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2026年02月01日

フィジカルAI
~デジタルの世界から現実世界へと進化するAI~

日本政府は2025年12月、AIの開発や活用の方向性を示す「AI基本計画」を閣議決定し、1兆円規模の投資とともに「フィジカルAI」の開発を重点的に進める方針を掲げました。※1
フィジカルAIとは、センサーやロボット等の装置を通じて現実世界を「認識・判断・行動」できるAI技術の総称です。従来のAIがデジタルデータの処理に特化していたのに対し、フィジカルAIは現実環境で自律的に動き、操作・相互作用する点が特徴です。
2023年頃から急速に普及してきたChatGPTに代表される生成AIは、文章や画像・音声といったデジタルコンテンツを対象にしている“デジタルの世界のAI”でした。一方、フィジカルAIは、ロボットや自動運転車などの「脳」として機能し、現実世界で物を動かし、作業を遂行する“現実世界のAI”と言えます。
AI基本計画では、こうしたフィジカルAIの社会実装を推進することで、人手不足・高齢化といった日本が直面する社会課題の解決を図ることが示されています。

PhysicalAIのイメージアクチュエーター:電気・空気圧・油圧などのエネルギーを機械的な動きに変換する装置
図1:フィジカルAIのイメージ
(クリックして拡大できます)

フィジカルAIの技術とは

フィジカルAIは、次のような複数の技術を組み合わせることで実現されます。

    • センシング技術:現実世界を正確に把握する
    • (カメラ、LiDAR: 距離や立体構造を認識、触覚センサー)
    • 認識・推論AI:状況を理解し判断する
    • 強化学習・模倣学習:環境に適応しながら行動を最適化する
    • 制御・ロボティクス技術:実世界で安全に動作させるための技術

    これらの技術はまだ発展途上のものも多いですが、米国のNVIDIA※6など先進企業が技術開発を進めています。そして、これらの技術を組み合わせる形で以下のような適用事例が生まれつつあります。

    フィジカルAIの活用事例

    • Hyundai Motor Group※2(ヒュンダイ自動車)
      ―自社工場にヒューマノイドロボット導入予定
      ・Boston Dynamics製「Atlas」を2028年に導入予定
      ・フィジカルAIによる自律作業の導入をCES 2026で正式発表
    • SAP※3(企業向けIT大手)
      ―製造・物流現場で自律プロセスを実証
      ・ロボティクスとAIを統合するフィジカルAIパートナーシップを拡大
      ・部品供給・品質管理・異常検知などの自律プロセスの実証実験を進行
    • マクニカ※4(日本の技術商社)
      ―ロボットAI動作の即時評価環境を構築
      ・仮想空間と実環境の両軸から評価できるプラットフォームを提供
      ・導入支援を通じて実証と検証を強化
    • Foxconn※5(鴻海/台湾の電子機器受託製造大手)
      ―AI搭載検査ロボットで製造品質検査を高度化
      ・フィジカルAI技術により基板検査ロボットなどを高精度化
      ・高速・精密な実世界での現場作業を実現
    • Amazon(物流・EC大手)
      ―倉庫内AMRの物流応用例
      ・自律移動ロボット(AMR)を大量運用
      ・AIによる動態環境認識と経路計画でピッキング・搬送を最適化

    実用化に向けての課題

    このようにフィジカルAIの適用事例は出てきていますが、今後の本格的な実用化に向けては次のような課題があります。

    1. 安全性・信頼性の担保と法整備
      物理的な力を持つAIが誤作動を起こした場合、人的被害や設備破壊に直結します。 従来の定型的な産業用ロボットとは異なり、自律的に判断して動くAIに対して、 どのような安全基準を設け、事故時の責任をどう定義するかといった 法制度の整備が追いついていません。
    2. シミュレーションと現実の乖離
      仮想空間で学習させたAIモデルを現実のロボット等に適用する際、 摩擦・重力・センサーのノイズ・照明変化といった 「現実世界の不確実性」に対応しきれない課題があります。 100%の再現は困難なため、現場での微調整に多大な時間を要する可能性があります。
    3. 高品質な「現場データ」の不足と秘匿性
      AIには学習データが必要になりますが、物理的な動作データは、これまでの生成AIで利用した言語データと異なり、収集にコストと時間がかかります。また、製造現場のデータは企業の競争力の源泉(ノウハウ)であるため、AIの精度向上に不可欠な「データの共有や標準化」が進みにくいという構造的な問題があります。
    4. 高い開発・導入コスト
      フィジカルAIを利用するには、センサー・ロボット機構・高性能計算環境・シミュレーションなどが必要であり、特に中小企業ではフィジカルAIシステムの開発・運用コストが導入の大きな障壁となります。

    フィジカルAIがもたらす未来

    フィジカルAIの進展には、以上のような技術的な課題の解決と法整備などが必要ですが、近年のAIの理解力・環境認識能力の進化や、ロボット制御技術の高度化により、上述の適用事例をはじめとして製造、物流、医療など幅広い分野での実用化が進みつつあります。
    フィジカルAIは、人手不足や安全性、生産性向上といった社会課題に対し、単なる自動化を超えて現場の判断や対応力を高める存在として期待されています。今後は人と協調し新たな価値を生み出すパートナーとして社会実装がさらに加速していくでしょう。

    ご参考
    ※1: 日経新聞 “政府、AIに1兆円投資へ 基盤モデル国産化やフィジカルAI実装めざす”
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA194VB0Z11C25A2000000/
    ※2: Reuters: Hyundai Motor Group plans to deploy humanoid robots at US factory from 2028
    https://www.reuters.com/business/autos-transportation/hyundai-motor-group-plans-deploy-humanoid-robots-us-factory-2028-2026-01-05/?utm_source=chatgpt.com
    ※3:SAP: SAPは、「Physical AI(フィジカルAI)」領域におけるパートナーシップを拡大し、新たなロボティクス実証実験(ロボット・パイロットプロジェクト)の成功事例を発表
    https://abap.jp/wp/useful/920/?utm_source=chatgpt.com
    ※4:マクニカ:マクニカ、Physical AI検証環境を構築し、ロボティクスAI実装を支援
    https://www.atpress.ne.jp/news/2978907?utm_source=chatgpt.com
    ※5: Partenit: Physical AI: How Smart Robots are Reshaping Manufacturing
    https://partenit.io/physical-ai-how-smart-robots-are-reshaping-manufacturing/?utm_source=chatgpt.com
    ※6: NVIDIA:
    https://resources.nvidia.com/en-us-retail-nvidia-omniverse-assets/watch-47


    2026年2月


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