社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2023年05月01日

「トルネード投法」から学ぶフォームの重要性
~自分で考え、貫き通す勇気~

自転車

3月に行われたWBCでは侍ジャパンが14年ぶり3度目の世界制覇を達成しました。過去最強と言われたメンバーの中でも、大谷翔平選手、ダルビッシュ有選手、吉田正尚選手といったメジャーリーガーがチームの中心となって活躍したのは間違いありません。彼ら以外にも多くの日本人選手がメジャーリーグでプレーしています。それだけ日本人選手の実力が世界に認められてきた証しですが、毎年のように海を渡ることができるようになったのは野茂英雄さんの存在があったことを忘れてはいけません。

野茂さんは社会人の新日鉄堺から1989年のドラフトで史上最多8球団の1位指名を受け、抽選で交渉権を獲得した近鉄に入団。1年目から最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率の4冠に輝き、新人王はもちろん、沢村賞、MVPも受賞するなど圧倒的な力を見せつけました。体を大きく捻って投げる「トルネード投法」と呼ばれるフォームが特徴的で、近鉄入団の際の条件として「投球フォームを改造しないこと」を挙げていました。当時の指揮官だった仰木彬監督はこれを快諾し、調整方法も本人に任せたため野茂さんもそれに応えるように活躍を続けました。
ところが仰木監督の退任後は、フォームや調整方法に注文を付ける首脳陣と対立。野茂さんは球団フロントの制止を振り切って退団を決意し、1995年にドジャースと年俸はわずか10万ドルでマイナー契約を結びました。近鉄時代の1億4,000万円から約980万円と激減しましたが、その後メジャーでも「トルネード投法」で最多奪三振のタイトルを獲得、また2度のノーヒットノーランも達成し『NOMOマニア』という言葉が生まれるほど日米で絶大な人気を誇りました。

野茂さんは小・中学校時代は無名の選手であり「体を捻って投げると直球の威力が増す」と自分で考えて、トルネード投法の原型となるフォームで投げていたそうです。高校進学時にはいくつかの野球の名門高校にも挑みましたが不合格となり成城工業高校に進みます。卒業後も新日鉄堺、近鉄とその独特な投球フォームを容認してくれる環境であったこと、また結果を残し周囲を納得させたことが、「トルネード投法」の完成につながったのです。
同じく日本人メジャーリーガーとして大活躍したイチローさんもまた「振り子打法」と言われた独特のフォームを持っていました。この打撃フォームもイチローさんが自分で考え、悩み、試行錯誤した結果、自分にとって一番良い打ち方を体現したものです。一流のプロ選手として大切なことの一つは、自分で考え工夫し、自分に合ったフォームを完成させることなのです。

どのような仕事でも同じです。ベテラン社員はみんな「こうやれば何とかなる、うまくいく」といった自分に合った独自のフォームを持っています。それは仕事のコツや姿勢、発想や考え方などいろいろな言葉で表現をされるものです。
この春、当社にもフレッシュな新人63名が入社しました。学生時代は誰かに言われた通りにしていれば良かったかもしれませんが、社会に出てプロとして働くためには、自分で考え、学ばなければなりません。まずは自分なりのフォームを作るために、自分の個性、特性を知り、自ら課題を乗り越えていく方法を身につけて欲しいと思います。
フォームを完成させる過程では、指導者が自身の「成功体験」に引きずられ、相手に合わないフォームを押し付けてしまうこともあるでしょう。野茂さんの「トルネード投法」やイチローさんの「振り子打法」もそうですが、それまでの常識から外れたやり方は「基本がなっていない」という言葉とともに必ず周囲の反発を招きます。もし野茂さんが野球の名門高校に入学していたら、指導者にフォームを強制的に直されていたかもしれません。それでも、自分で考え抜いて正しいと思ったことを貫き通す信念と、少数でもそれを認めてくれる理解者がいれば、道は開けるのです。もちろん、そのためには教科書に書いてない勉強や工夫も必要です。
当社の新入社員には、末永くプロとして生き抜いていくために、誰も通ったことのないゴールの見えない道を進む勇気と覚悟をもって自分のフォームを作り上げていって欲しいと願っています。

第1回WBCの優勝監督である王貞治さんもまた「一本足打法」という独特な打撃フォームを確立してライトスタンドにホームランを量産、ホームランの世界記録を樹立しました。ある時、対戦相手である広島の白石勝巳監督はフィールドの右半分に野手の大半が守るという極端な守備配置、いわゆる「王シフト」を敷きました。その狙いは王さんの打撃フォームを崩すことでした。「もし野手の少ない左方向を狙ってヒットを1,2本打たれても、その結果、王は必ずフォームを崩す。一旦崩れたフォームを修正するには相当な時間が掛かるので我々には好都合だ」と判断したものでした。しかし、王さんは「どんなシフトでも野手の頭の上を越えてライトスタンドまで届かせればいい」とフォームを全く崩さなかったそうです。

今までと全く違った環境に置かれても、またどんなに苦しい状況に陥っても、自分の能力を最大限発揮するためには自分のフォームを崩さず持続することが何よりも大切です。
近年、労働市場の流動化も活発になり転職する当社社員も少なからずいます。転職して心機一転、新しいことにチャレンジするのは素晴らしいことです。ただ、その場合でも今までの仕事で確立した自分のフォームを崩さず活かしてほしいと思っています。

2023年5月

ITの可能性が満載のメルマガを、お客様への想いと共にお届けします!

Kobelco Systems Letter を購読