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2018年08月01日

EV時代のものづくり⑦
~素材力を活かし、事業領域拡大~

先月、世界で売る日本車すべてを2050年までにEVなどの電動車にするという目標が、日本政府より打ち出されました。この目標が他国に比べ積極的なものかは別として、世界的なEV普及の流れに乗り遅れないように、日本政府もやっと目標を表明したことになります。目標が明確となったEVですが、本格普及に向けてまだ課題があります。その一つが、1回の充電での走行距離を伸ばすことです。この課題解決には、以前のコラムで取り上げた車載バッテリーの高性能化※1と併せて、車本体の軽量化が不可欠となります。今回は、車体軽量化のための素材や素材メーカーの取組について見ていきます。

自動車は鉄やアルミ、樹脂、ガラスなど様々な素材から作られています。中でも鉄は、これら素材の中でも断トツに大きな重量を占め、自動車の種類によりますが車体全体の約7割を占めると言われています。鉄の次に重量割合が大きい素材は、アルミニウムやマグネシウム、そして炭素繊維です。車体の軽量化は燃費向上に直結するため、鋼板の強度を高めて板厚を薄くすることで重量を削減できるハイテンや、アルミニウム、炭素繊維などが採用される割合も徐々に増えてきました。今後EVシフトが本格化していくと、アルミニウムや炭素繊維の割合が一層増加していくものと予想されています。

表1.自動車素材の現状比較
アルミ 炭素素材
(熱硬化)
素材の単価比 1 3 数~数10
素材の比重比 1 1/3 1/4
自動車内
重量割合
7割 1割 1割
課題 重量 接合、成形
リサイクル
価格
製造工程投資
リサイクル

特に、鉄よりはるかに軽く、自動車の安全性に十分な強度をもつ炭素繊維は「未来の自動車素材」としてこれまでも注目されてきました。炭素繊維は、繊維単独で使用されるのではなく、樹脂と一体化させた複合材(炭素繊維強化プラスチック)として使われます。炭素繊維はすでに品質要求の厳しい航空機の素材として実用化され、身近な製品では、釣具やゴルフクラブにも使用されています。

今後、自動車素材として炭素繊維が本格的に採用されていくには、解決すべき課題がいくつかあります。1つ目の課題は価格の高さです。炭素繊維の製造時に必要なエネルギーコストの大きさや歩留まりの悪さから、現状では鉄に比べ相当高い単価になっています。2つ目の課題は、部品成型に多くの手間がかかり、大量生産に向いていないことです。自動車メーカーが炭素繊維を本格採用するとなれば、既存の接合工程や塗装工程を刷新するための投資も課題となります。また、現在では使用済み炭素繊維のリサイクルは難しく、ほとんど廃棄されていますが、日本のリサイクル法では、使用済み自動車の95%以上のリサイクルを求めています。炭素繊維の利用が増えてくるとリサイクル・システムの整備が必要となります。これらの課題から、炭素繊維を本格採用する自動車は、これまでは一部の高級車やレーシングカーに限られてきました。

このように、炭素繊維が自動車素材として普及していくには多くの課題があるものの、炭素繊維が有望自動車素材と見なされるのは、その高いポテンシャルにあります。最近も熱可塑タイプの炭素繊維が、米GM社のピックアップトラックに採用されることがニュースとなりました。これまで主流であった熱硬化タイプの炭素繊維は、過熱することで固まる硬化性の樹脂を補強材とするのに対し、熱可塑性タイプは過熱で軟化し、熱が冷め常温になると硬化する補強材が用いられます。この炭素繊維は、高温プレスですぐに部品成型でき、大量生産が可能となります。さらに、加熱することでリサイクルすることもでき、炭素繊維の課題解決に一歩近づくことになります。

実は、炭素繊維は日本で開発され、日本のメーカーが中心となって育ててきた技術であり、業界上位の日系3社で世界の6割以上のシェアを占めています。最近は中国を始めとしたアジアの企業も多く参入してきていますが、製品品質や供給力において日系メーカーとは大きな差があります。

優位性のある日本メーカーは、材料や素材の提供に留まらず、これからは次の成型加工まで担おうとしています。このように事業領域を拡大することで、製品の付加価値を高めるとともに、自動車開発の早い段階から関与でき、炭素繊維の新たな用途提案ができるようになります。つまり、素材メーカーは、これまでの自動車メーカーとの間接的な関係から直接的な関係となることで、ビジネスチャンスが広がり、結果としてビジネス拡大につなげていくことができます。日本の素材メーカーが次世代車の開発に深く関わり、先端素材の開発や製造を競いつつ、素材力の優位性を一層強固なものにしていけることを期待します。

素材力を活かし、事業領域拡大へ

図1.素材力を活かし、事業領域拡大へ

※1:EV時代のものづくり④~EV競争のカギを握るバッテリー~
https://www.kobelcosys.co.jp/column/monozukuri/20180501/

2018年8月

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