ものづくりコラム 設計、生産管理、原価管理などものづくりに関するトピックを毎月お届けします。

2024年03月01日

自動車の電動化:ゲームチェンジのリアルと学び

自動車産業は、製造立国である日本の経済、雇用を支える重要かつ最大の基幹産業です。その自動車産業は、今100年に1度の大変革、CASEの真っ只中にいます。これら4つの変革はそれぞれが大きな変革ですが、中でも電動化は他の変革のベースになると共に、最優先課題である脱炭素対応と相まって、ゲームチェンジが本格化しています。今回は、このゲームチェンジがどのように進んでいるか、そのリアルを見つめ、そこからの学びを考察します。

自動車産業のCASEにおける電動化

図表1:自動車産業のCASEにおける電動化

まず自動車の電動化は、大きく4種類あります(図表2参照)。FCV とEVはモーターのみで動き、炭素は排出しません。しかし、現時点ではエンジン車に比べ航続距離が短く、充電スタンドの設置状況に影響を受けます。PHEVやHEVの実態はエンジン車で、モーターにより燃費が改善されるため、CO2排出が軽減できます。航続距離や充電スタンド設置状況の心配はなく、FCVやEV 程価格は高くなりません。

自動車の電動化の種類図表2:自動車の電動化の種類
(クリックして拡大できます)

各国は2035年の温暖化ガス排出量削減の目標に合わせて、それぞれ新車販売可能な電動化の種類と割合を設定しています。最も環境規制の厳しいEUでは、FCVとEV以外の車は、PHEVやHEVであっても2035年以降の新車販売はできなくなります。中国や日本はFCVとEVだけでなく、PHEV或いはHEVも2035年以降販売可能です。また、米国は、FCV、EVそしてPHEV が2030年に50%以上になるように目標設定され、カリフォルニア州など州によっては更に厳しく規制されています。もちろん各国は規制するだけでなく、電動化を促進すべく購入補助や税制優遇策を合わせて導入しています。

各国・地域の電動化の実績と目標図表3:各国・地域の電動化の実績と目標
(ソース:各種統計・調査資料等を基に作成)
(クリックして拡大できます)

FCVやEVになると、その主要部品やサプライヤーが従来のエンジン車から大きく変わる、“製品のゲームチェンジ”が起こります。では、各国ではEVとPHEVはどの程度普及しているのでしょう。2022年の新車販売実績では、EV/PHEVの比率は世界全体で14%程度でした。最もEV/PHEVが販売されたのは中国の約26%で、環境規制の厳しい欧州は約21%、米国は約7%です。各国に比べ日本はまだ3%程度で、2030年には10%を超えると予想されているものの、ゲームチェンジは進んでいません。EVの価格の高さ、航続距離の短さが理由に挙げられますが、これは他国でも同じです。日本特有の理由として、自宅での充電ができない集合住宅の多さ、そして何よりもHEVという強力な選択肢の存在が考えられます。

次に、“ビジネスのゲームチェンジ”はどの程度進んでいるでしょう?自動車の輸出国として2016年から首位の座を守ってきたのは日本でしたが、コロナ禍以降EVで輸出を大きく伸ばしてきた中国が2023年首位の座を奪いました。中国は、販売、生産の面では既に自動車大国でしたが、さらに狙い通りEV強国になりつつあります。これまで中国では、EV生産を促すために、新工場はEVしか認めず、自動車メーカーには一定比率のEV製造を義務付けました。また、総額6兆円の販売補助金を投じ、ナンバープレート交付でもEVを優先するなど強引な販売促進策を打ってきました。これらの策が功を奏し、ドイツや日本に代わり中国が自動車強国となる、“ビジネスのゲームチェンジ”が明らかに起こりだしています。

主要自動車輸出国の輸出台数推移図表4:主要自動車輸出国の輸出台数推移
(クリックして拡大できます)

これまで追い風ばかりの中国の電動化ですが、最近逆風がいくつか吹き始めています。その1つが欧州で検討されている中国EVに対する関税です。EUで中国から輸入される低価格EVに対する関税など保護主義が強まると、これまでのEV普及スピードも鈍ってくる可能性が高くなります。2つ目の逆風が中国景気の減退に伴い、今までのような政府支援が期待できなくなることです。

そして3つ目がEVの大衆車化要請です。この3番目の逆風は、中国だけでなく世界中どの国でも共通であり、これから本格化するEV普及において、その価格と航続距離が課題となります。EVが特別なものから一般品になると、当然手頃な価格が求められます。コストダウンや航続距離向上を大きく左右する基幹部品はバッテリーです。現在のバッテリーに使われるリチウム、ニッケル、コバルトなどの原材料の採掘や精錬地域は限定的で、需要が高まればコストは高騰します。

自動車の電動化はまだ序盤ですが、ゲームチェンジは単純には進まないということが改めて分かりました。EUでは順調にEV化が進んできましたが、今後はEV購入に対する補助金や税制優遇が縮小されていきます。実質的にEV一択で進んでいくものと思われていた電動化ですが、航続距離や充電インフラ整備が追い付くまではPHEV、HEVも有力選択肢として残りそうです。全固体電池などの技術革新に加え、各市場の環境規制や補助金・税優遇策、充電インフラ整備度合、そして各国政権の方針、グローバル・サプライチェーンの状況などで、ゲームチェンジのあり方も大きく変わっていきます。事業環境変化が見通し辛い中では、複数のシナリオを用意して変化に応じて柔軟に対応できる構えが必要です。不透明だからといって、出遅れは許されません。電動化のような大きなゲームチェンジが起こっている環境では、戦略遂行タイミングを逃すとその代償はとてつもなく大きいものとなります。自動車業界のゲームチェンジは、どの製造業にとっても起こり得るモデルケースとして、注視していきたいものです。

2024年3月

ITの可能性が満載のメルマガを、お客様への想いと共にお届けします!

Kobelco Systems Letter を購読