社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2023年09月01日

和田毅投手の活躍と怪我への対処
~事業変革に向けた人材の準備~

レンズ

今年7月、ソフトバンクの和田毅投手がオールスターゲームの第1戦に登板、これが球宴のパ・リーグ最年長登板(42歳4か月)となりました。今年プロ21年目、松坂大輔投手を筆頭に多くの選手が活躍した「松坂世代」最後の現役投手です。
長年、投げ続けてきただけに何度も肩や肘の痛みに苦しめられてきました。最初の手術は2007年オフ、内視鏡による左肘遊離軟骨の除去手術でした。2度目の手術は大リーグのオリオールズに入団した12年。トミー・ジョン手術(側副靭帯再建術)を受けましたが、その後も左太ももや左肩の故障に見舞われ、メジャーではわずか5勝で再びソフトバンクへ復帰することになります。

復帰後も左肘の痛みに苦しめられ、17年には肘頭骨棘切除術を行い、再び長期離脱を余儀なくされました。当時「手術するのは大変なこと。2回やっているし、重々分かっている。年齢も年齢ですし。それ相応の覚悟がいる」と話していたように難しい選択でしたが、今年の活躍をみれば、結果的にそれが正しかったことが分かります。
同じように海を渡った田中将大投手もヤンキースに入団した14年に右肘を痛め、靭帯部分断裂と診断されましたが、トミー・ジョン手術を回避してPRP療法という保存療法で回復を目指しました。日米のメディアやファンから手術の必要性を主張する声が多い中での決断でしたが、この年から6年連続2ケタ勝利するなどの大活躍で、辛辣なNYメディアも当時の選択を「正解だった」と“手のひら返し”でたたえるようになりました。

一方で、残念ながら怪我から復活できなかった選手もいます。「松坂世代」の代表者、松坂大輔投手もRソックス時代の11年にトミー・ジョン手術を受けました。その後も20年には首の痛みと右手のしびれ対策のため脊椎内視鏡頸椎手術を受けましたが、本来の姿を見せられないまま21年限りで引退しました。
近鉄、中日などで抑えとして活躍し、06年の第1回WBCで胴上げ投手となった大塚晶文投手も、08年にトミー・ジョン手術を受け現役復帰に向けてリハビリを続けましたが、その後マウンドに上がることなく引退しました。
「ハンカチ王子」こと日本ハムの斎藤佑樹投手は20年に右肘の内側側副じん帯断裂と診断され、こちらは手術を受けずに保存療法で回復を目指しましたが、1軍復帰は叶いませんでした。

手術を受けるか、受けないか。それぞれの選手が逆の選択をしていたらどうだったかは神のみぞ知るところです。先日も大谷翔平選手に右肘靭帯の損傷が見つかり今季残りの試合には登板しないと発表がありました。18年に右肘のトミー・ジョン手術を受けており、今回2度目の手術に至るかどうか大谷選手の決断が注目されています。
同じ怪我でも痛みの原因であろう部分を手術でピンポイントに取り除くやり方もあれば、なんとかメスを入れずに患部周辺の筋肉や骨格のゆがみなどを調整して痛みを緩和するやり方もあります。そしてどちらの方法も100%うまくいく保証はないのです。

また、国民性によっても治療に対する考え方に大きな違いがあるように思います。欧米ではすぐに手術や薬で治そうとする傾向が強く、なるべく自然治癒を促そうとする日本人とは治療に対する基本的な考え方やアプローチが違います。
この違いはビジネスにおいても存在するように思います。欧米企業の場合、事業変革に足りない能力は外部から調達してくる、すなわち外科手術で早期解決を図ることが常套手段です。一方、日本企業の場合は会社の生い立ちや業務、組織風土を理解している内部人材を登用することで、様々な意見を集約し合意形成をしながら変革を進める、言わば保存療法を目指す傾向が強いと感じます。

そもそも治療の目的は大きく分けて2つです。一つ目は痛みなど今出ている症状を緩和すること、二つ目は人間ドックで発見されたガンなど放っておけば将来悪いことが起こると予想されるものへの対処です。当然、目的によって治療方法を選ぶ必要がありますが、一番大切なことはどのような治療にも耐えられる身体ではないでしょうか。

事業変革のケースも同様で、足元の喫緊の課題にピンポイントで対応する場合は、スピード感をもって課題に応じた専門人材を外部から獲得、登用していくことが有効でしょう。また長期的課題への対応だと判断すれば、企業文化の継承・発展という側面も踏まえ若い中核人材を育成、登用していくことを優先すべきかもしれません。
重要なのはどちらの選択肢も選ぶことができる組織にしておくことです。外部人材の登用においては、中途採用だけでなく業務委託など雇用以外の形態も考慮し、専門人材が成果を生み出せるような社内の仕組みやサポート体制を事前に準備しておく必要があります。その一方で日頃から自社に求められるリーダー像を明らかにし、そのような人材を中長期的な視野で計画的に育成していく人事制度の整備もあわせて必要なのです。

人間万事塞翁が馬。和田投手は手術後の長いリハビリ期間でも焦らず、肘に負担がかからないようなフォームを研究し、下半身強化など地道なトレーニングで体全体をバランスよく鍛えることによって、手術前よりもパフォーマンスが上がったと言われています。
急激に変化する事業環境の中、思い切った外部人材の獲得と地道な内部人材の育成をバランスよく実施していくことができれば、企業もまた成長し続けることができるのではないでしょうか。

2023年9月

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