2025年06月01日
スポーツ界の「レンタル移籍」に学ぶ
~「出向」による成長機会の創出~
「レンタル(期限付き)移籍」という制度をご存じですか。例えば、サッカー日本代表の中心選手である久保建英選手は、スペインの強豪レアル・マドリードに加入した後、いくつかのチームに期限付きのレンタル移籍し、2022年にレアル・ソシエダに完全移籍しました。ただレアル・マドリードは買い戻すことが可能な50%の保有権を保持しており、今後の活躍次第で復帰の可能性も残しています。レアル・マドリードにとっては、出場機会を与えづらい若手で有望な久保選手に試合経験を積ませることができ、久保選手にとっても出場機会の増加による成長が見込め、活躍が認められれば大きな契約を勝ち取るチャンスとなります。まさにチームと選手にとってwin-winの制度だと言えます。
あまり知られていませんが、実は日本のプロ野球でも近年、育成を目的としたレンタル移籍が行われています。巨人の育成・木下幹也投手が「ファーム・リーグ参加球団規程」に基づき、ウエスタン・リーグの球団くふうハヤテベンチャーズ静岡に昨年7月から派遣されて戻ってきました。くふうハヤテ静岡はイースタン・リーグのオイシックス新潟とともに昨年から2軍のみに参加する新球団で、戦力面で劣るために補強を求め、一方の巨人は若手に多くの経験を積ませたいという意図を持っており、win-winのレンタル移籍となりました。実際に木下選手は層の厚い巨人では2軍でもなかなか登板機会に恵まれませんでしたが、移籍先では2か月間で8試合に登板。「2軍で登板が少なかった状況で派遣の機会をくれていい経験ができた」と振り返っています。
久保選手のような国際競争力のある中核人材の育成は、企業にとって急務となっています。そのためには自社を離れた環境で様々な経験を積むことが有効だと言われています。そのような中核人材の育成方法として、企業はもっと「出向」を活用すべきではないかと思います。
ただ、「レンタル移籍」と「出向」、この2つの言葉に対する世の中のイメージは少し違っています。レンタル移籍に対しては、ファンも選手も「チーム事情や環境を勘案した上で、他のチームに移籍することで成長を促し、将来チームに戻って活躍する期待を込めて送り出された」と捉えます。
一方、「出向」という言葉に対しては「将来を期待して」というよりも「左遷」に近いイメージを持つ人が少なからずいます。企業側が人材育成を目的に期待を込めて出向を打診しても、社員本人がマイナスに受け取ってしまうようでは意味がありません。出向に対するネガティブなイメージを払拭するためには、本人に出向の目的や意義を丁寧に説明するのは当然ですが、加えて中核人材が歩むキャリアステップの一つとして出向経験を位置づけることが有効ではないかと思います。優秀な人材が自分に対する高い期待を感じて出向を前向きに捉えることさえできれば、本人の成長という成果は必ず返ってくるのではないでしょうか。
さて、社会人野球の都市対抗大会には、他の大会やプロ・アマの各大会と違う「補強選手制度」があります。各地区代表のチームが同じ地区で敗退した他チームから選手をレンタルして補強、出場させる制度です。レンタルする側は当然大会を勝ち上がるためにチーム力を強化するのが目的であり、レンタルされる選手からすれば高いレベルの大会に出場でき、プロ野球のスカウトに実力をアピールする絶好のチャンスとなります。大会中の怪我のリスクなどはあるとしても、所属チームとしては他チームで得た知見や経験をチームに還元してくれることを期待して送り出すため、それぞれの立場で有意義な制度となっています。
企業においても補強選手制度のような出向は存在します。有期限の地域プロジェクトに参画するための外部団体への出向などはその一例です。経験豊富で多くの知見を持った社員が地域や社会に貢献できるとともに、その道の第一人者として認められる機会にもなり、本人のモチベーション向上につながります。中堅やベテラン社員もまた出向によって自身のキャリアアップを図ることができる可能性を秘めているのです。
足元のビジネスの観点、長期的な人材育成の観点、そして個人のキャリア形成の観点、それぞれのバランスをとって、適切なタイミングで出向による成長の機会をつくり、その意義を本人に理解、納得させることが、経営者やラインマネージャーに求められる大切な仕事になってきていると思います。
2025年6月
ライター
代表取締役社長
瀬川 文宏
2002年 SO本部システム技術部長、2008年 取締役、2015年 専務執行役員、2017年3月より専務取締役、2021年3月代表取締役社長に就任。現在に至る。
持ち前のガッツでチームを引っ張る元ラガーマン。
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