毎月更新中!社長通信 社長・田野美雄が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2017年11月01日

技術伝承とAI
~現場でしか伝わらないもの~

五十鈴川

秋も深まってまいりました。紅葉がはじまり日本が一番美しく過ごしやすいこの季節が私は大好きですが皆様はいかがでしょうか。さて今回は技術伝承について考えてみました。先日、久しぶりに伊勢神宮を参拝する機会があり、あらためて日本の歴史の深みに感じ入りました。平成25年に式年遷宮を行ったばかりで建物や鳥居などの木材もまだ新しく、20年に一度の宮大工の技術伝承に思いをはせていたのが、このテーマが浮かんだきっかけでもあります。

伊勢神宮の式年遷宮は、「常若(とこわか)」の思想に根ざします。伊勢神宮は白木柱の掘っ立てによる弥生時代の様式を受け継ぐ高床式の社殿です。このため経年変化による老朽化を嫌い、一定の期間で社殿の更新をすると考えられているそうです。1300年以上もの間、およそ同じ形式を保って続いており、定期的に遷宮を行うため、新旧の社殿の用地が隣接して確保され、造営技術も伝承されてきました。(※1)

※1 コトバンク「式年遷宮」より抜粋  

初めて関わる若手、ど真ん中のエース世代、そして後進への指導が中心のシニア世代がチームで式年遷宮というプロジェクトに関わり、世代間をまたがって技術を伝えていくことは、一つの典型的な技術伝承の形態ですね。他にも一子相伝の「秘伝のタレ」のような形がある一方で、ファーストフード店のようなマニュアル化による接客手法の教育も一つの技術伝承(スキルトランスファー)の形です。

技術伝承はIT的に言えば、ナレッジマネジメントのカテゴリーに位置付けられます。ナレッジマネジメントを論ずれば、そこは個人知(暗黙知)と組織知(形式知)に分類され、いかに個人知を組織知にして知識データベース(DB)化するかがこれまでのチャレンジ課題でした。なぜそれが課題だったかというと、個人知はそれを整理して文書化しなくては組織知にならないが、個人知を持つ人はえてして有能で多忙であり、わざわざ組織知として表出化する手間が煩わしく、行おうとしなかったからです。

ところがここにきて、ITが進化しAI技術とか機械学習などにより、国内外の学術文献や社内レポート、実験データなどを読み込ませるだけで、一定の知識及び推論仮説が立てられるようになってきました。ITに精通し実ビジネスに対する造詣も持つ人材をデジタル人材と呼んでいますが、こういった知見を持つ人を活用して社内ノウハウを機械学習させることができれば、これまでの知識DBとは次元の違う、社内のノウハウまでも詰まったAIと知識DBが手に入る時代に入ってきたという事です。

では、技術伝承はもうAIに任せれば良いのか、というと決してそうではありませんよね。技術伝承でITがカバーする領域が着実に広がっているのは確かですが、ITでカバーできない領域も逆に明確になり、その重要性が浮き彫りになってくるでしょう。

それは、例えば秘伝の工程一つ一つにおける火の入れ方、時間、温度、熱処理etcの加減で文書やデータで表現できない感覚的なものです。カンナ削りの最終仕上げは決して文書化して伝わるものではないし、ダシの取り方ひとつでもそういったところで一流料亭とチェーン店との違いが出るのでしょうね。「いい加減」とはよく言ったものですが、こういう類は現場でのOJTでしか伝わらないのではないでしょうか。

これは飛躍しているかもしれませんが、ITでカバーできない領域は、ある種の思想や哲学、理念といったこだわりと密接につながっているように思えてきます。ここに日本の製品・サービスの価値が詰まっているのではないでしょうか。トヨタ生産方式(TPS)はすばらしい手法であり、文献もたくさん出されていますが、それでもそのノウハウを吸収してトヨタ以上にTPSが実現できているところがないのはなぜでしょうか。それは、TPSは現場主義であり、現場(様々な環境含めて)は常に変化しているからだと思います。そしてTPSは思想であり、現場の変化に応じて対応手段が変わっていくことを奨励しており、決してマニュアル化できるものではないからです。このような、AIでカバーできない領域がある限り、日本のモノづくりは存続すると信じています。

さて、こういった技術伝承を自社においていかに実施するか、というのが少子高齢化を迎える日本企業にとって課題の一つであります。お客様の経営Topの方を訪問してこの課題が出された際に私がいつも申し上げているのは、「基幹システムの再構築は自社の業務の本質を伝承する絶好のチャンスになる」という事です。再構築検討の際に業務プロセスを俯瞰して見直す過程で、自社の強みやこだわりといった企業の価値観/DNAを若手、中堅、ミドルマネジメント、経営層と世代をまたがって伝承できるのです。なぜこの機能やプロセスをシステムに組み込んだのかといった理由や、システムでカバーできずに業務運用でカバーすることになった理由を伝えていくことが重要なのです。

昨今の基幹システムはERPに代表される既成汎用システムなので、これは先ほどのAIや知識DBと同じくITでカバーできる領域であり、逆にERPでカバーできないところにこそ技術伝承すべきものが存在するように思います。しかし、それは基幹システムの再構築というプロジェクトをきっかけに技術伝承がなされるのであって、何もない状態でIT外の業務ノウハウを技術伝承する場面は作れません。それ故に、基幹システムの再構築は老朽化更新のためにするのではなく、技術伝承のために行う価値があるのです。それでわたしは、基幹システムの再構築のキックオフに参加する度に、式年遷宮に例えて技術伝承と人材育成を奨励しています。

20年に一度というのは世代間伝承を考えれば絶妙の間合いのような気がします。現在の基幹システムがそろそろ20年を迎える企業のトップマネジメントは、このような技術伝承を含め更新を考えてみられてはいかがでしょうか。

2017年11月

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