menu

毎月更新中!社長通信 社長が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2025年11月01日

「負け組の星」ハルウララを偲んで
~勝負の場に参加し続けることの価値~

「負け組の星」ハルウララを偲んで2000年代前半、「勝ち組」「負け組」という言葉が流行しました。当時、成功した一部の企業や個人が「勝ち組」と称される一方で、赤字企業や生活が不安定な人々のことを「負け組」と呼ぶ風潮がありました。
そんな時代に、「負け組の星」と呼ばれた競走馬がいました。「彼女」の名前は、「ハルウララ」。何度走っても勝てず、ついに一度も勝利を挙げることなく引退した彼女は、2025年9月9日、余生を過ごしていた千葉県御宿町のマーサファームでその命を終えました。29歳でした。人間で例えるならば、およそ90歳にあたります。

彼女は北海道生まれで、小さい頃から小柄で臆病だったためセリ市に上場しても買い手がつかず、誕生した信田牧場が自ら所有する形で競走馬となりました。あまり活躍が期待できなかったからか、預託料が日本で最も安かった高知競馬に預けられることになります。
1998年11月のデビュー戦は5頭立ての5着。その後も連敗を続け、2003年5月には80敗を超えていました。この頃、競馬場の関係者から彼女の話を聞いた地元の高知新聞社が、「1回ぐらい、勝とうな」という見出しで記事を掲載しました。財政状況の悪化から廃止の危機に瀕していた高知競馬場も「話題になるなら」と広報資料をマスコミ各社に配布。全国紙やテレビでも取り上げられるようになり、「リストラ時代の対抗馬」「負け組の星」と報じられたことがきっかけに「ハルウララ」ブームは全国に広がっていきました。「ハルウララ」という可愛らしい名前も手伝って、彼女の人気は一気に過熱していったのです。
100連敗となった2003年12月のレースには5,000人を超えるファンが集まり、33社、約120人の報道陣が取材に訪れたそうです。そして、翌2004年3月の106戦目のレースには中央競馬のトップ騎手である武豊が騎乗することで大きな話題になりました。
2004年8月を最後に引退するまで113戦0勝(2着5回、3着7回)。その後も2021年にスマートフォン向けゲームアプリ『ウマ娘 プリティーダービー』のキャラクターとして登場し、英語版がリリースされると海外でも人気を博しました。買っても「当たらない」ことから、馬券が交通安全のお守りになり、グッズも飛ぶように売れて映画やCDも作られるほどのフィーバーぶりでした。

彼女は負け続けることで人気者になり高知競馬場の救世主となりました。では、なぜ負け続けられたかといえば、それだけレースに出続けることができたからなのです。実際、彼女は一度、蹄の疾患で出走を取りやめた以外はコンスタントに出走を続け、年間20回ほど走りました。当時は1回出走すると6万円の手当がついたため、1年に約120万円の出走手当を稼いでいたのです。高知競馬場が馬主に請求する預託料は年間130万円~140万円だったということで、優勝賞金は入らなくても、彼女はレースに出続けることで自らの“生活資金”を稼いでいたのです。もし年間15回ぐらいしか出走できない体質だったら、あるいは少しでもけがなどで走られない時期があれば、即座に引退に追い込まれていたことでしょう。

「競争のないところにイノベーションは生まれない」というのは、ビジネスの世界でよく語られる言葉。一方で、「継続こそ価値である」という価値観が日本には根付いています。その結果として、日本には創業100年以上の永続企業が3万社を超えて存在します。売上や利益よりも、「信用」や「地元への貢献」を優先し、地域社会と強く結びついてきた数多くの企業が、日本経済の成長を支えてきました。
松下電器の創業者・松下幸之助氏は、「企業の目的は“永続”である」と語り社会に貢献し続けることが使命であると説いています。また、「成功するためには、成功するまで続けることである」とも述べています。競争に煽られるのではなく、変化に対応し続けながら、長く市場に存在し、必要とされ続けることこそが、真に価値ある企業の姿であるという考えです。彼女のように、「勝つ」ことよりも「勝負の場に参加し続ける」ことが重要なのです。企業経営においても、目先の結果にとらわれず、事業を継続し、社会とともに共生していくという高い目標を追い続ける努力こそが、今まさに求められているのではないかと考えます。

負け続けたことで「負け組の星」と呼ばれましたが、彼女は本当に「負け組」だったのでしょうか。「無事これ名馬」は競馬ファンでもあった作家・菊池寛氏が色紙によく書いた言葉。「無事これ名馬」という格言をまさに体現した彼女は、レースで勝つことはなかったかもしれませんが、むしろ「勝ち組」と言える存在だったのではないでしょうか。
あの時代の「名馬」であった彼女を偲んで。合掌

2025年11月

ITの可能性が満載のメルマガを、お客様への想いと共にお届けします!

Kobelco Systems Letter を購読

電話でのお問い合わせ

営業時間 9:00-17:30(土・日・祝日は除く)

Webでのお問い合わせ

お問い合わせ