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2018年03月01日

EV時代のものづくり②
~自動車業界のゲーム・チェンジ~

近い将来、自動車が、ガソリンやディーゼルのエンジン車からEVに急速に置き換わっていくと予測されています。今回はその背景や理由について考察してみたいと思います。

例えば、携帯電話の場合は、スマホが出てくると一気にガラ携からスマホに変わっていきました。その大きな理由は、消費者がスマホの多機能性や操作性、利便性を、高く評価したからと考えられます。EVもエンジン車に比べると、燃料代やメンテナンス費用は半減し、音や振動も小さく、利用者にとって魅力的です。しかし、現在のEVでは、走行距離の制約や充電時間の長さなど、エンジン車に比べるとまだ不便な面があります。EVは市場に投入されてすでに何年も経ちますが、その普及度は、まだ世界の新車販売の1%にも達していません。では、なぜ今後EV化が加速していくのでしょうか?

まず、EV化加速の背景にあるのが、地球温暖化対策として、2015年COP21で採択された「パリ協定」です。この協定では、「今世紀末までの気温上昇を、産業革命前と比較して摂氏2度未満に抑える」という「摂氏2度目標」が設定されました。これ以上気温が上昇すると、巨大な自然災害、農業や水産業への悪影響、海面上昇など、地球の気候や生態系が回復不可能な状態に陥ります。そうなると、食料問題や移住が増え、経済面・政治面の紛争に勃発し、地球全体に取り返しのつかない甚大な損失をもたらします。「パリ協定」では、10年前の「京都議定書」の枠組みには加わらなかった米国や中国、そして新興国も含めた国々が目標設定を行っています。さらに、目標設定に止まらず、目標に向けた措置の実施と5年ごとに報告が義務づけられています。

地球温暖化対策には、温室効果ガスの大半を占めるCO2の排出抑制が不可欠です。自動車は、工場等と並ぶ大量のCO2排出源であるため、「摂氏2度目標」に向けて、各国は自動車の燃費規制を一層強化していく必要があります。このような背景の下、まず英仏がEV化促進を明言し、2040年までに、ガソリン・ディーゼル車の販売を禁止する方針を打ち出しました。英仏の新方針を受けて、大気汚染に悩む、世界最大の自動車市場である中国はガソリン車などの販売・製造の禁止を検討しています。同じく、今年世界第4位の自動車市場となったインドも、2030年までに新車販売をEVに限定する目標を掲げています。一方、世界の大手自動車メーカーを抱える日本や米国、ドイツのEV化に関する姿勢はこれまで明確ではありませんでした。しかし、アメリカ国内でもカリフォルニア州を始めとした約10州はもともとEV化に積極的であり、ドイツもディーゼル車への逆風により、最近EVシフトを表明しています。

各国における自動車産業の位置付けとEV化促進の姿勢

図表 各国における自動車産業の位置付けとEV化促進の姿勢
    円内の数字は各国の自動車市場規模(単位:万台)

中国がEV化を積極的に促進する理由がもう一つあります。国内自動車産業の育成です。世界最大の自動車市場のEV化を促進することで、日独米の既存大手自動車メーカーが有する絶対的なエンジン車の技術力を通じなくさせ、自国のEVメーカーの競争力を高めようとしています。つまり、世界の自動車業界競争の土俵やルールを大きく変えるゲーム・チェンジを目論んでいると考えられます。

それでは、このゲーム・チェンジに既存大手自動車メーカーはどう対応しようとしているのでしょうか? 世界の販売台数でトップを行くフォルクスワーゲン社は、ディーゼルエンジンの排出規制不正問題もあり、早々とEV化に舵をきっています。ドイツの大手メーカーや他の欧州メーカーも次々とEV化へのシフトを発表しています。今後も需要増加が見込める、世界最大の中国市場でEV化の潮流に早く乗り、世界のEV市場のシェア確保を行うことで、自動車産業の成功要因となる生産規模を確保し、収益化を急ごうとしています。ドイツの自動車メーカーに引っ張られるように、米国の自動車メーカーも中国自動車メーカーと共同のEV投入計画や、バッテリー開発などの投資計画を発表しています。世界規模のEV化の潮流が一気に出来上がりつつあります。

このような状況の中で、日本の主要自動車メーカーのEV化への姿勢は、現在のところまだ明確ではありません。日本製自動車のHEV技術は世界でも先端を行き、EV化に必要な技術の優位性は十分高いはずです。しかし、EV化を進めるとこれまでの部品メーカーとの関係は大きく変わっていき、利益率も低下するリスクはあります。

日本の自動車基幹産業が、自動車業界のEV化というゲーム・チェンジにうまく対応し、これまでの競争力を更に高めていくことを期待します。

2018年3月

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