2022年09月01日
脳の活動をデジタル化してビジネスに活用
~ブレインテック~
世の中の技術の発展とともにフィンテック(Finance+Tech)やエドテック(Education+Tech)というような「〇〇テック」という造語が数多く生まれてきていますが、“ブレインテック”という言葉は聞いたことはあるでしょうか?
ブレインテックとは、ブレイン(Brain:脳)+テック(Technology:技術)との組み合わせで、脳科学を活用したテクノロジーやサービスのことを指します。
三菱総合研究所の予測によると、ブレインテックの市場は2024年には5兆円規模になるとされています。また、大企業やスタートアップが業界の垣根を超えて最先端テクノロジーを発信する世界最大の見本市であるCESでは、今年はブレインテック関連の企業が70社ほど出展しており、市場としても注目度の高い領域になっています。
本コラムでも、2018年に「ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)~頭で考えるだけで情報機器とつながる近未来の姿~」※1のテーマで紹介しているのですが、このBCIを含めて脳科学を活用した技術がここ数年でさらに発展し続けています。
ブレインテックは世界各国が予算をかけており、民間企業でも多額の投資を行う企業が増えています。民間企業で特に注目されたのがNeurallink社で、ツイッター社の買収騒動でも有名となった投資家のイーロンマスク氏が2016年に設立した企業です。同社では医療機器としての製品化を目指し、患者の頭蓋骨や髄膜を切開して、大脳皮質にスパイク信号読み取り装置を埋め込み、コンピューターと無線接続して情報をやりとりする実験を行っています。
ではなぜ、このようにブレインテックは注目され、発展しているのでしょうか?主に3つの要因が挙げられます。
(2) 脳波の計測技術の進歩により、軽量化、簡易化がはかれるようになったこと
(3) AIの技術進歩により、分析能力が向上したこと
図1:ブレインテックの進展
(クリックして拡大できます)
出典:「ブレインテックの概説と動向(日本総研)」を元に編集
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/pdf/12480.pdf
次にブレインテックの活用事例を2つ紹介します。
①オランダのフィリップス社はヘッドバンド型の睡眠改善機器を開発し、2019年から商品として販売しています。睡眠時に装着しているヘッドバンドで脳波を測定して睡眠の状態を把握し、その深さに応じてある種の音を聞かせることで、より深い睡眠へ誘導する商品となっています。
https://www.philips.co.jp/c-e/hs/smartsleep/deep-sleep-headband.html
この事例はブレインテックの発展要因(1)(2)が該当し、EEG(ElectroEncephaloGram)という脳波計測のデバイスが発展したことにより、装着や測定が容易になりました。
②日本のマクニカ社は、自動車部品メーカーの目視検査のAIによる自動化において、脳波のデータを活用しています。これはメーカーの熟練検査員が画面を見ながら品質チェックを行う時の脳波を測定し、このデータをAIの学習データとして活用し、熟練者の検査スキルを学ばせたAIモデルを構築したことで、目視検査の効率化をはかりました。
※CES2022でマクニカ社が出展 https://youtu.be/upMrXQHL1-w
この事例は、ブレインテックの発展した要因の(2)(3)が該当し、①と同じくEEGによる脳波計測の簡易化と、分析精度を高めるAIの学習データ収集が行われています。
数ある事例の中から、2つを紹介しましたが、では今後、ブレインテックはどのような分野でさらに発展していくのでしょうか?
米国のニューロテック・アナリシスという会社が、ブレインテック関連の市場動向について定期的にレポートを発行しており、その2021年4Qのレポートでは、ブレインテックの市場と利用法を以下のように分別しています。
適用分野 | 活用法 | |||
ヘルスケア | 教育 | 診断 | リハビリテーション | |
ウェルネス(健康) | ライフスタイルコンピューティング | セラピー | 改良・改善 | |
スポーツ | 軍事 | 手術・治療 | トレーニング・学習 |
図2:ブレインテックの適用分野と活用法
適用分野としては、当初からの適用分野であった「ヘルスケア(医療)」においての市場規模が最も大きいと見られており、磁気により脳を刺激することで治療を行い、その結果うつ病や認知症などの治療に役立つという可能性も考えられています。
また、教育の分野では、学習者がどの程度集中して学習しているか、どれだけ理解して課題に取り組んでいるかを可視化して学習を改善することに役立てています。これは「ニューロフィードバック」という脳活動をモニタリングしながら制御する手法を活用しており、教育分野のみならず、スポーツ選手のトレーニングやリハビリテーションにもすでに活用されています。
このようにブレインテックは技術の進歩によって、ヘルスケア、医療のみならず、様々な分野で活用が広がっています。皆さんも近い将来、知らないうちにブレインテックの技術にお世話になっているかもしれません。
※1:ブレイン・コンピューター・インターフェース~頭で考えるだけで情報機器とつながる近未来の姿~
https://www.kobelcosys.co.jp/column/itwords/20180301/
2022年9月
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