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2025年06月01日

製造業DXで『攻め』の投資対効果の示し方
~経営者を唸らせるDXのROI~

DXに本格的に取り組んでいく際に、必ず求められるのが投資対効果の判断です。企業としてはDXを推進していく必要はあるものの、DXを起案すれば全て承認される訳ではありません。投資に見合うリターンが得られること、他の投資案件よりも魅力的なことが大前提となります。今回は、いかなるDXであっても避けて通れない、投資対効果の示し方について考察します。

投資対効果を示すのは企業活動の原則

企業では事業成長や競争力強化に向けて、つねに新しい投資案件が起案されています。貴重な資金をどの案件に投じていくかは、企業の盛衰に直結します。前例や経験・勘に頼るのではなく、客観的かつ論理的に最適な投資案件を選択することは企業活動の原則です。経営者は投資の正当性を株主や機関投資家に説明する責任を果たすため、一定規模の投資案件については、どの程度のリターンをもたらすのか、何年で投資回収できるのかを厳しくチェックします。また、企画時に投資対効果を明確に設定することで、投資の予実を評価し、差異が発生した場合はその原因分析を求めていきます。

慣れた設備投資に比べ苦戦するDX案件の投資対効果算出

製造業において企業が成長と競争力強化を目指す上で、従来の設備投資や新製品開発投資だけではなく、これからはDX投資の成否が重要となってきています。製造業ではこれまでも、製造ライン増設やロボット導入などの設備投資は活発に行ってきたため、その投資対効果の算出には慣れています。このように前例のある設備投資であれば、投資対効果の算出は得意なのですが、昨今のDX投資案件となると、その効果を算出し、投資の妥当性を示すことに苦戦するケースをよく見かけます。確かに、DXと設備投資の投資対効果には共通性があるものの、DX特有の価値の見方や考慮点があります。そこで、評価方法、効果算出、投資額算出の観点から、DXの投資対効果の示し方を、設備投資と対比しつつ見ていきます。

DX効果算出のポイントは「攻め」の定量効果・定性効果

DXの投資対効果の評価方法は、ある期間の総投資額に対する総効果額の割合を示すROI(投資収益率)や投資と効果の累積がバランスするPBP(投資回収期間)が一般的で、設備投資の評価方法と同じです。その他にもNPV(正味現在価値)やIRR(内部収益率)など評価指標で判断される点も含めて共通しています。DXにより発生する年毎の投資額と効果額を上下の棒グラフで、その累積を線で表すと図表1のようなイメージとなります。

m2506_1.jpg図表1:DX施策の投資対効果の推移イメージ
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DXの効果算出においては、設備投資とはかなり違いがあります。まず、設備投資では、生産能力向上による売上増、省人化や不良率低下によるコスト削減など、財務に直結する効果項目で算出されます。一方、DXでは、製品コスト低減や間接業務工数削減など財務効果だけでなく、定量効果や、定性効果が重要となります。

m2506_2.jpg図表2:DXの投資と効果の例
(クリックして拡大できます)

定量効果とは、例えば製造リードタイム短縮や納期短縮、在庫削減、製造ミス抑制などの効果で、日数や件数、割合(%)といった指標で計数化されます。DXの価値を可視化するには、これら定量効果を売上収益増加、在庫管理コスト低減といった財務効果に換算していくことが必要となります。
このような定量効果に加えて、顧客満足度向上、部門間の情報共有レベルアップ、業務リスク軽減、ベテラン社員の技能継承など、指標で表すことが難しい効果も定性効果として取り上げます。これらは中長期的に企業価値向上に大きく寄与するため、投資判断においては考慮されるべきです。可能であれば定性効果に対してもそれぞれに応じたKPI(評価指標)を設定し、目標値と現状値を明確化することでDXの投資対効果の判断に反映していくことが望まれます。
上記のように、DXでは財務効果はもちろんのこと、攻めの定量効果、定性効果を示すことがポイントとなります。

DXと設備投資の投資額算出は似ているが違いは大きい

DX案件の投資額算出は設備投資と一見似てはいても、内容はかなり違いがあります。設備投資では機械設備や建物などの購入費用が投資金額の大半を占めるのに対し、DXの初期投資項目はクラウドサービス導入費やソフト開発費、基盤導入費、データ整備費そして業務プロセス設計費用など多岐に渡ります。設備投資もDXも保守・運用などのランニング費用が発生しますが、DXでは利用される技術の革新サイクルは速く、アップデート費用の計上も必要となります。また、どちらの投資も、新たな仕事で求められるスキルに対応できるように教育・トレーニング費用が必要です。特にDXは業務プロセス面の変化が大きく、現場に求められる仕事内容や意識の変革を円滑に進めるためのマネジメント費を見ておくことが求められます。
 
今回はDXの投資対効果の示し方について、設備投資と対比しながら考察しましたが、各企業で取り組まれるDXの目的やレベルは様々です。今後はロボットとIoT、AIを利用した製造の自動化を目的とするスマートファクトリーへの投資、お客様に納入した機械のリモート保守や最適運用の包括サービスなどの投資も増えていくでしょう。次回は、企業内で取り組まれるDXの目的やレベルに応じた投資対効果について考察していく予定です。

2025年6月
 

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