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2018年09月01日

EV時代のものづくり⑧
~充電インフラのプラットフォーマー~

「EV時代に向けて自動車のものづくりはどう変わっていくか」をテーマに、これまで7回に渡って考察してきました。本格的にEVが普及していくには、自動車本体の構造や素材、技術等の変化だけでなく、EV利用環境の整備も必要です。EVを日常利用する人が、充電サービスや車体整備に不安を感じるようでは、EV普及には至りません。特にEVはガソリン車に比べ走行距離が短いため、ガス欠ならぬ「電欠」が気になるところです。そこで、今回はEV普及の前提となる、充電インフラの現状と今後について見ていきます。

EVの充電には、普通充電と急速充電があります。普通充電は、スマホを充電するように、自宅の簡単な設備で時間をかけて充電する方法です。 EVを翌日の通勤に使うのであれば、夜に充電をセットしておき、朝出かける前には充電が終わっているようにします。マンションや屋外駐車場など充電する場所は問いませんが、普通充電には5-10時間かかります。
一方、クルマで遠出したときにガソリンスタンドで給油するように、道中で充電するのが急速充電です。急速充電器は高速のサービスエリア、商業施設、ガソリンスタンドなどに設置され、日本では既に7000ヶ所以上で利用することができます。数的にはガソリンスタンドの約4分の1に達しているのですが、充電インフラとして今後解決すべき課題は、充電時間の長さと充電設備の投資額です。ガソリン車を満タンにするには精々2~3分で済むのに対し、EVの急速充電には30分は掛かります。休日になると高速道路のサービスエリアの急速充電器前に、順番待ちのEVが列をなしていることも珍しくありません。また、今後急速充電器を設置していこうとする事業者は、1台当り100~200万円の費用が必要となります。充電時間が長く回転が悪いと、売電利益では採算が合わなくなってしまいます。

1つめの課題である急速充電の充電時間短縮には、急速充電器と車体バッテリー双方での技術革新が必要となります。車体バッテリーの技術革新に関しては、以前のコラムで取り上げた※1全固体電池など、次世代バッテリーになれば10分以内の超急速充電が可能になると見られています。
では急速充電器の技術革新の見通しはどうでしょう?
現在、急速充電の規格は世界に5つ併存しています。

表1.急速充電の主な規格
(ソース:チャデモ協議会資料、新聞や雑誌記事等を参考に編集加工。一部推測含む)
規格 チャデモ
(CHAdeMO)
GB/T EURコンボ/USコンボ
(Combined Charging System)
スーパー
チャージャー
推進 チャデモ協議会 中国電力企業連合会 CharIN テスラ
設置シェア概数
(台数)
7%
(18,000基)
87%
(220,000基)
3%
(7,000基)
3%
(8,000基)
主な設置地域 日本、欧州、北米 中国 欧州、北米 半数以上米国
最大出力 150kW 50kW 50kW 120kW

これらの規格の中で、日本のEV普及団体が推進するチャデモ(CHAdeMO)は、他の規格よりも大きな最大出力となる、150kWの新型充電器の仕様を昨年発表しました。これにより充電時間を大幅に短縮することができます。さらに今年8月にチャデモは、「急速充電器について、日本と中国が次世代規格を統一し、2020年ごろの実用化を目指して共同開発に乗り出す」ことを発表しました。この共同開発では、500kW以上とさらに高出力を目指しているようです。これが実現すると、充電時間は最短で10分以内に短縮され、充電器1台で多数のEVを同時充電することも可能となり、急速充電待ちの解消につながります。また、日本と中国の充電器統一が実現すると量産効果によるコスト低減が見込まれるため、2つめの課題である充電設備投資の低減も期待できます。

チャデモが技術革新していき、他規格に比べ高性能で高機能の規格になっても、ガラパゴス化しては意味がありません。この点で注目すべきは、チャデモがIEC(国際電気標準会議)の国際標準として承認され、日本以外の欧米でも存在感を示していることです。欧米は標準化を競争戦略の一つとして活用し、標準化の推進に長けています。特に自動車関係の規格においては、これまで欧米が国際標準を主導し、日本は国際標準に準拠したものを製造していくのが常で、チャデモは日本が国際標準を設計し承認された、極めて稀なケースと見ることができます。

急速充電器の設置シェアは、EVの競争力に影響を与えます。欧州のEVメーカーは、コンボ規格の充電設備を欧州各国内の幹線道路に2020年までに400ヶ所増設し、欧州メーカーのEVの競争力を高めようとしています。同様に、チャデモのシェアは、日系メーカーのEV競争力を左右します。チャデモが日中提携をうまく進め、中国という最大EV市場にチャデモ技術を広げることができれば、設置シェアは9割を超えることになります。チャデモがその技術力と規格で支配するプラットフォーム・ビジネス(2016年7月のコラム参照※2)を確立できる可能性もありそうです。チャデモが急速充電のプラットフォーマーとなれば、日系EVメーカーの競争力を高めるだけでなく、EVの要となるバッテリーと急速充電に関する市場ニーズや技術情報を的確に把握でき、それらを活かすことでチャデモの競争力や収益力を一層高めていけるでしょう。

今後、EVが急速に増えていくと、急速充電規格のシェア争いも激化していくと推測されます。今度の日中の提携では、中国側が全体プロジェクトを推進し、日本側が技術やノウハウを提供するため、中国メーカーに技術やノウハウを吸い上げられるリスクもあります。チャデモが急速充電のプラットフォーマーとしての立場を確立していけるのではと、関心と期待をもって見ていきたいと思います。

※1:EV時代のものづくり④ ~EV競争のカギを握るバッテリー~
https://www.kobelcosys.co.jp/column/monozukuri/20180501/

※2:ビジネスモデルを変える⑦ プラットフォーム・ビジネスと製造業
https://www.kobelcosys.co.jp/column/monozukuri/20160701/

2018年9月

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