代表取締役社長が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2025年12月01日

逆境を乗り越えていく安青錦の強さ
~襲ってくる不安への対処法~

逆境を乗り越えていく安青錦の強さ 11月の大相撲九州場所では場所前から注目されていた新関脇の安青錦が横綱・豊昇龍との優勝決定戦を制して、初優勝を飾りました。場所後の臨時理事会で大関昇進が決定。所要14場所での大関昇進は年6場所制となった1958年以降の初土俵力士で、付け出しを除くと史上最速の快挙となりました。
初土俵から史上最速の所要13場所で横綱に昇進した大の里と同様に、安青錦も数々の最速記録を打ち立てながら番付を駆け上がりました。今年の7月場所3日目には、初土俵から12場所で横綱・豊昇龍を破り史上最速の初金星(付出しを除く)。9月場所での小結昇進、11月場所での新関脇昇進も、いずれも同条件で最速記録でした。
安青錦はウクライナ出身。7歳から相撲を始め、2019年の世界ジュニア相撲選手権で3位となるなど才能を開花させていきました。同国の国立大学に合格するも2022年2月にロシアのウクライナ侵攻が始まり、戦火を逃れ相撲を続けられる環境を求めて同年4月に来日。世界ジュニア選手権で知り合った知人の紹介で12月に元関脇・安美錦の安治川部屋の研修生となったそうです。2023年7月場所前に正式に入門して新弟子検査に合格。同9月場所で初土俵を踏み、11月場所で序ノ口優勝、翌2024年1月場所で序二段優勝するなど初土俵から20連勝を記録しました。
これまでの色々な記録を持っていた米国出身の元大関・小錦や元横綱・曙が巨体を武器にしたのとは対照的に、安青錦は182cm、140kgと幕内力士としては小柄な技巧派。それでも異国の地の慣れない環境にもすぐに順応。その強いメンタリティーで地位を築いてきました。巡業初参加の際には、「分からないことだらけ…。緊張でしっかり食べられないので、体重が落ちないように気を付けたい」と不安を見せながらも、すぐに「周りを見て、いろいろ吸収したい」と先輩力士たちから貪欲に学ぶ姿勢を見せていました。スピード出世の記録を塗り替えることにも「(記録は)特に意識していない」と謙遜し、自分は自分という姿勢を崩しません。また、初顔合わせに際しても「相手も自分とやるのは初めてなんで、同じ気持ちじゃないですか」と不安を口にすることはありません。

戦火の中、地元ウクライナを離れ、言葉も通じない異国の地に単身で渡り、大相撲という厳しい世界に身を置くことは、一般的な日本人であれば強い不安を覚えても不思議ではありません。しかし、安青錦に関するさまざまな記事を見る限り、そのような不安を感じさせる様子はあまり見られません。実際には、記事にならない苦悩や努力があると思います。それでも、「自分は自分」「いつもと同じ」という前向きで何事もネガティブに受け止めない姿勢は、私たちも見習うべきところが多いのではないでしょうか。

そもそも日本人には、生まれつき不安を感じやすい傾向があるという説があります。その一因として、精神を安定させる神経伝達物質「セロトニン」の働きの弱さが挙げられます。この働きには「セロトニン・トランスポーター」をつくる遺伝子(5-HTTLPR)が関わり、L型とS型の組み合わせによってSS・LS・LLの3タイプに大きく分類されます。S型はセロトニンの運搬効率が低く、その結果、不安が高まりやすくなると言われています。
そして、日本人は欧米人に比べてS型の割合が高く、欧米人では約40%なのに対し、日本人では約70%とされています。なかでも最も不安を感じやすいとされるSSタイプは、日本人の50〜60%を占めるとも報告されています。(*1)
とはいえ、「セロトニンの量が少ないから不安になるのは当然」と単純に割り切ることはできません。不安が続くとメンタル不調につながり、本来の能力を発揮しにくくなってしまいます。たとえ遺伝的な要因が変えられないとしても、それに対する対処や克服の工夫は必要です。

不安が拭えないときは、思い切って体を動かしてみるのが良いと言われます。運動によってセロトニンが活性化し、脳が沈静化され、マイナス思考が和らぐためです。また、ネガティブな思考や不安に対し、意識的に頭の中を空っぽにして「何も考えない」思考停止状態をつくることも一つの方法だとされています。思考をいったん止めることで、安心感やリラックス感を取り戻せるのです。
実際、安青錦は記者会見の場で、海外メディアから母国がロシアの侵攻を受けていることについて質問を受けましたが、「力士なので相撲の話をしましょう」とだけ述べ、多くを語りませんでした。これも、ネガティブな思考を避け、あふれ出す不安を振り払うため、自らを思考停止の状態にしようとした発言だったのかもしれません。

ネガティブな思考状態になったときには、意識的に思考を停止させ、「何も考えない」状態で体を動かしてみる。是非一度お試しください。

ご参考
*1:遺伝子と不安傾向の関連はある程度示唆されていますが、決定的ではなく、環境要因も大きいと言われています。

2025年12月

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