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毎月更新中!社長通信 社長が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2016年06月01日

日本型雇用とグローバル時代

雨の日ITサービス会社にとって「最大の資産は人」だと言われます。人材という字を人財と記して価値を生む人的財産として扱うのは、人のサービスで成り立っているITサービス企業としてもっともだと思います。しかしながら、資産の全てが価値を生むかどうか。

例えば製造業で考えると、事業ポートフォリオが中長期事業戦略の中で変わった場合、古い事業の生産設備を廃棄・売却して新しい事業のための生産設備を購入します。時にはM&Aによって効率的に事業変換を行うことは普通のことです。また、同じ事業を続ける場合でも、より高い利益を求めて効率化や高品質な製品を生み出す生産設備に更新したりもします。

一方、人の場合は、生産設備のようにむやみに「更新」できないように、日本では法律で正社員が保護されています。人だからこそ自らの価値を高めていくことを前提として、終身雇用が成り立っているのだと思います。

米国では労働流動性が高く、法律で雇用を保護するようになっていません。事業戦略が変われば、人も変わるのが一般的です。例えば、IBMが1993年に80億ドルという巨額赤字に陥った時、従来の大型コンピュータからサービスビジネスにシフトするために、世界中の社員を最盛期の40万人から22万人まで削減しました。その後、ソフトやサービスビジネスが成長するのに合わせてM&Aなどを通じて新たな社員を増やし、再度43万人まで戻しました。事業ポートフォリオに合わせて人も変えていくというダイナミックな経営ができるわけです。


先日、大手証券会社で人事企画の責任者を務められていた方とお話をする機会がありました。氏は国内の証券の営業として活躍された後、チューリッヒやロンドン、香港で駐在を歴任されました。その後、日本に戻られて人事企画を担当された時、海外の経験を通じて、「日本の人事制度はガラパゴス化している、避けて通れないグローバル化の中で、このままでは日本は勝ち残れないのではないか」と感じられたそうです。氏の著書で、日本の労働法を踏まえながら、どうすればグローバル化の中で日本企業が戦うことができるのか、人事の観点から幾つか提言されています。詳しくは文末に紹介していますのでご参考いただきたいと思います。私がそこから感じたことは、以下のような点です。

正社員を法律上解雇できない前提のモデルケースでは、新卒から定年までの終身で約38年間、日本の平均賃金で計算すると一人当たり約2億円を超える負債という見方ができます。バランスシートに反映すれば日本の大企業は米国の企業に比べて、自己資本比率が小さくなり、それだけ企業価値が低くなるということです。社員から見れば、それは終身において雇用が守られるという債権でもあるということです。冒頭に申し上げたように、人が切磋琢磨して常に高い生産性や価値を会社に38年に渡って提供し続けるなら、会社にとっては投資以上の利益がもたらされるので素晴らしいことです。また、社員にとっても安心して自己啓発、自己実現ができるということで双方幸せなのですが、いかんせん、社員は何時でも会社を変わることができます。優秀な社員であればなおさらです。政府も同一労働、同一賃金を打ち出しましたが、その結果、今後、日本も労働流動性が高まることが予想されます。そうなれば企業にとって、長期雇用の利点がリスクとなる可能性もあるわけです。それを回避するためには、多様な働き方ができる環境やカルチャーを育てていかねばなりません。また、賃金体系のベースを職能給から職務給に変え、ある程度の成果報酬も組み込み、優秀な社員にはその成果に見合う魅力的な報酬を支払うことも必要だと思います。


この原稿を書いている5月22日の朝日新聞に「正社員という働き方」という連載記事の1回目がありました。人事管理が専門の今野学習院大学教授が、「欧米はポストが空くと外部から人材を求めるが日本では会社で育てる方式。これを欧米のように変えると大学での教育も根底から変えないといけない。どちらが良いという事ではないが、日本流は素人の若者を取りあえず就職させることで若者の失業率が低くなるメリットがある」と解説されていました。この解説では社会からすると日本流が良いように見えても、企業側からすると、新卒者が一人前になるまでは投資であり、利益率を押し下げることになります。

私は、長期的視点で経営する日本企業としては、優秀な人材の育成と言う観点からするとそれも「あり」だと思います。短期的利益を優先してキャリア採用に重点を置く欧米企業が若者の高い失業率と格差社会を生み出し、社会的不安定を生みだしているとの意見もありますので、日本的経営に魅力を感じるのです。しかし、日本流をグローバル競争の中でどこまで続けることができるのか。前述の著書では、「雇用という負債」と「企業への貢献」のバランスが取れる方法として、終身雇用ではなく、20年の有期雇用で今の倍に報酬を高めるという説が述べられています。この説は日本の労働法を踏まえながらグローバル時代に打ち勝つ一つの方法として有効ではないかと考えさせられます。


ネットワークとデジタル革命により、世界中がものすごいスピードで変化しています。その中で、人の人生にまつわる、人の一生に関わる労働のあり方は、長い時間を積み重ねてきた結果出来上がったものです。社会との関わりを含め簡単に変えることはできません。だからこそ、今、現実の変化をよく見て、よりふさわしいあり方に向かって一歩でも早く踏み出だすことが重要だと思います。


2016年6月



■ご参考
『日本企業のグローバル人事戦略』(日本経済新聞出版社)
『グローバリズムと共感の時代の人事制度』(白桃書房)
著者:山西 均
元 野村ホールディングス(株)グループHR企画室長、
現 野村バブコックアンドブラウン(株)取締役


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