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2024年04月01日

自動車のソフトウエア化に学ぶ製造業への教訓

日本の最大基幹産業である自動車産業は、今100年に1度の大変革、CASE(コネクティッド、自動化、シェアリング、電動化)に突入しています。CASEの4つの変革の中で、前回の当コラムでは、起点となる“電動化”を取り上げました。今回は、“コネクティッド”と“自動運転”の変革の進展状況を見ることで、それらが産業構造にもたらす変化、そして今後の製造業のビジネスに与える課題を考察します。

CASEにおけるコネクティッドと自動運転

図表1:CASEにおけるコネクティッドと自動運転
(注:前提とは普及していくための前提要件)

まず、“自動運転”は着実に進展しています。自動車の自動運転は6レベルあり、レベル1~2はまだ運転支援機能であり、レベル3~5は人の運転が不要となる自動運転機能となります。安全運転やドライバーの運転負荷軽減のための運転支援機能は、昨今の車ではグレードに関係なく標準装備となっています。一方、自動運転機能は実証実験を重ねることで自動運転技術が向上すると同時に、実際に自動運転車を目にすることが増え、社会受容性も高まりつつあります。人の運転を前提としない法整備が進み、日本では条件付き自動運転であるレベル3の市販車が発売されました。米国、中国を中心に自動運転サービスの本格実用化も始まっています。海外ではタクシーから、日本では公共バスから、と実用化に向けたステップの違いはありますが、確実に自動運転の社会への実装が進みだしています。

自動運転のレベル分け図表2:自動運転のレベル分け
(ソース:国土交通省資料を基に編集加工)
(クリックして拡大できます)

“自動運転”の進展に伴い、自動車の構成部品はハードウエアからソフトウエアへのシフトが加速していきます。CASE以前から、自動車のブレーキやエンジンなどの電子制御装置、カーナビや情報機器などで多くの車載ソフトウエアが搭載され、その数は年々増加してきました。そこに運転支援機能が次々と標準装備され始め、今後はさらに自動運転機能のソフトウエアが増えていきます。自動車全体のコストに占めるソフトウエアの割合は、数年前は2割程度でしたが最近は4割と倍増し、数年後には5割に達すると予測されています。

次に自動車内に実装されたソフトウエアは順次機能アップされ、更新されていきますが、その度に車のディーラーに行ってアップグレードしてもらうとなると、メーカーもユーザーも大変です。そこで重要となるのが“コネクティッド”です。車が常にネットワーク接続されていれば、スマホのOSのように勝手に最新版をダウンロードしてくれます。更に、車が“コネクティッド”されていれば、自動車の運転情報や位置情報がセンターにアップロードされ、様々なサービスを受けることもできます。“コネクティッド”され、自動アップデートされる車種は既に出回っていて、“自動運転”が進むとともに今後実装割合が増えていくと想定されます。この“コネクティッド”には通信機能が必要で、そのためのソフトウエアが増強されていきます。このように“自動運転”と“コネクティッド”が進展していくことで車の付加価値は高まり、その価値提供を担うソフトウエアが自動車の収益源となっていきます。

自動車内のソフトウエア

図表3:自動車内のソフトウエア

一方、自動車のソフトウエアは機能が増えていく度に、増大化・複雑化していきます。それらは、既にスマホやパソコンのソフトの数倍もの大きさになっていて、今後急速に増えていくことで、ソースコードは5億行を超えると予測されています。これは企業内のシステムが、部門毎のシステム開発、そして度重なる保守により肥大化していく経緯とよく似ています。企業はDXを実践していくためには、個別に作られた既存システムの統合化、体系化、そして標準化を進めていく必要があります。同様に、自動車もCASEの進展に合わせて、統合化、体系化された新しい自動車用のOSとアプリにいち早く刷新していくことが求められます。

自動車メーカーにとって収益や差別化の源泉となるソフトウエアは他に任せたり買ったりするのではなく、内製化することで主導権を握っておきたいところです。しかしながら、巨大なソフトウエアを開発し更新していくための投資の大きさや優秀な技術者確保は、大きな課題となります。その上、“自動運転”に求められるハイレベルの安全性を担保するテスト、そして“コネクティッド”された車のセキュリティ強化も難題です。これまで自動車メーカーはハードウエアに軸足を置いたものづくりをしてきた経緯もあり、専業ベンダーに任せてきたソフトウエアは決して得意とは言えません。そこで、全て自社内でソフトウエア開発を賄う垂直統合戦略だけではなく、ソフトウエア開発が得意なIT大手が提供する車載OSを利用する戦略オプションも出てきます。餅は餅屋と言います。ソフトウエア開発の得意なプレーヤと組んで水平分業を進めると同時に、自社のコンピテンシーとなる部分に経営資源を集中する戦略です。また、自社単独の開発が体力的に厳しければ、他社と共同開発、或いは他社ソフトウエアを利用する戦略をとることもあり得ます。

自動車業界に限らずどの製造業でも、付加価値が「もの」から「コト」へシフトしていく中で“コネクティッド”及び“自動運転”に類する変革が起こっています。新たな利用者価値を生み出し、開発スピードを早めるのがソフトウエアです。ソフトウエアはデータを生み出し、蓄積されたデータは新たなサービスを生み出します。製造各社がいかにソフトウエアを制するかが戦略上極めて重要となるケースが増えてきています。自社戦略を練り実行する上で、IT領域のEA(Enterprise Architecture)・SOA(Service Oriented Architecture)といったアーキテクチャー設計や、自社開発・パッケージ・クラウドの最適な組み合わせ、アジャイル・DevOpsといった開発手法が参考になります。製造業各社がソフトウエア化にどのような戦略で臨んでいくのか、注視していきたいと思います。

※:自動車の電動化:ゲームチェンジのリアルと学び
https://www.kobelcosys.co.jp/column/monozukuri/20240301/  

2024年4月

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