これからは、コレ!旬なIT技術やこれから主流となりつつあるIT技術に関する情報をご紹介します。

2020年05月01日

商用利用が始まる”量子コンピュータ”の進展

目覚ましい発展

昨今、人工知能(AI)の分野で、ディープラーニングといった機械学習が普及し、コンピュータが様々な条件から人間のような、もしくはそれ以上の精度の判断を行うことが可能になってきています。
しかし、その機械学習では学習量に応じて膨大な学習時間を要することがしばしば問題となってきます。そういった演算能力の問題を解決する技術として"量子コンピュータ"が注目を集めています。

量子コンピュータについては、本コラムでも2018年1月号に紹介していますが(※1)、最近スーパーコンピュータが1万年かかる処理を量子コンピュータが200秒で処理したというニュースが報じられ、同分野は目覚しい発展を遂げています。今回はその現状と進展した演算技術の商用利用についてご紹介します。

※1:最近話題の量子コンピュータってなに?
https://www.kobelcosys.co.jp/column/itwords/20180101/

量子コンピュータ IBM Q (shutterstock)
写真:量子コンピュータ IBM Q (shutterstock)

量子コンピュータの特性

量子コンピュータには大きく2種類の方式が存在しています。現在のコンピュータのように汎用的な能力がある「量子ゲート型」と、最適化問題に特化した能力の「量子アニーリング型」です。

量子ゲート型は汎用的な能力を持っていますが、現在はNISQ(Noisy Intermediate Scale Quantum Computer)と呼ばれ、ノイズによる演算誤りを訂正することができず安定した演算結果を得ることが困難なため、その不安定さを前提としたNISQの活用方法の確立もしくは不安定さを解消する機能を備えたコンピュータへの発展が期待されています。

一方、量子アニーリング型は用途が限られるものの2,000量子ビットを超える演算能力を持った製品が実用化されはじめています。冒頭で登場したスーパーコンピュータの1万年分を200秒で処理する量子ゲート型コンピュータが54量子ビットですので、量子アニーリング型は得意とする最適化問題の領域では特に高い能力を得ていることがわかります。

実用化が進む「量子アニーリング型」が得意な計算とは

実用化が進む量子アニーリング型コンピュータは最適化問題の解を得意としています。それでは、どういったものなのかみていきましょう。複数の選択肢から最適な解を選択することを目的とする最適化問題には、巡回セールスマン問題、ナップザック問題といった典型的な問題例がいくつかありますが、今回はナップザック問題をある事業の投資問題に置き換えてみます。

ある事業者が予算1億円で売上の増加施策を考えたとき、手元に投資財リストとそれぞれの投資財の売上貢献度と投資費用の情報があったとします。(そんな便利な情報は現実にはないのですが)

投資財リスト
図表:投資財リスト

このリストから最も売上効果の高い組み合わせはどれかを考える事が最適化問題の1例となります。上記の例では5つの材料から予算1億円という条件の下、売上貢献度が最も高くなる組合せ:製造機械A, 製造機械B, 車Eの3つを選択し合計売上貢献度 9700を得ることがもっとも投資先として有効だと考えられます。

この例では5つの候補からの選択なので、感覚から最適な選択をすることが可能かもしれません。しかし条件となる投資財が10,000種といった選択肢の中から選ぶ必要があり、さらに投資予算だけでなく敷地面積の制約など複雑な条件がある場合、最適な組み合わせを選択するとなると問題の難易度が格段に上がることになります。量子アニーリング型コンピュータはこのような最適化問題に特化して高速に処理することが期待できます。

量子アニーリング型コンピュータの利用事例

先に挙げた投資先の選択問題以外に量子アニーリング型コンピュータを使ってどのような問題が解決できるのでしょうか。2つの応用事例をご紹介します。

【事例1】工場の製造ラインの配置最適化

半導体製造装置の台数および種類が多い製造ラインにおいて、量子コンピュータを活用して装置の最適配置を算出することで作業員の移動距離を平均28%短縮する結果を得ることに成功。

出典:OKI プレスリリース
https://www.oki.com/jp/press/2019/09/z19038.html

【事例2】無人搬送車の稼働率向上

「複数の無人搬送車(AGV)によるスムーズな移動システムの構築」の研究成果として、複数のAGVの経路の選択で、無数の組み合わせから、「ぶつからない安全な解」を抽出した。そのあとに「できるだけ長く移動を行うものを選択する」という2段構えの計算手法を採用。量子アニーリングマシンを利用した工場内で、無人搬送車の高速な最適化手法の開発に成功。

出典:ビジネス+IT デンソーと東北大の共同研究事例
https://www.sbbit.jp/article/cont1/35565

他にも製造工程の工程計画最適化など”最適化”というキーワードの様々な問題への適用が期待でき、製造業へも広範に渡り適用可能だと考えられます。
また、得意・不得意がある量子コンピュータですが、それを補うために現在のコンピュータを併用するハイブリッド活用を行うことで最適化問題だけではなく、機械学習へ量子コンピュータを適用するサービスも現れ、様々な課題解決の手段として目にすることが多くなってきています。

将来、コンピュータが千差万別な経営材料を多角的に分析し、最適化した結果を経営判断として人間に指示する世界がやってくるかもしれませんね。

2020年5月

ITの可能性が満載のメルマガを、お客様への想いと共にお届けします!

Kobelco Systems Letter を購読