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2018年07月01日

EV時代のものづくり⑥
~共通化と共同化、そしてコトづくりへ~

自動車のEVシフトの大きな流れには異論がないものの、「いつ頃どの程度EVシフトが進むのか?」といったEV市場予測については、立場や思惑により色々な見方があります。例えば、2030年EV販売比率を、ある金融系の調査会社は26%と予測するのに対し、ガソリンを供給する石油メジャーの予測は2%以下と全く異なります。欧州の自動車メーカーは後5-10年でEVシフトが本格化するとの販売目標を設定するのに対し、日本の自動車メーカーはまだ先と見ているようです。

国によってもEVシフトの状況は異なるはずです。国策によってEVを一気に普及させようとする中国や、環境への意識が高い市民が多く環境規制を強化する欧州の国々では、先陣を切ってEVシフトが進んでいくでしょう。一方、米国では、排ガス規制が極めて厳しいカリフォルニア州など一部の州を除き、規制は緩やかでガソリン価格も安いため、案外ガソリン車の購入が続く可能性もあります。各国の充電スタンドの整備度もEVシフトに影響しそうです。また、電力インフラが弱い国では、EVよりも燃料電池車(FCV)が好まれるとの最近の調査もあります。

このような見通しから、自動車メーカーはガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、FCV、プラスEVといった複数のパワートレイン※1の車種をしばらくの間は並行して開発・製造していく必要があります。これまでも自動車メーカーはセダンやSUV、ミニバン、トラックといった多くのタイプや、軽・小型・中型・大型といったサイズ、左右ハンドルといった仕向地別仕様など、様々な車種を開発・製造してきました。これらにEVの車種が加わると、単純に考えて車種は倍増します。EVの開発にはガソリン車と全く異なる技術やノウハウが必要で、開発費も巨額になります。これまでも膨らむ開発費に悩んできた自動車メーカーにとって、EV車種に投じる新たな開発費負担は大きな課題です。この課題に対し、最近の自動車業界では、大きく2つのコスト抑制策を見ることができます。
※1 動力源で発生した回転エネルギーを効率よく駆動輪に伝えるための装置類の総称。

一つ目のコスト抑制策は、EV専用「メガプラットフォーム」の整備です。これまでも、自動車メーカーは開発費用を抑え、量産コストを低減するために、骨格となる車台や部品を車種間で共通化する「メガプラットフォーム」に取り組んできました(2014年4月ものづくりコラム※2参照)。各社は長年かけて進めてきた「メガプラットフォーム」によって、車の開発費と生産コストが大幅に低減できるようになってきました。しかし、これから主役となっていくEVは、専用の「メガプラットフォーム」が新たに必要となります。従来のエンジン車の流用ではなく、電池を床下に敷き詰めた、低重心でスペース活用がしやすい車体構造が理想とされます。そこにモーターやインバーターの駆動系部品や車輪、サスペンションが、エネルギーや動力伝達のロスが最小となるように配置されます。EV専用「メガプラットフォーム」によって、例えばポルシェとアウディの高級車種のEV開発において車台や部品の共通化ができ、開発コストや調達コストの大幅な削減が期待できます。
※2「自動車業界の新たなマス・カスタマイゼーション」
https://www.kobelcosys.co.jp/column/monozukuri/325/

もう一つのコスト抑制策は、「仲間づくり」です。 EVの膨大な開発費をこれまでのように1社で賄うのは難しいため、複数社がEVの基盤技術を共同開発したり、各社が得意な技術を分担することで、開発費負担を軽減するケースが目立っています。自動車メーカー同士やサプライヤーが仲間となって、EVの車体や電池、モーター、制御システムなどの基盤技術を共同開発し、各社がそれらの技術を活かして自社のEVや部品の開発につなげていきます。基盤技術の共同化は部品の共通化にもつながるため、生産規模も拡大し、EVの生産コストの低減もできます。自動車業界では、これまで自前主義や閉ざされた系列内で垂直統合による開発・生産が行われてきました。EV時代には目的に応じた仲間と組み、開発・生産を共同で行うケースが増えていくと考えられます。

EV時代のものづくりとコトづくり

図.EV時代のものづくりとコトづくり

このようにEV専用「メガプラットフォーム」による共通化や「仲間づくり」による共同化が進展していくと、やがて自動車業界も電機・電子機器業界のようなオープン化や水平分業化に向かっていく可能性が高まります。既にEV設計図を世の中に公開し、標準プラットフォームとして採用してもらおうとするベンチャー企業も登場してきています。IT企業や家電メーカーなど異業種からも続々とEVに参入しつつあります。元々EVは部品の共通化や標準化がやり易い構造です。EV開発における共通化や共同化が今後徐々に業界に広がっていき、標準化も進んでいくと、やがてかつてのテレビやパソコンのようにEVもコモディティ化していくこともあり得ます。

今後EVメーカーが競争に勝ち残っていくには、開発費や製造コストを下げていくだけでなく、利用者にとっての価値や差別化を高めていくことが必要です。つまり、各EVメーカーは共通化や共同化を活かしたものづくりに加えて、EVの差別化や付加価値を高めるコトづくりにも注力していかねばなりません。日本の自動車メーカーが、EV時代においても継続して競争力を発揮できることを期待します。

2018年7月

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