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2023年10月01日

科学的人材マネジメントに向け、人事データ活用を

多くの企業が直面している人材不足、リスキリング、ワークスタイル改革などの人事課題に対応するために、人材マネジメントが一層重要になっています。人、モノ、金は企業の重要な経営資源であり、どれもデータに基づく科学的なマネジメントを行うことが求められます。モノをマネジメントする生産領域やお金をマネジメントする会計領域では、既に製造データや会計データ活用の必要性が認識され、一定の取組みが行われてきました。しかしながら、人事データの活用は少し遅れ気味で、人材マネジメントにはまだまだ非科学的な面が多々見受けられます。従来の主観的、不透明な人材マネジメントから、客観的で、合理的な人材マネジメントにシフトしていくために、そろそろ人事データの活用を本格化していく必要があります。そこで、今回は人事データ活用のあり方について考察します。人事データ活用と会計や製造データ活用との共通点や差異についても見ていきます。

製造業では、少子高齢化に伴う人手不足、技能人材不足や製造現場への外国人の雇用、熟練技能者のノウハウ継承、世代交代など、これまでも人事面の課題を多々抱えてきました。さらに昨今はジョブ型雇用が求められ、副業やリモートワークは当たり前になりつつあります。また育児休業などに合わせた就業時間選択など多様なワークスタイルにも対応すべく、新たな人材マネジメントが求められています。一方で、現在の人事制度や人事業務には、年功序列や密室人事、新卒一括採用など一昔前の名残が根強く残っていることがあります。そこで、企業が客観的、科学的に人材マネジメントを行っていくためには人事データの活用が強力な武器となります。

では、新たな人事データ活用のあり方を具体的に見ていきましょう。次の図表は、人材マネジメントの領域における人事データ活用例をまとめています。

人材マネジメントにおける人事データ活用目的と活用者図表1:人材マネジメントにおける人事データ活用目的と活用者
(クリックして拡大できます)

図表の横軸は、人事データ活用の目的・用途を表します。例えば、「上司とウマが合わない」、「職場に馴染めない」、「企業のカルチャーが合わない」などの不満をよく耳にします。しかし、このような主観的、抽象的な主張だけだと、人材配置の適正化に繋がりません。そこでデータ活用による適材適所の人材配置の出番となります。職務と社員との適合度は、その組織でのパフォーマンス、活躍度とその社員の人物像をデータ分析することで評価することができます。活躍できている人、逆に活躍できていない人のスキル、経歴、評価、性格特性を分析することで、職務と人材の相関関係が見えてきます。新規事業に必要な即戦力の発掘、社内FA制度による埋もれていた人材の登用、海外拠点の隠れた幹部候補の抜擢など、目的・用途に応じた人事データを活用することで、適材適所の人材配置を行っていくことができます。

図表の縦軸が人事データの活用者です。この活用者は、主に経営層や人事部門に限られました。新たな人材マネジメントでは、多様なワークスタイルを持つ社員が、自主的に能力・スキルを高めていく必要があります。このため、今後は社員が自らのために人事データ活用を行います。例えば、自分に合った社内の職務や、自身が目指したい先輩社員を探し、そのスキルや経歴を自身のキャリアプランに活かし、社員自身の成長のためのポイントを見いだしていきます。そのために、人事データ分析に使われるデータの種類も広げていく必要があります。これまでの評価や経歴・研修歴といった基本データに加え、ワークスタイル情報や社員満足度調査、コンピタンス情報、社員行動ログなどが有用なデータとなります。

人事データ活用の進め方は、会計や製造のデータ活用と大きな違いはありません。まず課題認識・設定を行い、課題に対する効果、仮説を立て、そして費用に見合うかどうかの洞察を持った上で分析を進めることが必要です。特定データに絞ってBIツールで分析するもよし、複数の要因の組み合わせや重要度から予測の精度を高めるために、回帰分析や機械学習を利用することもできます。データ分析スキルを高めるには経験が必要です。いきなりホームランを狙うのではなく、まずはクリーンヒットを積み重ねていくのがよいでしょう。

ここで忘れてはいけないのが、人事データ活用の目的と活用者の明確化です。データ活用の目的と活用者が曖昧なままデータ収集し、闇雲に分析しても意味はありません。数年前にタレントマネジメントがブームとなり、多くの企業がシステム導入に走りました。結果的には、形骸化し、現場で使いこなせていない企業を多く見受けます。システムやツール導入を目的とするのではなく、データ活用の目的と活用する人をしっかり定めて取り組む必要があります。

これまで全社的な人事データ活用は、会計や製造領域に比べ遅れ気味でした。その理由として、人事データ活用には会計データや製造データ活用とは異なる、特有の留意点が2つあります。1つ目は個人情報の扱いで、その収集・保管・利用には留意が必要です。もう一つは、評価など主観的なデータを含むことが多いということです。会計や製造データは、実績としての事実データとその数値データが基本で、データ分析結果の解釈もし易いのですが、人事データはその主観性を考慮した分析を行う必要があります。

今や人材はコストではなく、人的資本です。日本の上場企業は、2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)により、人材投資を含む幅広い経営情報の開示を積極的に行っていくことが求められています。形だけの人材戦略では投資家に見透かされてしまいます。各社の人事部門、そして情報システム部門が主導して、戦略的な人事データ活用を推進していくことを期待します。

2023年10月

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