2025年06月30日
多くの昇進力士が使う「一生懸命」の持つ意味
~自分だけの評価軸の大切さ~
大相撲夏場所で優勝を飾った大関・大の里の第75代横綱昇進が決まりました。日本出身力士では現在の師匠で2017年に昇進した稀勢の里(現二所ノ関親方)以来8年ぶり。伝達式では「横綱の地位を汚さぬよう稽古に精進し、唯一無二の横綱を目指します」と口上を述べました。「唯一無二」という言葉は昨年秋場所後の大関昇進時と同じ。別の文言も考えたそうですが、「自分には『唯一無二』という言葉しかない」と、今回もこの四字熟語を使ったとのことです。
大関や横綱に推挙された時に四字熟語を使って口上を述べるようになったのはいつからでしょうか。琴桜や輪島が横綱昇進時に「一生懸命精進致します」や「一生懸命努力します」と述べた時は四字熟語という意識はなかったのでしょう。貴ノ花(当時)が1993年に大関に推挙された時に述べた「今後も不撓不屈(ふとうふくつ)の精神で相撲道に精進致します」が最初だと言われています。
その後は、大関昇進時の若ノ花が「一意専心(いちいせんしん)」、貴ノ浪が「勇往邁進(ゆうおうまいしん)」などの言葉を用い、モンゴル出身力士も朝青龍が「一生懸命」、白鵬が「全身全霊」などと四字熟語を用いるようになりました。
「一生懸命」は元々「武士が『一か所』の領地を命がけで守り、それを生活の頼りにして生きたこと」が由来の「一所懸命」(いっしょけんめい)が転じた言葉。「物事を命がけでやる」という意味で「一生懸命」と書かれるようになりました。現在ではテレビや新聞でも「一生懸命」と表記・表現される場合が多くなっています。この「一生懸命」は日本人なら誰もが意味を知っている着飾らない言葉であり、相撲道に打ち込む決意を示しているのでしょう。
これに対し、若ノ花が使った「一意専心」は中国の様々な分野の思想や哲学をまとめた書物「管子」の中の一文が由来とされ、「一つのことにひたすら心を集中すること」という意味。馴染みのない四字熟語なので当時話題となりましたが、言わんとすることは「一生懸命」とあまり変わりがないようにも感じられます。
多くの力士が使った「一生懸命」という言葉。「一つのことに集中して地道に努力する」ことに重きを置く日本人の心には響くのでしょう。例えば、有名なイソップ童話の『ウサギとカメ』でも、日本人は自らをカメに重ね合わせる傾向が強いと言われます。カメのように「地道に一生懸命努力することで、いつか大きな成果を得られる」という教えを好みます。ちなみに米国人は自身をウサギに重ね合わせる傾向があるそうで、「相手が弱くとも怠けると負ける」という教えになります。これは「個人の才能を活かして競争に勝つ」ことに重きを置く国民性から来ているのかもしれません。
また、日本では別の教訓として「ウサギは競争相手のカメを見て走ったため油断して負けたが、カメはゴールだけを見て歩んだから勝った」という文脈がよく使われます。要は、相手に勝つか負けるかではなく、自分できちんとした目標を定めて一生懸命努力することが大切だという教えです。しかし、そんな教えとは裏腹に実際の仕事では、他人の評価を過度に気にしたり、周囲と自分を比較したり、自分の意思よりも他人の評価を尊重する人が多いのも事実です。
先日、当社の新入社員とのラウンドテーブル(意見交換会)がありました。その中で、「自分は他人からの評価がとても気になってしまうが、どうしたら良いか」という質問が出ました。他人の目が気になる自分を自覚し、勇気を持って自ら質問する前向きな姿勢に、私はとても感心しつつ、前述の『ウサギとカメ』の話をしました。
誰しも周囲の目が気になります。他人から評価されたい、周囲から認められたい、と思うのは人間として自然なことです。ただ、自分はどうなりたいのか、何を大切にするのか、何が正しいと思うのか、その答えは自分の中にしかありません。あまり他人にどう思われるかを基準にせず、自分への評価や評判に必要以上にとらわれないことが大事だと思います。他人の評価軸だけをよりどころにしてしまうと、頑張れば頑張るほど高まっていく周囲の期待、つまり「ハードルの高さ」に苦しみ、圧し潰されてしまいます。
人は誰しも唯一無二の存在であり、人生の主役は自分です。自分にしかできない役割や自分にしか支えられない人がいるはずです。傷つくことを恐れず、自分だけの評価軸を持って正しいと思うことに一生懸命取り組んでいく、その覚悟こそが大切ではないでしょうか。
新入社員の皆さんが「唯一無二」の素晴らしい人生を歩んでくれることを心から願いながら、今年も新入社員とのラウンドテーブルが終わりました。
2025年7月
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Kobelco Systems Letter を購読ライター

代表取締役社長
瀬川 文宏
2002年 SO本部システム技術部長、2008年 取締役、2015年 専務執行役員、2017年3月より専務取締役、2021年3月代表取締役社長に就任。現在に至る。
持ち前のガッツでチームを引っ張る元ラガーマン。
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