社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2017年03月01日

システムエンジニアの未来

花束

IT業界は「3K職場」という言葉が先行して敬遠されたのか、学生の人気企業ランキングの上位に顔を出さなくなって久しいです。一部企業の過酷な労働環境が業界全体のイメージを損なった面もありますが、人材不足で忙しい業界であることは事実です。システムエンジニアは企業の事業戦略や競争優位を支える非常に重要な職業であり、スキルに立脚した、やりがいも、将来性もある職業ですし、志望する学生も多いのです。

アメリカでは、システムエンジニアはなりたい職業のトップ3に毎年入るほど非常に人気があり、平均年収も日本の倍以上です。海外からの優秀な移民も多く、厳しい競争社会でもありますが、それが今のアメリカのIT産業の興隆に繋がっているのだと思います。これはAmazon、GoogleやAppleなど先端IT企業のエンジニアのみならず、ユーザー企業のシステムエンジニアも同様です。一般的にアメリカの企業は多くのシステムエンジニアを社内に抱えており、ITの専門家として、ユーザー部門と対等な立場で従事し、企業の事業戦略を支える重要な専門職として認知されています。

翻って、日本の場合はユーザー部門のITリテラシーが一般的に高くないからか、新たなシステム開発プロジェクトの場合、ユーザー部門は自部門で利用するシステムでありながら、その多くをIT部門に依存し、IT部門はIT子会社に依存し、IT子会社はITサービス会社に委託し、更に2次、3次請負先に委託しているのが実状です。日本固有の請負構造のため、要件定義、概要設計、詳細設計、プログラミング、テストの各フェーズで契約を交わしていくわけですが、要件定義の漏れや、変更、追加も起こり、開発期間も予算も限られている中で、そのしわ寄せはどうしても請負先に行きがちです。コストや期限のプレッシャーをお客様からも社内からも受け、PMやエンジニアは心身ともに大変な苦労があります。しかし現在では、その対応として色々な開発のメソドロジーやお客様との契約における取り決めなど、双方で改善が進んでいます。開発ボリュームの客観的な定量化やアジャイル開発もその一つです。欧米では主流となっているアジャイル開発ですが、日本の産業構造がその普及の障害になっているところもあります。アジャイルと言う言葉の通り、開発のスピードアップに効果があるのですが、システムエンジニアがユーザー部門の下請けではなく、ITのプロとして対等な立場で開発に従事出来る仕組みであることにも注目すべきです。

もう一つの課題は、個々のシステムエンジニアのパフォーマンスに大きな開きがある中で、人月単価をベースにした今の料金体系にあります。これから先、IoTやAIが進んでいくと、アイデアやスキルやリーダーシップ、コミュニケーション能力などが結果に大きく影響しますので、システムのコストをどう評価するかは、提供する価値に依るべきだと思います。これからは少子高齢化での人材不足であり、人の数を前提としたビジネスモデルは成り立たなくなるでしょうし、先進国としてよりイノベーティブであることが求められるでしょう。それによって、アメリカのように優秀なシステムエンジニアの処遇を改善することにつながると思います。

昨今、IoTやAIが一般のメディアにも盛んに取り上げられ、深層学習(Deep Learning)の分かりやすい解説までTVや新聞に紹介されています。ITに携わる者として、世間一般にITが注目されるのは嬉しいことです。ユーザー側もこれらの新しいテクノロジーを単なる効率や改善ではなく、事業の競争優位や新しいビジネスモデルの創出などの利活用を始めています。その重要なプレイヤーとしてシステムエンジニアが企業内での地位や評価を高める時代になると思います。アメリカのように若人がシステムエンジニアを志望するきっかけになればと期待しています。

最後に私事で恐縮ですが、すでにプレスリリースしております通り、今月27日をもって社長を退任する予定です。私が2012年に社長に就任した時に、これから社員にとって重要なこととして”Principle(原理原則)とIntegrity(正しいこと)”を挙げました。当社ではそれまで社員に求められるのは言われた事を確実に実行することでした。しかし、よりイノベーションが求められる時代に於いて、これからはITのスペシャリストであるだけでなく、お客様にアドバイスしたりリード出来るITのプロが求められると思いました。プロには上からの指事待ちではなく、一人ひとりが課題に向き合い、原理原則に則って正しい判断をし、正しい行いをする事が求められるからです。そのために、日頃から社内においても社員一人ひとりが自発的に意見が言える自由闊達な社風を作り上げる事にも苦心してきました。私としてはまだまだ道半ばの感はぬぐえませんが、会社の進路と目指すゴールは一緒でも、常に多面的な視点での舵取りが必要だと思いますので、フレッシュな後任にバトンタッチしたいと思います。私の社長通信も今回で終わりとなります。5年間に渡り、拙い文にお付き合いいただきありがとうございました。引き続き、弊社と社員に対してご厚情を賜れば幸いです。

2017年3月

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