2021年10月01日
プロゴルファーの「守破離」
~模倣と反復そして創造~
コロナ禍の中、ソーシャルディスタンスを保ちながら手軽に少人数で楽しめる屋外スポーツとして、ゴルフの人気が急上昇です。 今年、プロゴルフ界では松山英樹選手が、4月の「マスターズ」で日本男子初のメジャー制覇という歴史的快挙を達成。東京五輪ではプレーオフで敗れて惜しくもメダル獲得はなりませんでしたが、世界のトップゴルファーとしての存在感を十分に示しました。 女子でも今年3月から2ヵ月ちょっとで5勝を挙げた稲見萌寧選手が、世界ランキングを急上昇させて東京五輪に出場。日本人選手として初のオリンピックのメダルとなる銀メダルを獲得しました。
ゴルフは野球などと違い、止まっているボールを打つのだから簡単…という考えがとんでもない間違いであることは、少しゴルフをかじったことがある人なら誰でも分かるでしょう。同じ場所から、同じクラブで、同じ強さで、同じスイングをしても(したつもりでも)、同じように飛ばないのがゴルフ。いかに自分のフォームを固めて、同じスイングで同じボールを打てるか。この「再現性」を高めることが重要な要素になっています。
東京五輪ゴルフ日本代表の丸山茂樹ヘッドコーチも「松山の一番すごいところは再現性をしっかりと持つ、それを高めるための練習量をこなすこと」と話しています。
また、「起用な手先を使わず、体の大きなパーツでコントロールするから、東京五輪のような緊張する場面でもスイングの再現性が高い」(石井忍プロ)と言われる稲見選手のスイングも豊富な練習量によって作られたものです。
世界で結果を出しているトップ選手は共通して「再現性」に優れていて、そのための地道な反復練習を誰よりも繰り返してきた努力家たちなのです。
今年7月、NHKで放送された「チコちゃんに叱られる」という番組の中で「運動神経」が取り上げられました。「運動神経は、生まれ持った才能よりも、繰り返し練習した成果であり、誰でも身につけられる」とし、うまくできた「成功体験」と、それを「反復練習」することで運動神経は身につくという考えを日本女子体育大学の深代千之学長は示しました。
個人の仕事の能力も同じで、例えばある技術やスキルを自分のものとして会得するため、そしてどのような状況でもそれを再現できるようにするためには、地道な「反復練習」しかないのです。「反復練習」を重ねることで再現性も上がり、より高いレベルで仕事に取り組むことができるようになります。
大切なのは、何を反復練習するか、言い換えればどうやって成功体験を得るか、です。
定型的な業務の場合、「こうすれば、うまくいく」という成功体験を文書化しマニュアルという形式知にすることで、反復練習が効率的に行われます。
一方、非定型業務の場合、成功体験で得たものは個人の暗黙知として蓄積されてしまうケースがほとんどです。そのため自分自身が実際に成功を体験して反復練習するべきものを見つけるしかありません。
例えば、先輩社員などと一緒に仕事をすることは、特に非定型業務の能力開発には効果的です。「こうすれば、あの人はうまくいった」という成功体験を実際にその場で味わい、先輩社員のやり方を「真似て」繰り返しやってみる。昔からの徒弟制度による人材育成は、先輩社員の暗黙知を継承するのに適した方法だったとも言えます。
そもそも「学ぶ」の語源は「真似る」であると言われています。今年6月の「全米女子オープン」で、メジャー初制覇を成し遂げた笹生優花選手は、男子ゴルフのロリー・マキロイ選手(英国)のスイングを徹底的に真似ることで再現性の高いショットを作り上げました。 先人達を真似ることで、より明確な目標をもって練習を始めることができます。先人を乗り越えようとモチベーションを維持しながら日々精進することができるかどうかが、一流になれるか否かの分かれ道なのかも知れません。
最後に、「基本を繰り返し練習していると、新しい世界がみえてくる」とは、ゴルフ界の‘帝王’ジャック・ニクラウス氏の言葉です。毎年シーズンを迎える前に基本練習を徹底的に繰り返していると、昨年まで感じなかった新しいものを感じるようになると彼は言いました。
基本の反復練習によって、技術を無意識の中で高いレベルに安定させる。これができるようになると、様々な場面に広い視野を持って取り組むことが可能になり、自分なりの応用すなわち独自性が生まれてきます。そこまできてはじめてニクラウス氏のように新しい何かを感じ、新しいものを創造できるのでしょう。
日本の茶道や武道などの修業における過程を示したものに「守破離」という言葉があります。「守」は、師や流派の教え、型を忠実に守り、確実に身につける最初の段階。「破」は、他から良いものを取り入れ、心技を発展させる次の段階。最後の「離」は、独自の新しいものを生み出し確立させる段階です。前述のニクラウス氏の例は、まさに「守破離」のプロセスを実践したものだと思います。
個人だけではなく企業としての能力も同じです。新規事業を起こそうと考えるならば、まずは先行企業の作り上げたビジネスのやり方を徹底的に真似てみる。それを繰り返し、繰り返し取り組むことで新規事業に携わる組織全体の能力向上につながり、改善点も見えてくる。遠回りのようでも、そうやって一つひとつレベルアップしながら改善を重ねていくことよって、徐々に独自性が発揮され、最終的には自社独自の発想や新しい戦略が生まれ、会社を支える事業にまで育て上げられるのではないでしょうか。
2021年10月
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Kobelco Systems Letter を購読ライター

代表取締役社長
瀬川 文宏
2002年 SO本部システム技術部長、2008年 取締役、2015年 専務執行役員、2017年3月より専務取締役、2021年3月代表取締役社長に就任。現在に至る。
持ち前のガッツでチームを引っ張る元ラガーマン。
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