2018年12月01日
デジタル・トランスフォーメーション(DX)と「2025年の崖」
~SoEとSoR 両利きの経営で崖を越えよう~
今年も早いもので師走となりました。1年がますます早く感じるのは歳のせいでしょうか。
今年のITサービス業界は需要が旺盛であり、当社もおかげさまで良い年を越せそうです。とはいえITサービスはまだまだ労働集約型ビジネスですので、需給がひっ迫するとリソース不足で頭を悩まして嬉しい悲鳴を上げています。そこで今月はなぜこのようにITサービスの需要が旺盛なのかについて考えてみたいと思います。
日本のGDP成長率は相変わらず低空飛行なのに、国内のIT予算増加率は図1のとおり世界平均を上回って旺盛です。クラウドやAI、セキュリティなどデジタル・トランスフォーメーション(DX)の関連が伸びるのは理解できますが、驚くのは図2にあるように基幹システムの改良・刷新が日本では大きく伸びていることです。これはどうしてなのかということですが、デジタル時代だからこそレガシーシステムの開発保守の生産性向上が求められてくるのが実情だからです。
昨今のデジタル変革の時代の潮流に取り残されないようにと、日本企業はSystems of Engagement(SoE)と称される顧客関係性を簡便に構築・強化できる先進技術への取り組みを本格化させています。このトレンドは不可逆的であり、その対応にユーザー企業とともに我々ITサービス会社も本格的に取組まざるをえません。ところがデジタル変革を推進すれば、それは基幹システム(Systems of Record:SoR)への変更要求も伴うことになるのですが、SoEの要求スピードにSoRが従来の生産性では追いつけなくなってきます。そこで、自動化ソリューションや高速開発といったキーワードも出てくるのですが、これらはレガシーシステムの近代化が前提です。これは即ち、基幹システムの再構築ニーズにつながることに他なりません。これについて経済産業省としてはDXが進まないことにより2025年以降に大きな経済損失(最大12兆円/年)の発生に危機感を抱いており、進まない理由として基幹システムの近代化が遅れていることを示し「ITシステム2025年の崖」※1と言って問題提起しています。
日本企業はバブル崩壊後の失われた20年の間IT投資を抑制してきたのですが、そのツケが廻ってきたのでしょうね。さらには電力・ガスの法的分離対応やSAP社のERPの現行版のサポートが2025年に終了することもあり、このような背景で日本では基幹システム再構築の大きな波が来ているのだと推察しています。特に日本の製造業はSoEとSoRの双方に大きな投資をしようとしています。この波は2025年までには対応しきれないくらい大きい波だと感じています。
ところでSoRは現行の再構築なので予算も範囲もわかりやすいしボリュームも大きいので予算さえ確保できれば進めやすいのですが、SoEはデジタル人材の不足で予算はあってもなかなか前に進まない傾向があります。当社もSoRを支援する人材は豊富にいますがSoE人材はまだまだです。しかし、SoRの需要が旺盛になってきたからと言ってそればかりに注力してSoEへの投資や人材育成を怠った瞬間に当社も我々のお客様も衰退が始まります。
早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授が、著書※2のなかでイノベーションの絶対条件として「両利きの経営」を示していますが、これは高い次元で左右のバランスをとる経営を意味しています。既存事業(コアビジネス)が多忙な時ほどこのバランス取りは難しいのですが、SoEとSoRは今まさに両利きの経営を必要とするのではないでしょうか。当社はSoEとSoR刷新の両面で神戸製鋼グループをはじめとするお客様の両利きの経営を支え、崖を越えていきたいと思います。
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※1:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~
http://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html
※2:入山章栄『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』日経BP社,2015
2018年12月
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Kobelco Systems Letter を購読ライター

元 代表取締役社長
田野 美雄
日本IBM製造事業部ディレクターなどを経て、2014年 執行役員 ERPソリューション本部長。
2015年3月より専務取締役。
2017年3月に代表取締役社長就任。
2021年3月退任。
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