2024年09月01日
パリ五輪で考えるホームアドバンテージ
~同調圧力の影響と対応~
今年7月26日から8月11日まで17日間にわたって行われたパリ五輪では、日本は金メダル20個を含む、45個のメダルを獲得しました。これは自国開催以外では過去最高という成績です。レスリングやフェンシングでの活躍が目立った一方で、不可解なジャッジに泣かされ惜しくも敗れた試合が印象に残った大会でもありました。
ひとつはバスケットボール男子1次リーグのフランス戦。4点リードで迎えた残り10秒という勝利目前で相手の3ポイントシュートが決まり、それをブロックしようと跳んだ河村勇輝選手に対しファウルがコールされました。ファウルによるフリースロー(1ポイント)も決められて一挙に4点が入り同点。延長戦で突き放され、歴史的勝利を目前で逃しました。SNSでも画像や映像が拡散され、米大手人気スポーツ誌「Sports Illustrated」(電子版)も「河村は相手に触れていなかったようだ」と分析しています。
もうひとつは柔道混合団体決勝フランス戦。3-1とリードし、金メダルに王手をかけて臨んだ阿部一二三選手は階級が上の相手選手に対しても果敢に攻め続け、優位に試合を進めました。逃げ回っていた相手に指導が2つ与えられ、あと1つの指導で反則負けという状況でも相手の消極的な姿勢は続きましたが、3つ目の指導を審判はなかなか与えません。最後は相手の捨て身の技が決まり、阿部選手は敗れました。これにも海外ファンや識者から「誰もが分かるように、あの試合は阿部の勝ちだ」「何分間も何もしていないフランス選手に指導を与えない審判はとても奇妙だった」などの声が相次ぎました。どちらも審判の判定を味方にした開催国フランスが勝利を収めた形となりました。
オリンピックに限らず、様々なスポーツにおいてホームアドバンテージは存在します。いくつかの研究によれば、特に審判の主観による判定部分が多い競技の場合、一番のアドバンテージは観客の大声援による後押しだそうです。審判は意図的に開催国に有利な判定をしているわけではなく、できるだけ正確な判定をしようとしているはずです。それでも結果として審判が「地元びいき」になってしまうのは、観客の「同調圧力」の影響だと考えられています。
観客は皆、自国が勝って欲しいと願っており、判断に迷う微妙なプレーは常に自国に有利な判定になることを望んでいます。会場では開催国の観客が大勢を占めており、「観客の総意」という圧力を感じている審判は、無意識のうちに同調し開催国に対して有利な判定をしてしまいがちになるというわけです。特にバスケットボールや柔道など屋内の会場は、屋外スポーツに比べて観客との距離が近いため声援が届きやすく、観客の同調圧力よる影響を遮断することはとても難しいことなのでしょう。
同調圧力に関する研究では、心理学者ソロモン・E・アッシュ氏によって行われた「アッシュ実験」が有名です。実験の結果、同調圧力に抵抗できた人は治験者の25%しか存在せず、残り75%の人は自分一人で考える時には正しい判断ができても、集団の中では同調圧力に逆らえず誤った判断をしてしまう傾向が浮き彫りになりました。
企業においても、周囲と意見を合わせるように働きかける同調圧力が存在します。「仲間・同僚(=peer)」からの圧力という意味で「ピアプレッシャー」とも呼ばれ、同調圧力が強い職場では、個人的な考えや意見を自由に言えなくなります。
適度な同調圧力は、チームの一員であるという実感が湧きやすくなり、帰属意識も高まるため心理的安全性につながり、チームワークやモチベーションが向上するとも言われています。しかし、長い間同じメンバー構成で活動してきたような組織では、一見、強力なチームワークで秩序が保たれているように見えますが、必ずどこかに「村の掟」のような過度な同調圧力が存在します。そして、その同調圧力に逆らうということは集団からの孤立を意味し、孤立への恐れは時に大切な判断も惑わします。長時間労働や各種ハラスメント、あるいは不正行為について「悪い」とわかっていても否定しきれず、誰一人として「おかしい」と声を上げることができなくなってしまうのです。
経営者は、自社の組織をハラスメントや不正の温床にしないために、過度な同調圧力が発生する可能性を軽減させなければなりません。具体的には組織の管理者を定期的に異動させる、社員が自由に意見を交換できる場を作るなどの対策が必要だと思います。
そして、何よりも経営者自身が現場の生の声を直接聴くことが重要です。特に職場の中で「浮いている」とか「変わっている」とか言われる社員の声に耳を傾けることが大切です。なぜなら、その声は同調圧力に流されない25%の貴重な意見かもしれないからです。
2024年9月
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Kobelco Systems Letter を購読ライター
代表取締役社長
瀬川 文宏
2002年 SO本部システム技術部長、2008年 取締役、2015年 専務執行役員、2017年3月より専務取締役、2021年3月代表取締役社長に就任。現在に至る。
持ち前のガッツでチームを引っ張る元ラガーマン。
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