社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2024年03月01日

ラグビー、イングランド代表が極めたシンプルな戦略
~挑戦者の「凡事徹底」~

ラベンダー,花束

前回のコラムで高校サッカーの青森山田など、当たり前のことを徹底してやることが王者の強さを支えていることに触れました。見ている人に「面白くない」と言われても、勝利のために必要だと思ったことは愚直にやり切る。これは劣勢と思われていた者が強者に対して立ち向かう時にも重要な戦略となっています。

昨年のラグビーW杯フランス大会のイングランド代表はその典型かもしれません。優勝候補の筆頭であった開催国フランスを決勝トーナメントの1回戦で破った南アフリカとの準決勝。劣勢と思われたイングランドは南アフリカに対してボールを展開せず、試合開始から終始ハイボールのキックを蹴り続けました。なんと試合中にイングランドがボールを持つと93%がキックを選択、パスもランもほとんど無かったのです。当然、イングランドの得点は全てキックによるものでトライはゼロ、南アフリカのゴール前まで攻め込んだのは90分間のうちわずか73秒しかありませんでした。それでも結果は15-16。最後は1点差で逆転負けしましたが、退屈なほど徹底したキック戦法で、優勝国・南アフリカをあと一歩まで追い詰めたのでした。

高校野球では1973年のセンバツ準決勝、広島商が当時「怪物」と言われた江川卓投手を攻略して作新学院に2-1で勝利した試合が有名です。名将・迫田穆成監督は「江川を打てなくも勝つ」ためにどうするかを考えた末、とにかく球数を投げさせることを徹底させました。高めの球は振りにいっても空振りするだけなので手を出さない。きわどい低めの球は途中でバットを止めてファウルにする。ボールを見極めてカットすることで、江川投手のスタミナを奪うことだけを狙ったのです。その結果、5回までに106球を投げさせることができ、最後は相手のミスを誘い、わずか2安打で勝利したのです。

挑戦者が強者に対して勝利をおさめるために何が必要かを考え、それを徹底して行うことはとても重要です。「我々にはこれしかない」と戦法を定め、信じて疑わず、愚直に貫き通す姿勢は次第に相手を焦らせ、ミスを誘発します。強者をその状況にまで引きずりこめたら挑戦者に必ず勝機が生まれてくるでしょう。「愚直」の先には「極み」があり、そこにこそ勝利や成功が待っているのです。

実は2020年12月に行われたラグビーの「オータム・ネーションズカップ」でも、優勝したイングランド代表の徹底したキック戦術とディフェンス偏重の戦い方に批判の声が相次ぎました。これに対し当時のエディー・ジョーンズHCは「観ていて面白いプレーをしても、試合に負ければもっと批判される」と一蹴しました。また、その戦い方に疑問を投げられた時には「現在のラグビーでは、効率的なキックをより多く蹴ったチームが勝つことになる」とシンプルな戦術の有効性を説明しています。

環境変化が激しく、不確実性の高いビジネスの世界でも、市場に対応しながら多くの競争相手に勝とうとすると戦略は多岐に渡り、複雑に絡み合うことになります。複雑な戦略を実行するためにはどうしても複雑な仕組みになってしまい、組織やメンバーの足並みが揃わず戦略の実効性も低くなってしまいます。特に挑戦者の立場にある企業がこのような状況に陥ってしまうと、もはや勝負になりません。
そのような状況を回避するためには、やるべきことをなるべくシンプルにすることが大切です。戦略をシンプルにすることでメンバーの判断や行動が迅速かつ的確なものになります。そして自分たちがやるべきことをひたすら信じて愚直にやり続けることができれば、最後には組織全体で戦略を極めることができます。 ただ、戦略のシンプル化には今まで続けてきた習慣や考え方、思いを一旦断ち切る必要があります。過去からの複雑なしがらみを残したままではシンプル化は不可能です。まずは今まで正しいと思ってやってきたことを全て否定してみる。そして時代に合わなくなっているものや複雑になった社内の仕組みなどを思い切って排除することで、はじめてシンプルな戦略が実効性を持ち、厳しい競争環境に適応できるのです。

王者にとってだけでなく、挑戦者にとっても大切なことは「凡事徹底」。社員全員が1ミリも迷わず、愚直に自分たちの戦い方を徹底できるかが勝負の分かれ目です。勝つためには既存の事業戦略に新たなものを上乗せした複雑で八方美人的な経営戦略ではなく、それまでやっていた何かをやめる決断と実行、そのうえで可能な限りシンプルな経営戦略を描くことが重要だと考えます。
シンプルな戦略を愚直に極めるまで、日々地道に努力できることこそ「強さ」であり、挑戦者が「勝者」となる近道なのかもしれません。

※:「判官びいき」に負けない青森山田サッカーの強さ
https://www.kobelcosys.co.jp/column/president/20240201/

2024年3月

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