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2013年09月01日

バリューチェーンと価値提供(2)
垂直統合か、水平分業か?

企業は自社にとって最適なバリューチェーンを設計していく必要があります。特にメーカーの場合は、「垂直統合か、水平分業か?」の選択を迫られることがよくあります。今回はものづくり、コトづくりの視点から、「垂直統合か、水平分業か?」について考えてみましょう。

「垂直統合」とは、製品を供給するためのバリューチェーンに必要な活動の範囲を広げること、あるいは付加価値の源泉となる活動を取り込むことをいいます。以前のコラムでご紹介したスマイルカーブで見ると、製造から川上や川下に活動を広げる方が得られる価値は高くなります。また、メーカーは川上の原材料供給業者からは高値での納入、川下の卸・小売業者からは安値での供給を求められます。そのため、川上や川下の活動を自社に取り込むことは、バリューチェーン全体としての中間コストを抑えるとともに、利益確保、製品の安定供給にもつながります。ユニクロ社のような製造小売業は、商品企画から生産、販売までの活動をすべて取り込んだ「垂直統合」モデルの例と言えます。

「垂直統合」はバリューチェーン全体の中間コストを抑え、利益のすべてを享受できます。商品コンセプトに沿った開発・部品製造・組立を一貫して行えるため、ものづくりとしての完成度が高くなります。さらに、ブランドや品質・納期なども統制・管理でき、コトづくりでの商品価値も高まります。製造ノウハウを組み込んだ工作機械を自社開発し、開発から製造・販売までの活動をすべて自前で行うことで、高収益と高いシェアを長期にわたって確保しているメーカーは最近でも結構見かけます。このような「垂直統合」メーカーでは、技術やアイデアが企業内に蓄積され、機密となるノウハウが社外に漏れるリスクも小さくなるため、企業の競争力をより長く保つことができます。

しかしながら、「垂直統合」は初期設備投資や固定費などの負担が大きくなります。投資回収の期間が長くなることから、競争や市場ニーズが大きく変化した場合の対応が難しくなります。

技術革新スピードが速くなり、製品のライフサイクルが短くなり、価格競争が激しくなってくると、すべて自社で開発・生産するモデルでは限界があります。図1のような「水平分業」は開発・設計、部品製造、組立等の活動ごとに、複数の企業が得意分野を受け持つモデルです。自社内の開発・製造の一部または全部を外部企業に委託することになり、製造をすべて外部企業に任せるファブレス企業はその典型例となります。

水平分業のバリューチェーン例
図1.水平分業のバリューチェーン例

「水平分業」では、自社バリューチェーンの付加価値につながらない活動を外部企業に委託し、自社はより付加価値の高い活動に集中することで、付加価値の高い商品を提供することができます。設備投資も抑えられ、市場変化へのリスクも軽減できます。受託する企業にとっても自社が得意とする分野に特化できます。特定分野の部品のものづくりで差別化技術をもつ部品メーカーは、自動車メーカーや家電メーカーなどからの多様なニーズに対してニッチ戦略をとることができます。一方、「水平分業」のデメリットは、増減産などへのきめ細かな対応や、クレームへの対応が迅速に行えないことです。このためバリューチェーン全体のコントロールが必要となります。また、最終製品メーカー内に必要な技術・ノウハウが、徐々に空洞化していくリスクもあります。

「水平分業」の例として分かりやすいのはパソコン業界のデル社です。デル社のバリューチェーンの特徴は直販モデルとして最終顧客と接点を持ち、マーケティング・受注・顧客サポートを自社で行い、部品・組立・物流は外部企業との戦略的提携により受注生産サプライチェーンを実現していることです。標準化の進んだPCのものづくりは低コスト化を図り、顧客サポートなどのコトづくりを重視していると見ることができます。

それでは日本のメーカーは今後「垂直統合」、「水平分業」のどちらに向かうのがよいのでしょうか?この答えを出すヒントがアップル社のiPhoneのバリューチェーンにあると思います。

アップル社のバリューチェーンは外見上、製造を外部企業に委託する「水平分業」に見えます。しかし、アップル社はCPUもOSも独自技術を使用し、こだわりのデザインや高い品質のために必要な工作機械はアップル社が購入し、製造委託先の品質については徹底的に管理しているといわれています。つまり「水平分業」を行いながらも、差別化につながる「ものづくり」と「コトづくり」の活動については、実質的に「垂直統合」を保っていると見ることができます。

「垂直統合」と「水平分業」をうまく使い分けている例は、日本の自動車メーカーにも見られます。これらは日本メーカーに大いに示唆を与えてくれます。

次回はブランドについてお話しする予定です。

2013年9月

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