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2013年10月01日

ものづくりとブランド力

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一般にブランド品と呼ばれている商品は、多くの人に何らかの高い価値を認めてもらえている商品です。商品としては同じ機能や性能をもっていても、ブランド品であれば高い価格で買ってもらうことができます。つまり、商品の機能的価値が同じであっても、意味的価値が高ければ商品の価値は高まります。意味的価値は主観的なもので、これを高めるためには、その商品が人間の感性や情緒に訴える魅力を持っていることが必要となります。

日本製の腕時計は1日に1秒と狂わない高精度のクオーツ(水晶)技術やソーラー電池、デジタル時計など、技術革新において世界をリードしてきました。技術革新と大量生産技術に優れた日本メーカーの腕時計駆動装置は世界の有名メーカーでも使われており、数量ベースでは世界の過半数のシェアを持っています。しかし、金額ベースでは、スイス製の腕時計が圧倒的なシェアを占めています。日本国内を見ても、スイス製の腕時計は数量ベースのシェアは少なくても金額ベースでは70%近いシェアを占めています。機械式、クオーツ式に限らずスイス製の腕時計は日本製より何倍も高価であり、この価格差の要因はブランド力にあると考えられます。

腕時計に限らず日本のメーカーはブランド力を強化していくことが必要となります。いいものを安く、大量に生産することを追求してきた日本のメーカーは、ブランド作りはあまり得意ではありません。欧州の伝統ある企業のブランド力に劣るのはまだしも、最近はアジアの企業でも日本メーカーのブランド力を上回るところがでてきました。

「ブランド」という言葉はよく使われますが、ブランドとはそもそも何でしょうか?商品のネーミングや広告・宣伝によって築かれるイメージ、商品についているロゴマークのことを思い浮かべるかもしれませんが、そうではありません。ブランドとはターゲットとするお客様層に対して差別化された提供価値を約束するものであり、お客様が様々な接点(商品、販売チャネル、コミュニケーション、利用等)を通じて得られた経験から、お客様自身が心の中に築き上げていくものです。ブランドとは企業が持つものではなく、お客様の心の中にあるものといった方が適切かもしれません。お客様が商品の良さを認識し、その商品や企業に信頼や好意的なイメージを抱き、他社商品より高い対価を払ってもその商品を購入する場合、ブランド力があるといえます。ブランド力があれば、お客様に「これ以外は要らない」と言わしめ、お客様との強い関係性を構築することができます。その結果、企業は価格競争に巻き込まれることなく、継続的に高収益を上げることができます。

それでは、なぜスイスの腕時計はブランド力が強いのでしょうか?実は日本とスイスは時計をめぐって長年の戦いを繰り広げてきました。1970年頃、世界の腕時計市場は、精巧な歯車やベアリング、ゼンマイを作る技術をもつスイスの牙城でした。日本の機械時計はスイス製と比肩する技術レベルにありましたが、世界のシェアは1%未満でした。日本の腕時計メーカーが飛躍したのはクオーツ技術の採用によります。

もともとクオーツ技術はスイスで生まれた技術ですが、機械式時計に自信をもつスイスの腕時計メーカーはすぐに採用しませんでした。クオーツ技術を腕時計に実装し、量産化したのは、小型化技術に優れた日本の腕時計メーカーです。クオーツ時計はベアリングやゼンマイも必要なく、機械時計と比べものにならない高精度と低価格であるため、瞬く間に世界中の市場に広まっていきました。日本の腕時計メーカーは市場の主導権を握り、クオーツ式腕時計の大量生産へシフトすることになります。

クオーツ技術の波に乗り遅れたスイスの腕時計メーカーは、その後ブランドを磨くことに専念してきました。スイスのメーカーは一旦壊滅的な状態になりましたが、国策としてメーカー部品や駆動部品、完成品の組み立てといった役割ごとに各時計メーカーがグループ化され、水平分業のバリューチェーンが構築されました。これにより、個性のある製品を少量生産できるようになりました。また、この水平分業により、スイスのメーカーはターゲットとなるお客様を絞った、カスタム化された戦略を展開することが可能になったのです。一例として、日本のメーカー等の低価格帯の腕時計に対抗するためファッショナブルで安価な腕時計を発売し、このデザイン性に優れた腕時計は日本でもブームとなりました。さらに、クオーツ時計により腕時計自体が身近になり、高精度も当たり前となり、クオーツ時計がコモディティ化してきたのに対し、スイスのメーカーが大切に蓄積してきた機械式腕時計の伝統技術やその美しさなどの意味的価値が高まってきたと考えられます。

日本には伝統技術に優れたメーカーが多くあり、スイスの腕時計メーカーのようにブランド力を強化していくことで、グローバルでの競争力や収益力を高めていくことができるはずです。次回はブランド力の強化についてお話します。

2013年10月

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