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2023年09月01日

沸き立つAIブームはどこに向かう?

私たちは今、AIブームの真っただ中にいます。この10年、AIが人間の碁やチェスのチャンピオンに勝利し、顔認証、自動翻訳、自動運転の実用化が始まり、家庭ではAI家電が暮らしを豊かにしています。そして、最近は生成AIがそこに加わり、日本が、そして世界がAIブームで沸き立っています。

実は、AIブームは過去にも2度ありましたが今回は3回目となります。第1次、第2次では、AIがやがて人間の知的活動を代替し、人間の頭脳を超えることもあり得ると期待されました。第2次ブーム時には、日本でも大規模なAI国家プロジェクトが実施されました。結果、理論的には分かっていても、当時の技術や計算能力等の限界から広く実用されるまでには至らず、どちらのブームも10~15年で終焉しました。では、今回の第3次AIブームは今後どうなるのでしょう?

過去3回のAIブーム図表1:過去3回のAIブーム
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生成AIの勢いを駆って、AI導入がますます進み、人の仕事を次々と奪ってしまうのではと危機感を覚えるほど一気に普及していくのでしょうか?いやいや、盛り上がりが早いほど、熱が冷めるのも早くなるのが通説。生成AIの実用的でない面が目立ってくると、過去2回のAIブーム同様、結局一過性で終焉に向かうことも十分考えられます。今回は最近注目を浴びる生成AIに焦点をあてつつ、第3次AIブームの今後の見通しについて考察します。

まず、今後もブームが加速していくシナリオを見ていきます。昨年末の公開から僅か2か月で1億を超えるユーザーを獲得したChatGPTを始めとする生成AIに対する期待は、明らかにAIブームを後押ししています。その要因の一つが「AIの民主化」です。生成AIサービスが広く、無料で提供されたことで、誰もが身近にAIを使い、その利便性を享受できるようになりました。これまでもAI開発用のフレームワークなどは一般に提供されてきましたが、現在の生成AIは誰でも簡単に使えます。あたかも人間のように答えが返ってくる斬新さ、その回答内容のレベルの高さを実感できます。このようにAI利用のハードルがどんどん下がり、「AIの民主化」が進んできたことでその活用が加速しています。

ブームを加速しているもう一つの要因は生成AIがもたらす機能的価値です。これまでAIは言語や画像の認識機能そして数値やニーズの予測機能を得意としてきました。これらに加え、人間と見分けがつかない会話表現やコンテンツ作成能力が強化されました。この機能強化はAI実用化を促進し、大きな経済効果をもたらすとの予測がされています。例えば、大手金融機関は、生成AIにより世界全体で生み出される製品とサービスの総価値が今後10年以内に7%向上すると予測しています。また、有名コンサルティング会社は、世界で英国のGDPに相当する経済価値を毎年作り出すと試算しています。数年前にもAIによって多くの仕事が代替されるとの予測が発表され世間を驚かせましたが、今回の生成AIの登場は、これまで代替が難しかった業務まで、代替可能性が高まると見られています。

これまでのAI、そして生成AI適用によって代替可能な業務図表2:これまでのAI、そして生成AI適用によって代替可能な業務
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一方、上記見通しとは逆に、そろそろAIブームにブレーキがかかる可能性も十分あります。まず考えられる要因が、作成コンテンツや実用性に対する期待外れです。生成AIは一見そつなく回答してくるのですが、よく見ると中身がなく、間違いも含んでいるとの評価があります。人が作成した回答だと、納得できない点はその論拠を説明してもらうことができますが、生成AIだと基本的に説明はありません。こういった特徴は、シックス・シグマ(6σ)を目指す品質管理や改善を大事にするものづくり企業にとっては、あまり馴染めないと思われます。

もう一つのブレーキ要因が、生成AIで特に議論を呼ぶ、倫理的・法的・社会的課題(ELSI)による使用の抑制や法的規制です。AIの学習データとして使われるコンテンツの著作権やプライバシー、セキュリティが守られないリスクがあります。また、機械学習全般において、⼈種、ジェンダー、外⾒等に関する既存の社会的バイアスや不公平を増長させるリスクが存在します。アメリカ大統領選挙でも問題視されたフェイクコンテンツが一層蔓延する、情報環境汚染リスクを従来以上に高めることになります。そして、AIの学習や出力生成で使われる高速コンピュータは、膨大な二酸化炭素を排出し、自然環境破壊を増長させます。

参考までに、技術の普及度やトレンド遷移を示す、ガートナー社のハイプサイクルの今年度版を見ると、生成AIは「過度な期待」のピーク期に達しつつあります。一般的には、次に幻滅期を迎え、やがては市場でその重要性や役割が理解され、生産性の安定期に向かうことになります。当然ながら、そのスピード、タイミングは、市場や領域、用途、技術により異なります。AIといっても今ではその用途・技術は様々であり、そろそろ“AI”と一括りにして呼ぶのも考えないといけません。そして、各企業は単にブームやメディアの煽りに乗るのではなく、自社としての明確な導入目的・用途に沿って、AI技術を目利きし、評価し、見直していくことが王道となります。製造業として、そして各社がそれぞれの王道を歩まれること期待します。

2023年9月

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