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2023年08月01日

全社データ活用に向けた8つの成功要因

各企業がDXに取り組む中で、データ活用はその王道となります。製造業においても、品質検査や保守サービス、製品企画・開発等の部門ではデータ活用が行われています。このように一部事業や組織単位ではデータ活用が行われてはいても、全社横断でデータ活用ができている企業、実際に成果が出ている企業となるとまだまだ限られています。利用データについても、生産・販売・会計など基幹システム・データが対象で、IoTデータや画像データ、SNSなどの非構造データ・外部データを活用できている企業は限定的です。今回は、全社データ活用に向けて、どのように進めていくべきかを考察します。

多くの企業がデータ利活用に取り組んでいますが、取り組み状況はこの2~3年大きな進展が見られません。組織横断的にデータ活用の環境整備を行い、成果を出している企業の割合はまだ1~2割に留まっています。企業のデータ活用の取り組みは、次段階に向けた踊り場にあると考えられます。

これまでと次段階のデータ活用イメージ図表1:これまでと次段階のデータ活用イメージ
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企業が目指す次段階の全社データ活用のイメージ例として、データを使って的確に意思決定する「データドリブン経営」、データ分析を実務に活かす「データドリブン思考」の実現が挙げられます。この段階では、各社員は自らの課題に対し、主体的にデータ活用を行って業務改善しています。また、部門横断的な課題に対しても、必要なデータを準備・分析することで重要課題を解決し、実用化できている組織となっています。

これまで、企業内でも研究開発や企画、品質など技術やデータ処理が得意な社員がいる部門では、データ利活用は実践されてきました。最近はリモート製品からデータを取得することで、機器の予防保守や稼働最適化サービスを提供する企業も増えつつあります。しかし、多くは、一般の社員が毎月の実績レポートを見ることはあっても、自分でBIツールを使って日常的に実績把握と課題分析をすることはほとんどありませんでした。ある部門が新たなデータ活用に取り組みたいときは、専門部隊に配置されたデータ・サイエンティストが現場に入り込んで、データ分析を直接支援してきました。また、データ分析結果はそのまま現場業務の実運用に至らず、折角の成果が生かせていないケースも少なくありませんでした。

それでは、各社が次段階の全社データ活用を実現するためには、何をしていくべきでしょう?その成功に向けた要因は、下図のように8つあります。

全社データ活用に向けた8つの成功要因図表2:全社データ活用に向けた8つの成功要因
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これらの成功要因は、上に位置するソフト面の3つの要因と、下にあるハード面の5つの要因に区分けされます。ソフト面では、まずその企業のデータ活用のビジョン・戦略の有無や浸透、次にデータ利活用に関する企業内の価値観や気運の醸成、3つ目として、社員のデータ分析のスキルやリテラシーが成功要因となります。一方、ハード面としてはBIやデータエンジニアリングなどのツール・技術の整備であり、データの種類や品質です。さらに、データ活用に向けた分析プロセスや推進体制の確立も不可欠であり、そして忘れがちですがデータ活用の目標となる成功指標、推進状況を評価するためのKPIの設定・運用も重要な要因となります。

ハード面の成功要因の一つであるツール・技術は、最近は容易化・自動化が進み、全社データ活用にむけたフォローの風が吹いています。

データマネジメント技術の民主化図表3:データマネジメント技術の民主化
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これまで、データ活用する際は、データエンジニアリングやデータアナリシスといった技術に明るいエンジニアに頼らざるを得ませんでした。今後データマネジメント技術は簡易化され、必ずしも専門エンジニアを必要としない方向に進化しつつあります。つまり、データ・サイエンティストのような専門家でなくてもビジネススキルを持っている業務部門の社員であれば、独力で実行できる「データ活用の民主化」の環境が整いつつあります。

しかし、例えツールが使い易くなったとしても、社員がデータ活用に無頓着では最新ツールも活かせません。ツール整備などハード面の取組みは「やってます」感が見せやすいのですが、ソフト面を忘れてはいけません。社内で共有される価値観や文化を変え、社員のスキルを底上げしていくためには、組織としての変革が必要です。社員に内包されている価値観や意識そしてデータ活用のリテラシーを一気に変えることは難しく、動機づけやリスキリングといった策を複合的に打っていきます。

データ活用を全社規模に拡大していくために、「新たに導入すべきBIツールやAI技術は何が良いか?」、「データ・サイエンティストは、あと何人必要なのか?」といったハード面の検討が手を付けやすく、先行しがちです。こういった手段を考える前に、先ず自社が目指すデータ活用の姿や目標を関係者間で明確化し、共有することが必要です。次に、「目指す姿や目標を各部門の現場社員はどう認識・意識しているか?」、「目指す姿に向けた阻害要因は何か?」を調査・分析します。このように、自社としての目指すゴールイメージとその実現ステップを描いた上で、そこに向けて整備すべきツール・技術、データ、プロセス、体制をデザインし、導入していくのがよいでしょう。

組織横断のデータ活用度合は、企業におけるDX推進のバロメーターです。各社がデータ利活⽤を次段階に進めることでDXの成果を着実に上げていかれることを期待します。

2023年8月

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