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2018年05月01日

EV時代のものづくり④
~EV競争のカギを握るバッテリー~

近い将来、世界の自動車市場がEV(電気自動車)にシフトしていこうとしています。そのとき、自動車部品市場はどのような変化が起こるのでしょうか?今回は、EV時代の自動車部品や素材の変化について見ていきます。

まず、EVになると130年前にガソリン車が出現して以来、自動車の代名詞でもあったエンジンがなくなります。エンジンは自動車メーカー各社がその性能を競ってきた中核部品であり、競争力の源泉でした。エンジンがなくなると、エンジンにガソリンを吹きかけるインジェクターなどのエンジン回りの部品も不要となります。さらにカムシャフトやギアなど変速機関連部品やマフラーなどの排気系部品も不要となります。逆に、EV時代になると大幅に需要が高まる部品が、EVの主要部品となるモーター、バッテリー、インバーターです。EVはバッテリーからモーターに電力を供給して車軸を動かす仕組みで、インバーターが直流電流を交流電流に交換し、周波数や電流量を調整することで、速度を制御します。

EVシフトで様変わりする部品構成

図1:EVシフトで様変わりする部品構成

このように、自動車がエンジン車からEVにシフトしていくと部品構成は大きく様変わりしていきます。市場規模で見ると約4兆円規模の自動車部品市場が消えていき、それ以上に大きな自動車部品の新市場が生れてくることになります。この自動車部品新市場には、従来の自動車部品メーカーだけでなく、異業種の電気機器関連メーカーが大きく割り込んでくる構図となります。前回のコラムでは、EV完成車市場でゲームチェンジが起ころうとしていると話しましたが、自動車部品市場でもゲームチェンジが起ころうとしています。市場において、部品メーカーの新陳代謝が起こることは確実で、各メーカーはリスクとチャンスを見極め、先手を打っていく必要があります。

EVシフトで需要が高まる部品の中でも、特に重要となるのがバッテリーです。これまでEVの普及を遅らせてきた理由として、1回の充電で走れる航続距離の短さ、充電時間の長さ、そしてEVの価格の高さがありました。最近は、航続距離400Km、充電時間数10分、車体価格300万円から400万円台と、市場に受入られるレベルになりつつあるものの、エンジン車に比べるとまだ見劣りがします。EVがさらに航続距離を延ばせるバッテリー性能が求められます。充電時間もまだガソリン給油時間よりかなり長く、将来EVが増えてくると充電スタンドに長蛇の列ができてしまいます。コスト面でも、車載バッテリーは、自動車製造コストの約半分を占めています。利用者にとって、バッテリーの寿命や安全性も気になります。今後EVが世界の幅広い購買層に普及していくカギとなるのがバッテリーの高性能化と低コスト化であり、バッテリーはEVの競争優位性を大きく左右する戦略部品となります。

現在のEV用バッテリーは、パソコン等でも使われてきたリチュームイオン電池が使われています。リチュームイオン電池は日本の研究者が実用化技術を確立し、日本メーカーが世界で初めて量産化しました。このように日本メーカーは車載バッテリーの技術や製造で先頭を走り、5年前までは70%のシェアを占めていました。しかし、最近は急伸する中国メーカーや韓国メーカーにシェアを奪われつつあり、2020年には中国メーカーが70%のシェアを占めるとの予測もあります。EVシフトの本格化に際し、再度梃入れすることで、中韓メーカーとの競争に打ち勝っていく必要があります。

実は、EVシフトの本格化に向けて、現在のリチュームイオン電池では高容量化、小型化、低コスト化に限界があると認識されています。そこで、次世代バッテリーと見られているのが全固体電池です。リチュームイオン電池の電解質は液体ですが、全固体電池は全ての部材が固定された構造になります。これにより、イオンリチューム電池の弱点であった航続距離やコスト、寿命などの大幅な改善が期待されます。例えば、EVシフトの先頭を走るVW社は、20年以降は全固体電池を前提としたEV開発ロードマップを描いています。2020年にEV市販化を目指すダイソン社も全固体電池を採用すると予測されています。

このようにEVシフトを前に車載バッテリー業界では、新たなテクノロジー開発、巨大EV市場を活かした中国メーカーの台頭、電気機器業界から新規参入と、益々競争が激化していきます。電気機器業界では、かつてテレビや半導体市場において、当初優位であった日本メーカーが海外メーカーとの競争に敗れていった苦い経験があります。最近やっと、官民挙げた日本版「EV戦略」策定が始まりました。官民連携で全固体池の技術開発や規格作りに取り組み、過去の教訓を活かすことで、EV時代に日本メーカーが存在感を高めていくものと期待します。

2018年5月

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