなり得ます。5G化を進める海外メーカーとの競争に後れをとることのないよう、各社は5Gの実力を冷静に評価し、自社における5G活用ロードマップを描き、着実に実践していくことをお奨めします。

2020年9月

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