ナブテスコ株式会社様

ナブテスコ株式会社様

SAP S/4HANAと周辺システムのビッグバン導入により全体最適を実現、イノベーションを起こすためのデータ活用基盤を確立

導入前の問題

  • 既存の基幹システム(SAP R/3)のメーカー保守サポートが2025年以降受けられない
  • 基幹システムに多くの機能が集約され、複雑化していたため、保守工数が増大
  • 既存システムの複雑化により、データの連携や活用が難しい
  • 精密減速機のマザー工場である津工場では、測定基準値や検査情報が個別に管理され、業務が属人化
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導入後の効果

  • SAP S/4HANAへの移行によりサポート切れを回避。クラウド移行により運用コスト削減
  • ERPと周辺システムの役割を明確化し、システムの全体最適化を実現。それに伴うアドオンや機能の削減により、保守性が向上。データを活用した業容拡大と業務変化への柔軟な対応が可能に
  • PLM・MES導入によりデータの一元化・可視化を実現し、属人化の排除と自動化を推進可能に
  • プロジェクト管理や業務改善の知見やノウハウが蓄積され、社内の人材育成が進む
モノを動かし止める「モーションコントロール技術」を中核に、各種分野で産業用機器を開発・製造するナブテスコ株式会社(以下、ナブテスコ)。同社では、長年にわたって利用してきた基幹システムSAP R/3のサポート終了を機に、次期基幹システムの在り方について検討。一連の刷新プロジェクトを通じ、イノベーションを起こすためのデータ活用基盤の構築を目指すことにしました。基幹システムと周辺システムの役割を明確にし、両者をシームレスに連携するという方針のもと、プロジェクトはスタート。パートナーであるコベルコシステムの支援を得て、2024年に国内への展開を完了しました。新たに移行したSAP S/4HANAとPLM、MES、スケジューラなど周辺システムとの連携によりシステムアーキテクチャの全体最適が実現したほか、プロジェクトを通じて社内のIT人材の育成も進んでいます。

導入のきっかけ

基幹システムのサポート終了を機にイノベーションを起こすためのデータ活用基盤構築を目指す

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情報システム部長
松本 康夫 氏

2003年の誕生以来、多様なビジネスをグローバルに展開し、トップシェアの製品・サービスを多く生み出すなど、着実な成長を遂げてきたナブテスコ。同社の誇るモーションコントロール技術は、さまざまな産業機器や乗り物を「うごかす、とめる。」ことに活用されており、産業用ロボットの関節用途に使用する精密減速機をはじめ、航空機、鉄道、船舶、自動ドアなど、各分野で数多くの世界シェアNo.1、国内シェアNo.1の製品を生み出しています。

同社では、基幹システムとして1995年にSAP R/3を導入。バージョンアップを繰り返しながら利用を続けてきましたが、そのサポート終了が2025年に迫ってきたため、次期基幹システムの在り方について検討することになりました。その際、キーワードとして浮上したのが「イノベーション」です。同社は、2030年に在りたい姿を実現するための長期ビジョンとして、「未来の"ほしい"に挑戦し続けるイノベーションリーダー」になることを掲げています。そこで、一連のERP刷新プロジェクトを通じ、このビジョンの実現を目指すことにしたのです。この点について、今回のプロジェクトの統括責任者を務めた情報システム部長の松本康夫氏は「プロセスとプロダクトにおいてイノベーションを起こすため、社内のデータを十二分に活用できる基盤を構築するという全体像を描き、そこから具体的な検討を進めました。基本的な方針としては、ERPは伝票処理(SoR)に留め、周辺システム側に当社の強みや差別化要素を移行していこうと考えました」と説明します。

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情報システム部
岐阜システム運用グループ
グループリーダー
白石 和也 氏
既存のSAP R/3は、長年使い続けてきたこともあって多くの機能が集約されており、システム連携するためのアドオンも膨大な数に及んでいました。津工場においてプロジェクトマネージャーを務めた情報システム部 岐阜システム運用グループ グループリーダーの白石和也氏は「ERPに機能を集約し過ぎたことでシステムが複雑化し、身動きがとれない状態でした。また、部分的にアナログな業務が残っていたり、製造系システムとシームレスな連携ができていなかったりと、データはあっても十分な活用ができていませんでした」と語ります。

中でも大きな課題の一つが、工場内におけるデータの扱いでした。 津工場は、産業用ロボット関節用途「精密減速機」やメカトロ駆動装置の開発・生産を行う同社のマザー工場です。この工場では、製造系システムを導入していたものの、測定基準値や検査情報は個別管理されている状況でした。それゆえ、目当てのデータがどこにあるかすぐにわからず、とても苦労していたといいます。

「データが点在していた結果、変更したことが現場に伝わっていない、逆に現場の方に最新データがあったなど、行き違いがしばしば発生していました。そこで、一気通貫でデータを扱えるようにすることをプロジェクトの目標に掲げたのです」(松本氏)


導入の経緯

業務への深い理解とワンチーム体制を評価し、コベルコシステムをパートナーに選定

ナブテスコは2017年半ばから基幹システムの刷新について検討を開始し、コンサルタントの協力のもと、システムのあるべき姿を議論。2018年からはコベルコシステムを交えてSoR、SoEといったペースレイヤリングモデルに沿って、各カンパニーのアプリケーションをマッピングしていく、システムアーキテクチャ策定を実施しました。システムの方向性としては、自社の強みを最大化し「進化し続ける仕組みを実現する領域」(SoE)と業務の徹底的な標準化/スリム化を達成し「データの記録と蓄積を目的とする領域」(SoR)の2点に分類しました。これに基づきERPの標準化を図り、その他の差別化機能は適材適所の周辺システムに移行し、各システムを連携することによって全体最適を図ることとしました。また、ペースレイヤリングに加え、他カンパニーへのスピード感を持った展開とノウハウ共有によるスケールメリットを考慮し、ビジネスフローの再定義(BPR)を実施することで、業務の徹底的な標準化とシステム基盤の共通化を図りました。
同社は上述したシステム化方針のもと、2019年よりSoR領域にはSAP S/4HANAを導入することを決定し、6つある各カンパニーへ展開していく計画を策定しました。
「他のERP製品やスクラッチでの開発も検討しましたが、これまで当社は長年にわたってSAP ERPを利用してきており、SAPユーザーとしてのノウハウが蓄積されています。これを捨ててまで他のERP製品を導入するほどのメリットがあるかというと疑問でした。加えて、ユーザー教育には時間がかかりますし、切り替え直後のトラブルも避けられません。既存システムのサポートが終了する2025年までに6カンパニーを移行させるという時間的制約も考えると、SAP S/4HANAへの移行がベストと判断しました。また、ランニングコストやリソースを考慮して、従来のデータセンターではなくAWS上での稼働を決めました」(松本氏)

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情報システム部
東海システム運用グループ
グループリーダー
寺下 隆規 氏
今回のプロジェクトでは、SAP S/4HANAおよびPLM、SCM、MES、CRM、スケジューラなど周辺システムのそれぞれについてコンペを実施しましたが、PLM、MES、スケジューラに関して、コベルコシステムがパートナーに選ばれています。その理由について、MES導入プロジェクトを担当した情報システム部 東海システム運用グループ グループリーダーの寺下隆規氏は、同社とコベルコシステムが1995年のSAP R/3導入以来の付き合いで、RFPによるシステム導入提案において、業務への理解度および他システムと横串を刺せる推進体制を備えていたことに優位性があったといいます。
「当社の業務について深く理解しているうえ、各工場に支援要員が入ることで普段から現場の悩みもよく聞いているため、共通言語でコミュニケーションが取れることに安心感がありました。加えて、これまで積み重ねてきた実績をベースに、共に考え、プロジェクトを推進してくれるワンチームの体制にも大きな魅力を感じました」

また、各ベンダーの提案を検討する上では、いかに少ない工数とコストでシステムを実現できるかがポイントになりました。「当社の業務を良く知るコベルコシステムだからこそ、システム導入における手戻りのリスクが少なく工数をミニマムにできたと考えています。この点、他社はまず現状を把握するための調査が必要になりますから」(松本氏)

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精機カンパニー
浜松工場 計画課
課長
淺野 彰夫 氏
プロジェクトは2019年4月にキックオフ。本社経理からSAP S/4HANAへの移行を進めました。各カンパニーについては津工場を皮切りに、旧システムのサポート終了期限前の2024年に関西地区をもって国内全カンパニーへの展開を終えています。また、これと同時に周辺システムの刷新や新規導入を実施。プロジェクトの先陣を切った津工場では、MESの「DELMIA Apriso」、PLM(製品ライフサイクル管理)の「Aras Innovator」、SCH(生産スケジューラ)の「Flexsche」を同時導入し、2020年末にサービスインしました。かつて情報システム部に在籍していた経緯から、プロジェクトマネージャーとして現場のとりまとめと、情報システム部との橋渡しを担った精機カンパニー 浜松工場 計画課 課長の淺野彰夫氏は、今回のプロジェクトについて「システムは可視化できないものなので、開発側と現場がコミュニケーションをとっていても、十分に反映できない部分はどうしても出てしまいます。コベルコシステムはSAP ERPのモジュールであるSD(販売管理)、PP(生産計画/管理)、MM(購買管理/在庫管理)、FICO(財務/管理会計)や、MES、PLMなどのソリューションごとに専門担当を配置し、システムと業務、PJ全体の整合性を保ちながら、現場の困りごとをどのようにシステムに落とし込んでいけば良いか、きめ細かくサポートいただきました。おかげで、業務と齟齬のないシステムができたと感じています」と振り返ります。



導入の効果

システムの全体最適化を実現、プロジェクトを通じた人材育成も実感

ナブテスコは今回の導入について、本当の意味での効果が発揮されるのはこれからと考えていますが、ERP、PLM、MESについては、一部で既に効果が出ているといいます。たとえば、機能の最適配置により、自動倉庫や生産・物流の自動化設備の導入など、プロセスイノベーションに迅速に対応できるようになりました。また、システム構成と連携方式を最適化したことで、開発・運用コスト削減、システム全体の安定性や保守性が向上するなど、多方面にわたるメリットをもたらしています。

「周辺システムに機能を移行し、ERP本体の機能数は実質的に半減しました。また、以前は生産に関わる周辺システムをデジタル化しないまま無理やりERPに組み込んでいたためスパゲッティ状態になっていましたが、周辺システムをデジタル化し連携させたことで、これが解消し全体の最適化が実現しました」(白石氏)

また、データの利活用を伴う業務改善が進められています。

「システムからSQLでデータを容易に取得できるようになったことで、データの活用基盤が整いました。今はまだデータの蓄積段階で、本格的な活用はこれからになりますが、現時点での成果としては、状況の可視化と生産プロセスの自動化が進んだことで迅速に出来高を把握できるようになりました。また、可視化によって問題の特定が容易になりましたので、これまでのようにベテランの経験や勘に頼らずとも対応できるようになると思います。今後はさらなる自動化を進めることで、直行率や稼働率の向上、スケジューリングのフィードバックに期待しています」(淺野氏)

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情報システム部
開発グループ
マネージャー
上田 雅幸 氏
もう一つの大きな成果が、プロジェクトを通じて社内に知見やノウハウが蓄積され、多くの人材が育ったことです。今回のプロジェクトでは、全社からエース級の人材が集められ、各カンパニーのメンバーがお互いのモノづくりや情報管理の手法に触れるとともに、さまざまな調整を経験しました。プロジェクトリーダー統括でSAP S/4HANA導入プロジェクトリーダーを務めた情報システム部 開発グループ マネージャーの上田雅幸氏は「これだけの大規模プロジェクトにおいて、構想から企画、設計、開発、構築、導入、運用まで一連のプロセスに数多くのメンバーが参加したことはとても貴重な経験だったと思います。システム部門・業務部門の各メンバーがプロジェクト管理や業務改善の、知見やノウハウを持ち帰り、横断的に活用することで組織力強化につながると期待しています」と語ります。


今後の展望

データを活用してイノベーションを起こす、本来目標への取り組みを推進

ナブテスコにおけるSAP S/4HANAへの最終的な移行は、グローバルへの展開まで含めて2027年に完了する予定です。

「いかにデータを活用し効果を生むかということを考え、デジタルツインの世界を築くことにより、グローバルレベルでの最適化を進めていきたいと思っています」(松本氏)

さらにこのプロジェクトのテーマであった「イノベーション」を起こすための今後の展望として松本氏は「現在は、データを活用することでイノベーションを起こすという取り組みを始めており、これが本格化することで真の効果が発揮されると思います。従来、自分の業務しかわからず個別最適にとどまっていましたが、プロジェクトを通して全体最適化へとつながる目線ができました。全体最適の視点でスループットや組織メリットを最大化すべく、業務改善や業務改革に取り組み続ける文化を根付かせながら、真のイノベーション創出に繋げていきたい」と言います。

最後に、コベルコシステムに対する期待として寺下氏は「これからはMES、PLM、スケジューラなど幅広い領域でデータの活用が求められます。そうした点でもパートナーとしてご支援いただきたいです」と述べ、上田氏も「ERPがスリム化したことで生まれたリソースを、今後はデータ活用へとシフトしていくことになります。コベルコシステムには、全体最適へとつながるデータ活用の在り方についてサポートしてほしいです」と話します。また、松本氏と白石氏は「互いの次世代のメンバー育成も視野に入れて、チャレンジングな取り組みを進めていきたい」と語ってくれました。

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後列左からコベルコシステム 松原(担当営業)、ナブテスコ 松本氏、上田氏、白石氏、寺下氏
前列左からコベルコシステム 大和(スケジューラーPM)、上谷(SAP PM)、山田(統括 PM)、佐藤(MES PM)、宇田(MES 担当SE)

※この記事は2025年6月時点の内容です。

導入された企業様

うごかす、とめる。Nabtesco
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ナブテスコ製品が採用される代表的な製品分野

ナブテスコ株式会社

設立:2003年9月29日
所在地:東京都千代田区平河町2丁目7番9号 JA共済ビル
URL:https://www.nabtesco.com/
資本金:100億円
売上高:3,234億円(2024年12月期)
従業員数:単体 8,227人(連結 2024年12月末)

<事業内容>
精密減速機、油圧機器、鉄道車両用機器、航空機器、舶用機器、商用車用機器、自動ドア

〈会社概要〉
株式会社ナブコと帝人製機株式会社の2社が、2003年に統合し誕生。“モノを精密に動かし、止める”「モーションコントロール技術」をコア技術として、独創性の高い製品開発を行っている。中でも、産業用ロボットの関節に使われ、緻密な動作を実現すると同時に強い力を支える「精密減速機」は世界シェア60%を誇り、コンパクト・軽量ながら剛性に優れ過負荷に強いなど、あらゆる市場ニーズを満たしている同社の製品は、世界中の産業用ロボットで使用されている。

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ナブテスコモンスターズ


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