社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2023年12月01日

史上最多のドラフト1位を輩出した東都大学リーグ
~厳しい競争環境での負けない戦略~

冬景色

今年も10月26日にプロ野球ドラフト会議が開催され、支配下、育成を含めて122人の選手が指名されました。特にドラフト1位では東都大学リーグから史上最多、7人もの選手が指名されました。東都に限らず、同一連盟からの1位はこれまで4人が最多だったのを大幅に上回り、しかも全員が投手というのも驚きでした。これに対し、東京六大学リーグからは内野手1人のみ。「人気の六大学、実力の東都」と言われることがありますが、今年のドラフト会議では明暗がはっきりと分かれる結果となりました。しかも、この7人は高校時代、そこまで注目された投手でもありませんでした。「戦国東都」と言われる厳しいリーグで4年間もまれたことで大きな成長を遂げたのです。

同じ神宮球場を主戦場とする東京六大学リーグと東都大学リーグですが、土日に神宮球場で試合できる六大学に対し、東都は平日開催です。そして一番の違いは入れ替え戦の有無です。常に決まった6校で戦っている六大学に対し、東都は22大学が1部から4部に分かれて戦い、最下位になると下部の1位との入れ替え戦が待っています。特に1部から2部の上位までの10校ぐらいはほとんど実力差がなく、一度2部に落ちると簡単には戻れないうえに、2部以下の試合ではほぼ神宮球場は使えず大学のグラウンドで試合することもあります。こういった厳しい環境ゆえに、どの大学も優勝を目指しながらも、まずは“入れ替え戦回避”を意識します。
今秋の1部リーグ戦はいつもにも増して大混戦で、優勝した青学大が7勝5敗の勝ち点3で最下位の東洋大が5勝7敗の勝ち点2。この中に6校がひしめき合った結果、勝ち点3の優勝、勝ち点2の最下位といずれも異例のケースとなりました。勝率で最下位となった東洋大と2部1位の駒大との入れ替え戦も1勝1敗1引分けで4戦目までもつれ、最後も延長10回タイブレークで駒大の逆転サヨナラ勝ちという本当に紙一重の戦いとなりました。

まさに1勝の重み、1敗の重みを感じる結果となりましたが、そんな厳しい環境で生き抜くために大事なのは「勝つ」ことよりも「負けない」ことなのです。
「勝たんと打つべからず。負けじと打つべきなり」とは吉田兼好の『徒然草』の第百十段の一節で、「勝とうと思って打つな。負けないようにと思って打て」という双六(すごろく)の名人から聞いた言葉とされています。要は、勝敗はコントロールできないが、勝つ時は相手のミスによって勝ち、負ける時は自分のミスによって負ける。だからこそ絶えずミスをしないよう最善を尽くすことが大切であるという教えだと思います。
故・野村克也監督が試合後の反省に良く引用した「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」。第9代平戸藩主、松浦静山が書いた「常静子剣談」の一節ですが、この言葉もまた、負けた時には必ずミスや失敗があるので、敗因を十分に分析し今後に活かしていくことの重要性を説いたものだと思います。
ビジネスの世界でも同じです。成功事例の再現性は低く、失敗事例は再現性が高いと言われます。過去に成功した人たちのアプローチを踏襲しても、時代や外部環境など前提条件が異なるため上手くいくとは限らない。一方で、過去の失敗事例を分析し体系化すれば、その教訓を活かし同じような失敗は避けることができるはず。近年、企業が品質管理や顧客管理などのシステムを導入しているのは、様々な失敗を見つめ直し、その中から教訓を導き出して共有し失敗の可能性を減らしていく、そんな「負けない」ためのアプローチとも言えるでしょう。

勝つことよりも“負けない野球”を目指し、1球の重みまでも常に感じてプレーする東都の投手は、自然と制球力が磨かれます。攻撃陣も1点にこだわってバントや進塁打を多用するので、それに対応する投球術も磨かねばなりません。リーグ戦ながら、負けたら終わりのトーナメント戦のような戦いの中では、苦難に直面しても決して諦めない強靭な精神力も養われます。そしてチームは、“スランプはない”と言われる守備力を磨いた「守りの野球」を目指します。厳しい競争の中で最上位の1部リーグに留まり続けるためには、やはり守備力とそれを支える精神力が欠かせないのです。

「勝つ」というのは一時的なことですが、「負けない」というのは長期的な状態です。長期的に成功を持続するためには、まずは大きな失敗をしないことが大切です。大きな失敗は、組織や個人の存続にかかわる痛手となり、敗者復活の権利を永久に放棄することにもつながってしまいます。守りを固めて失点を最小限にすることで挽回のチャンスが与えられるのです。

最後に、日本電産(現:ニデック)の永守重信氏は著書の中で、「自分は周囲が驚くほど怖がりだ。しかし、経営者の素養として臆病さは極めて重要である」と述べています。臆病ゆえに「まさか」という最悪の事態を想定して、そこに対する守りを固める。業界を席巻するような華やかな目先の成功よりも、大局的な視野に立って、最悪の事態をたくさん想定してそれに耐えうる「負けない」会社を作っていく。そうすることで持続可能な企業として成長できるのではないでしょうか。

2023年12月

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