2026年03月01日
無名から代表へ、エリート育成プログラムを超えて
~企業の選抜教育に潜むリスク~

日本ラグビー協会は1月30日に将来の日本代表選手育成を目的とした「JAPAN TALENT SQUAD プログラム2026」の参加選手を発表しました。その中に、今季大学日本一となった明治大学の司令塔、伊藤龍之介選手(3年)などに交じって、スタンドオフとして京都大学医学部の大鶴誠(じょう)選手(3年)がメンバー入りしたのです。協会の一般公募に応募した約30人の中の一人で、灘高校から京都大学へと進み、ラグビー部でプレー。東京大学と並ぶ日本の最高学府から代表選手が誕生するかもしれません。
将来の代表選手育成を目指す取り組みはラグビーだけでなく、多くの競技で行われています。日本オリンピック協会(JOC)は年少の競技者が将来的にオリンピックをはじめとする国際大会で活躍できるよう、一貫して育成する「エリートアカデミー」を組織化。有望な小・中学生の競技者を発掘し、味の素ナショナルトレーニングセンター(東京・北区)を拠点に生活させながら、学校への通学とトレーニングを行っています。2008年に卓球とレスリングの2競技でスタート。その後フェンシング、飛び込み(水泳)、ライフル射撃と競技数を増やし、さらに拡充する方針を打ち出しています。
またサッカー界でも日本サッカー協会(JFA)が2003年から「U-13/14 JFAエリートプログラム」をスタートさせました。将来の日本代表選手を育成する場として大きな役割を担っています。年間4回実施され、活動内容はトレーニングキャンプ及び海外遠征。能力の高い選手に対し良い環境と指導を与え、より高いレベルの中で切磋琢磨することでさらに能力を引き上げるなど、「個の育成」を目標とし「選手の自立」に向けての働きかけも行っています。
一方でスポーツ界のエリート教育、早期の競技専門化による弊害も指摘されています。小さい時から日本代表としての期待を背負うことでのストレスや、過度な競争心による精神的な問題、低年齢のうちから特定の競技で同じ動作を繰り返すことによる怪我や慢性障害の発症。また、エリート育成であるがゆえに高い負荷と規律を求められ、身体的・精神的な成熟が追いつかない選手に過剰なトレーニングが課された結果、才能を伸ばすはずの制度が、逆に才能を削いでしまう構造も潜んでいます。かつては「早くから一つの競技に専念させる早期専門化こそがトップへの近道」とされていました。しかし、最新の研究ではこの常識は覆されつつあり、早期専門化はリスクが大きく、むしろ複数スポーツ経験に基づいた後期専門化こそが、選手を長期的に成功に導く鍵であることが明らかになっているのです。
さらにエリート教育は一部の優秀な選手に焦点を当てる一方で、異なる背景や成長曲線を持つ選手の可能性を見過ごす危険もはらんでいます。例えば、惜しみない運動量で日本ラグビー界を支えてきた大野均さん。彼は高校まで競技未経験で、地元福島の日本大学工学部からラグビーを始めましたが、決して強豪ではありませんでした。知人の紹介で社会人の東芝(現ブレイブルーパス東京)の練習に参加したことを機に入部。「自分が一番下」と自覚し、チームの誰よりも愚直に練習を重ねた結果、才能が開花。日本代表に選ばれただけでなく、歴代最多の98キャップ(代表戦出場数)を積み上げたのです。
また、サッカー日本代表で主力として活躍した本田圭佑さんは中学時代、ガンバ大阪のジュニアユースに所属しましたが、当時はスタミナやスピードに難があると評価され、ユース昇格を逃しました。そのため、星稜高校(石川)へ進学し全国高校サッカー選手権で活躍。Jリーグを経て海外へ渡り、ついにはイタリアの名門ACミランで背番号10を背負うまでになったのです。
こういった遅咲きの選手や、少年時代に総合力では劣っても何らかの長所を持った選手を取りこぼさないような仕組み作りも、エリートの育成とは別に重要になってきています。
企業におけるエリート教育の代表例として、次世代経営者を育成する選抜プログラムがあります。この制度は、適切に設計・運用されれば、組織の将来を担う人材を計画的に育てる基盤となります。しかし一方で、設計を誤れば、選抜者と非選抜者の間に不公平感や分断を生み、最悪の場合は優秀な人材の流出を招く恐れもあります。
制度を機能させるためには、「選抜」をキャリアにおける一つの「ゴール」や昇進の「約束手形」と位置づけないことが重要です。あくまでも経営を疑似体験し、視座を高める学習機会と捉えることが重要なのです。
また、制度の目的や選抜基準を明確にするとともに、メンバーを固定せず、定期的に見直すことが不可欠です。途中で力を伸ばした社員や、新しい仕事や職場で能力を発揮した社員、あるいはキャリア採用で加わった人材にも門戸を開くことで、組織の活力と公平性を保つことができると考えます。あわせて、理想とする経営者像やリーダー像を事業の変化に応じて柔軟に再定義することで、変化への対応力も養うことができると考えます。
当然のことながら、非選抜者含む社員全員に対して、担う役割の意義を丁寧に説明し、成長機会や挑戦を後押しする環境を整えることが何よりも大切なことでしょう。こうした配慮を積み重ねてこそ、選抜プログラムは企業全体の成長を促す有効な制度として機能するのではないでしょうか。
2026年3月
ライター

代表取締役社長
瀬川 文宏
2002年 SO本部システム技術部長、2008年 取締役、2015年 専務執行役員、2017年3月より専務取締役、2021年3月代表取締役社長に就任。現在に至る。
持ち前のガッツでチームを引っ張る元ラガーマン。
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