社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2023年10月01日

慶応高校の優勝を後押しした世間の注目
~他人の視線が持つ効果と活用~

渡り鳥

今夏の全国高校野球選手権大会では慶応高が大正時代の第2回大会以来、107年ぶり2度目の優勝を果たしました。髪型が自由だったり、根性論的な猛練習はしなかったりと、これまでの高校野球の常識を覆したことでも話題となりましたが、全国制覇するほどの強さの秘密はどこにあったのでしょうか。

世間では2003年から推薦入試が導入されたこと、またメンバー外の3年生が担う「データ班」と学生コーチの存在も大きかったのではと言われています。
それに加えて、清原勝児選手の存在も大きかったようです。ご存じのように「甲子園の申し子」と言われた清原和博さんの次男で、昨秋の関東大会でセンバツ出場が確実となってからは「甲子園に清原が帰ってくる!」と注目を集めるようになりました。今夏は背番号15の控え選手でしたが、それでも彼を取材するために連日、多くのメディアが訪れました。そのため普段から気が抜けていると思われるような練習をするわけにはいきません。常に見られている中での集中した練習が周りの選手の成長にもつながったと思っています。

これまでも、たとえば松坂大輔投手のいた横浜高もそうでした。松坂投手自体もすごかったですが、彼に引っ張られてチームメートも成長し、甲子園春夏連覇など1年間無敗で駆け抜けました。他にも山梨県の県立高校だった市川高が好投手・樋渡卓哉選手を擁して1991年春のセンバツに初出場。2試合連続のサヨナラ勝ちなどでベスト4まで勝ち上がり「ミラクル市川」と呼ばれて注目を集めると、夏も私学の強豪を抑えて甲子園出場を果たし、ベスト8まで進出しました。“普通の”県立高校の野球部員が注目を集めたことで日に日に成長し、信じられないような力を発揮して勝ち上がっていったのです。

他人の目を意識することはモチベーションを高める要因となります。例えばコロナ禍以前、普通にスーツを着てオフィスへ出勤し、職場の仲間と顔を合わせて挨拶をする。そういう日常的で些細なことでも、他人と接することでモチベーションが上がり仕事に対する‘やる気’スイッチがONになったように思います。また、いつもはオフィスにいない上司が目の前の席で見ているとか、社長が職場に来ているとか、特殊な環境での他人の視線は、更にモチベーションを刺激し、いつもと違う緊張感や‘やる気’につながることもよくあります。

一方、リモートワークが当たり前になった現在、上司や同僚と顔を合わせて仕事をすることは少なくなりました。特に一人で在宅勤務をする場合、他人の目がないためにどうしても気が緩んでしまい、なかなか‘やる気‘スイッチが入らないということもあるのではないかと思います。本来、在宅勤務は通勤時間の削減などによってワークライフバランスを充実させ、その結果、仕事へのモチベーションを高め生産性を向上させることを、会社も社員もともに期待しているはずなのですが、実際は’やる気‘スイッチのON/OFFの切り替えが難しく、生産性に悪影響を及ぼしている可能性すらあります。
では、どうやって仕事の‘やる気’スイッチを入れ、モチベーションを保ってもらうのかが問題ですが、特効薬は存在しないように思います。実際には在宅勤務で生産性が向上し、十分な成果を上げている人もたくさんいますので、昔のように全員が毎日出社という形に戻すことはあまり良い選択肢とは言えません。

さて、一方で他人から注目されることが、誰にでもプラスに働くわけではありません。多くの視線を感じることによって、緊張や恐怖を覚える人もいます。当然、慶応の野球部にも少なからず存在したはずです。
 実は、慶応ナインは普段から「ありがとう!」という言葉を掛け合っていたそうです。3アウトを奪い、ベンチに戻るナインが互いに笑顔で「ありがとう!」。選手に聞くと「常に『ありがとう』を徹底している。ポジティブになれるし盛り上がる」と言います。
感謝の気持ちを持つことで、脳内から幸せホルモンと呼ばれるセロトニン、集中力や意欲を向上させるドーパミンなどが分泌されると言われています。
また、感謝の言葉を伝えることは、相手との会話のきっかけ作りになります。そして次第に円滑なコミュニケーションが取れるようになることで人間関係も良くなり「心理的安全性」も高まります。常に注目されていることで気を張り続けなければいけないようでも、そういう慶応野球部の考え方、取り組みがナインに浸透し、精神的な余裕を与えていたのではないでしょうか。

リモート環境で仕事をする中でも、周囲が自分の仕事を見ていると感じてもらうこと、そしてその視線は決して監視とか管理ではなく、温かい感謝や信頼を感じるものにすること、これこそがリモートワークの成功の鍵になるのかもしれません。
仲間同士、頻繁にコミュニケーションを取り、お互いに向けて感謝の言葉を発することが、仕事の‘やる気’スイッチを入れ、モチベーションを保つことにもつながるでしょう。
最後には、どこで仕事をしていようが、「この人に任せておけば、ちゃんと仕事をやってくれるはず」と上司が部下を信頼し、「あの人は日ごろ自分がどれだけ頑張っているか一番理解してくれているはず」と部下も上司を信頼する。そんなお互いの信頼関係に基づいたマネジメントが、これからの多様な働き方を支えるベースになると考えています。

2023年10月

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