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2016年06月01日

ビジネスモデルを変える⑥
売れないものを宝の山に変える

今回取り上げるのは、ヒット商品を追い求めるのではなく、ニッチな商品市場で収益を上げる、ロングテールというビジネスモデルです。下記の図は、ラプソディという米国の音楽配信サービスの1か月分の利用データをダウンロード回数の多い曲から並べてグラフにしたものです。左端の曲は膨大な回数利用されています。そこから人気のない曲へと曲線は急降下していくのですが、10万曲から20万、30万へと見て行っても曲の需要はあり、曲線が消える最後の方は1か月に4-5回しかダウンロードされていないのですが、それでもゼロではありません。2万5千から10万の間で事業売上の約25%を占め、さらに10万から80万の曲でも15%を占めています。統計学では、このように曲線の裾(テール)部分が曲線の頭(ヘッド)比べて極端に長い曲線は、ロングテールと呼ばれます。そして、このように長いテール部分にある、膨大でニッチな商品を宝の山に変えるビジネスモデル「ロングテール」が、クリス・アンダーセンによって2004年に提唱されました。

ラプソディのロングテール
図 ラプソディのロングテール
(出典:クリス・アンダーセン著 「ロングテール」より編集加工)

通常の店舗では、在庫や売り場スペースは限られるため、扱う品目数も制約を受け、ヘッドの部分にあたる品目で売上の大半を占めます。メーカーの製品戦略においても、限られたリソースを有効に活用するために品目数を絞り込み、主力のヒット製品をできるだけ大量に販売していく戦略が基本となります。ロングテール・ビジネスモデルが注目を浴びたのは、このように当たり前のように思われていた、「ヘッドの部分にあたる上位20%の商品が80%の収益をもたらす」というパレートの法則あるいは20-80の法則と相反する考え方だったからです。

ロングテールのビジネスモデルは、本や音楽、ゲームなどデジタルコンテンツのマーケティングやEコマースにおいて顕著な事例が紹介されるのですが、他の業種でも事例を見出すことができます。例えば、ビール業界は、市場全体は縮小気味ですが、何種類もの輸入ビールや地ビールの売上は毎年2桁成長しています。また、大型スーパーの品揃えは数万点であるのに対して、鹿児島のスーパー「A-Z」は生鮮野菜から自動車まで37万点を東京ドーム3.5個分の広大な敷地に取りそろえています。「A-Z」という店名どおり「なんでも ある」をうたい文句に、毎年売上を伸ばしています。

ロングテール・ビジネスモデルが成り立つには、「ニッチな商品を、お客様に選んでもらい、届けるまでのコストをいかに低下できるか」が条件となります。製造業であれば、ものの生産コスト、流通コスト、そして製品と購入者を結びつけるマッチング・コストを下げる必要があります。しかし、昨今のインターネット普及により、アマゾン社等が提供するようなEコマースを活用することもでき、低コストの店舗や在庫・配送が可能となりました。購入者にとってもわざわざ店舗まで出向く必要がなく、ニッチな製品をネットの検索技術により手軽に見つけることができ、ネット内のクチコミにより製品の評判も分るようになり、購入に掛けるコストや手間が大幅に軽減されました。

では、大量生産できないニッチな製品の生産コストを下げることについては、どうでしょうか?以前のコラムでも述べてきたように製造業では、大量生産品並のコストでカスタム品を提供するマス・カスタマイゼーションが指向されています。また、最近はアイデアさえあれば、誰でもニッチな製品を低コストで製造できる環境が整いつつあります。例えば、ネットで依頼することで、図面を描いたり、製造を中国で安く請け負うサービスが提供されてきています。金属・木工・電気・樹脂・裁縫など、様々な工作設備を自由に使うことができ、アイデアさえあれば誰でも簡単にプロトタイピングできる場を提供する「テックショップ」のような工房が都心に現れてきています。3Dプリンターによるものづくりも本格化されつつあり、ニッチな商品を低コストで作れるようになってきています。

昨今はお客様ニーズの多様化・個性化が進む中で、製品の種類も増えてきているため、売れ筋の販売割合は相対的に減ってきて、ヒット製品でも昔のように大きな利益をうまなくなってきています。一方で、ニッチな製品を低コストで作り易くなったため、今後はもののロングテール化も進展していくと想定されます。といっても、ニッチ市場がヒット市場にとって代わる訳ではなく、製造業はヒット製品とニッチ製品を併せ持つことが必要となってきます。更に、柔軟性の高い中小企業にとっては、ニッチ製品で売り上げを伸ばしていくチャンスが広がってきていると考えることができます。


2016年6月

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