社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2015年11月01日

ITによる戦略的農業と美しい日本の風景

秋の棚田

秋本番、天候も良く、山々が赤く色づく季節です。山を歩くには一番好きな季節ですが、加えて豊穣の季節でもあります。コシヒカリやあきたこまちをはじめ、各地で色々な美味しい新米が出回る季節でもあります。お米と言えば、TPP交渉の大筋合意が頭をよぎります。今後各国が批准に向けて国内での調整に入るのですが、日本はTPP合意で95%・約8600品目が関税撤廃となり、農産物に限れば8割が対象となります。

これを聞いて思い出すのは、今から十数年前の秋にカナダに出張した際、せっかくだからと合間の休日にトロントからナイアガラの滝までバスの日帰りツアーに参加した時のことです。ナイアガラの滝への道中、滝から上がる水しぶきがまるで雲のよう見える辺りで、道路の両側に延々と背丈を越える雑草が生い茂った荒れた土地が続いていました。ガイドの説明によると、昔は一帯が美しい果樹園だったそうですが、北米自由貿易協定(NAFTA)の影響で安い果物がメキシコから入ってきたために廃業したそうです。NAFTAは1994年にアメリカ、カナダ、メキシコ間で発効し、現在でもその功罪は立場によっていろいろあるようです。農業全体としては、カナダからアメリカへの輸出が増えて良かったと言えるのですが、農業には、国土保全や美しい景観を守るという意味合いもあり、経済効果だけで測れないものがあります。

日本でも今日、TPPの影響以前の問題として農業の衰退の問題があります。美しい棚田も実際には色々な支援がないと高齢化した農家だけでは守りようがないのが実態とのこと。農業従事者の平均年齢は66歳であり、いままでの保護政策だけでは内部崩壊するのが目に見えています。これからはいかに競争力のある農業を生み出すか。近代国家となり工業国化した日本で外貨を稼ぐ製造業の位置づけは重要であり、その競争力を保つ上で自由貿易協定は有利に作用するのでしょうが、農業はどうでしょう? ドイツも工業国であり、製造業はGDPの29%(日本は約18%)を占めますが、一方で農業では世界4大輸出大国であり、食料自給率はエネルギー換算で90% (日本は39%) に上り、非常に生産性が高いです。国土の3分の1が森林に覆われているドイツと国土の3分の2が山地である日本との違いもあるのでしょうが、日本でも従来とは違う農業振興政策が必要なのは各方面で言われている通りです。

農業におけるITの活用は、昨年10月の当コラムで少し触れさせてもらいましたが、ますます活発になってきています。今後課題になる保護ではなく、攻めの農業(TPP合意から政権もこのトーンに変わってきたと感じます)にITは貢献できる可能性を持っていると思います。銘酒「獺祭(だっさい)」の旭酒造さん(山口県岩国市)では原料の山田錦を確保するために、IoTを活用したシステムによって経験豊かな農家のノウハウを伝授することで、栽培が難しいと言われている山田錦の栽培農家を増やそうとされています。農機具のクボタさんでは田植えや刈り取りに使うコンバインとスマートフォンを繋ぎ、作業実績や育成状況、気候などの情報を吸い上げ、それをデータベース化し、最適化の情報をスマートフォンを経由してコンバインに送り、最適量の肥料を場所ごとに施したり、刈り取りの時期を指示したりして生産性を高める仕組みを農家に提供しています。今後、農産物の輸入品との差別化、輸出競争力を高めるためにはこのようなITの活用がますます有益なものとなるのでしょう。

IoTは2020年には世界で200兆円のビジネスを作り出すと言われています。農業もそこから生まれる数々の技術を活用し、自然を相手にするもっともアナログな仕事からデジタルを活用して生産性や品質を高める時代になっていくのではと思います。それによって、国土が守られ、代々引き継がれてきた美しい景観を守っていくことにつながればと念じています。


2015年11月

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