2022年11月01日
デジタル変革(DX)の要になるか?
~市民開発の発展と課題~
市民開発とは
市民開発とは「IT部門に依存することなくローコード・ノーコードツールを活用して業務部門が自ら業務のデジタル化を実現すること」を指します。ローコード・ノーコードツールとは、少ないプログラムコードで開発ができる、またはプログラミングを必要とせず開発ができるツールのことです。特に市民開発に携わる人々を「市民開発者(citizen developer)」と呼びます。
市民開発発展の背景にDX
昨今、激しいビジネス環境の変化に対応するためデジタル技術の活用を通じて従来のビジネスや組織を変革していくDX推進の機運が高まっています。しかし、その一方で多くの企業がIT人材不足の問題を抱えています。IPA(情報処理推進機構)のDX白書2021によると日本企業のおよそ76%が企業変革を推進する人材の「量」が不足していると回答しています(※1)。米国企業が43%ほどだったことを考慮すると、日本企業の人材不足の重大さが見てとれます。
図1:事業戦略上、変革を担う人材の「量」の確保
(DX人材白書2021(IPA)を参考に作成)
(クリックして拡大できます)
市民開発の現状
市民開発がIT人材不足の課題を抱える中で注目されはじめています。DXを推進する企業ではIT部門に依存することなく業務部門でデジタル化を進め、業務の効率化を推進する動きがあります。市民開発に関する調査では、ユーザー部門(ここでは非IT部門の意味)の60%以上が「エンドユーザーが開発したアプリケーションがある」と回答するなど、日本での市民開発の普及がうかがえます(※2)。
例えば、日清食品グループはデジタル化実現のために、IT部門だけでなく財務・経理部門といった現場ユーザーも一体となってノーコード・ローコードツールを活用した業務のペーパーレス化を進めています(※3)。現場ユーザーはITベンダーやIT部門よりも自分たちが手を動かした方が早いことに気づき、自ずとシステム開発に取り組むようになったと言います。DXを推進するためには「リアルをデジタルに置き換える」という一歩目を踏み出すことが必要であり、ペーパーレス化はまさにその一歩目にあたります。ローコード・ノーコードツールを使った市民開発はデジタル化のハードルを下げ、企業全体を巻き込んだDXのムーブメントを起こす一助になっているのではないでしょうか。
市民開発は企業だけでなく、行政でも取り組みが活発化しています。例えば、経済産業省はローコードツールを使い、オンライン行政手続きプラットフォームを省内職員が自ら開発しています(※4)。従来のシステム開発手法ではリリースまでに半年〜1年という期間がかかっていたのに対し、このシステムでは1ヶ月程度でリリースできるようになるなど開発の高速化が実現しています。
市民開発の利点には、開発の素早さと要件への適合度が挙げられます。ノーコードツールを使えば、初期の学習コストを抑えながらもアプリケーションの開発を行うことができ、IT部門に依頼するよりも素早く開発を行うことができます。加えて、自ら開発することで自部門の要求や要件に沿ったアプリケーション開発も可能になります。
市民開発が抱える課題
しかしながら、市民開発の普及に伴い課題点も見えています。エンドユーザーによるアプリケーション開発の課題に関する調査では「アプリケーションの属人化・ブラックボックス化(作った人でないと中身が分からなくなる状態)」、「品質のばらつき」、「ガバナンスの難しさ」が課題の上位に挙げられています(※2)。また、従業員1000名以上の大企業を対象にしたアンケート調査でも「品質のばらつき」や「システムの乱立」が課題として目立っています(※5)。
アプリケーションを誰でも簡単に開発できるようになり市民開発が進んだことで、アプリケーションの品質統制や開発後の管理、保守が難しくなっている現状があります。
課題をどう乗り越えるのか、今後の展望
それでは急速に普及しはじめているローコード・ノーコードによるアプリケーション開発に対して企業はどのように対処すればよいのでしょうか?その方法の1つとして、調査会社IDCは、企業内にローコード・ノーコードソリューションを統制するCoE(センター・オブ・エクセレンス)の設置を推奨しています。企業内で安全なローコード・ノーコード開発ができるように、CoEは開発のモニタリングや社内の開発ルールづくりなど開発環境の整備を組織横断的に取り組むことが期待されています。
「誰でも開発ができる」というステージから、組織が横断的に統制を行い「誰でも“安全に”開発が出来る」環境づくりを目指すことが、より良い市民開発の促進ならびに将来的な課題解決へと繋がるでしょう。
おわりに
ローコード・ノーコードツールの普及に伴い市民開発の文化は醸成されつつあります。IT部門のみならず業務部門がデジタル技術による作業効率化に着手しやすくなっているのではないでしょうか。もちろん、DXの本質はデジタル化ではなく組織やビジネスの革新にありますが、少子化が進み労働人口の減少が懸念される今日、日本のDX推進の鍵は市民開発にあるのかもしれません。
※1:DX人材白書2021第3部デジタル時代の人材-IPA(情報処理推進機構)(2021年10月11日)
https://www.ipa.go.jp/files/000093701.pdf
※2:ガートナー、日本企業の市民開発に関する実態調査の結果を発表 – ガートナージャパン(2021年5月27日)
https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20210527
※3:ペーパーレス化の過程で内製化へ舵を切る 日清食品のDX戦略 – ASCII.jp(2021年10月25日)
https://ascii.jp/elem/000/004/072/4072508/
※4:経済産業省がPower Platformにより行政サービスのDXを加速 – Microsoft(2021年11月10日)
https://customers.microsoft.com/ja-jp/story/1435451965464931339-ministry-of-economy-trade-industry-government-power-apps-ja-japan
※5:大企業の従業員1,000名に聞いた「市民開発」に関する調査 - ドリーム・アーツ(2022年2月24日)
https://www.dreamarts.co.jp/news/press-release/pr220224/
2022年11月
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