株式会社オーディオテクニカ様

株式会社オーディオテクニカ様

SAP S/4HANAで国内の基幹システムを統一し、「ONE AT」に向けたグローバル展開の基礎を確立

導入前の問題

  • 各拠点で業務を管理し、情報の共有不足によって過剰在庫などが発生
  • 情報のブラックボックス化により、月次決算や生産指示が緩慢
  • 多数の物理サーバー保有やソフトウェアの多重投資
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導入後の効果

  • グループのシステム基盤を構築し、グローバル展開への基礎を確立
  • システム統一によって情報が可視化され、決算業務の期間短縮を実現
  • サーバー数、ソフトウェア数が削減され、ランニングコストが半減
グローバルに展開する音響機器メーカー、株式会社オーディオテクニカ(以下、オーディオテクニカ)。これまで国内・海外の各拠点で部分最適を図り、順調な成長を遂げてきました。さらなる飛躍のためにグループを1つにして全体最適を目指す「ONE AT」プロジェクトをスタートさせます。その最たる施策として、まずは国内の各部門の共有化を進めるべく、SAP S/4HANA、SAP on Azureの導入による基幹システムの統合を果たしました。これによりサーバー数、ソフトウェア数が削減。ランニングコストも抑制され、ブラックボックスだったシステムや業務フローが明確化するなど、グローバル展開への基礎を確立しました。

導入のきっかけ

部分最適の成果と、課題としての『情報の共有不足』

日本を代表する音響周辺機器メーカー、株式会社オーディオテクニカ。1962年に国産のレコードカートリッジ(レコード針)の製造販売から始まり、近年ではその精密技術を活かしたヘッドホン、マイクロホンなどを次々と開発し、国際的なブランドに成長しています。その証として、グラミー賞の授賞式では、海外アーティストらが同社のマイクを手に熱唱し、夏季・冬季オリンピックでは、走り幅跳びの砂地やフィギュアスケートのリンク内に同社のマイクが設置され、世界中の視聴者に臨場感を伝えています。そして、昨今の新型コロナウイルス流行による新しい生活様式でも、テレワークやステイホーム需要によってヘッドセットやUSBマイク、テレビ会議用音響システムなど、オーディオテクニカ製品は活躍しています。

現在、同社の売上比率はおよそ海外65%、国内35%になるまでに成長。しかし、そこには「部分最適」の課題が潜んでいたと取締役 管理部 ゼネラルマネージャー 小柳 益男氏は語ります。

「当社は小さいながらも世界中に拠点を持ち、それぞれが独立独歩で事業を進めてきました。それによってトータルでは成⾧を続けてきましたが、各拠点が自分たちの業務しか見ないがゆえの課題も浮かび上がってきました。もっとも深刻だったのは『情報の共有不足』にありました」

オーディオテクニカの代表製品
オーディオテクニカの代表製品

さらに小柳氏は続けます。

「たとえば、アメリカの販社が日本に発注をかけると、営業から調達に発注をかけ、調達から海外工場に発注をかけ…と、一つの商品を売るために、グループ内で5回も発注する事態が起きていました。それにより、市場での需要にすぐに対応できず、生産が過剰になり、結果として在庫量が増えてしまうということがしばしば発生していました。全体を見渡した意思疎通ができていないことが、大きな経営課題として浮上したのです」

導入の経緯

「ONE AT」を掲げてシステムを統合し、課題の解決を目指す

2016年から、同社は『情報の断絶』を打破すべく、「ONE AT」という年次スローガンを掲げ、グループでの全体最適を推進しはじめました。その最たる施策として、各国、各部門で分断された情報システムを1つの基幹システムに統一するプロジェクトがスタート。その最初のステップとして国内の統一が始まりました。

「これまでは販売・生産・財務会計・管理会計といったシステムがグループ会社ごとに独立していました。全体を見渡した意思疎通を実現するには、何がどれだけ、どう動いていて、結果どう対応すべきなのか、共通の指標で可視化する必要があると考え、実際にそれぞれの現場を回り、各業務の課題を細かく洗い出していきました。非常に骨が折れるものでしたが、結果的に簡易的なFit&Gapを3か月で実施することができました。そして、海外の販社がどのような情報を管理しているのかも踏まえ、グローバル対応のERPで統一する方針を固めました」(小柳氏)

そして、ERPソリューションを選定した基準について、同社管理部 経営企画課 ICT企画グループ 福島 渉氏は次のように語ります。

「弊社は国内のみならずグローバルな展開を志向しています。その方向性と最も合致するソリューションとして、SAPシステムの導入を選びました。製造業のグローバルでの利用実績が最も豊富で、各国の法制度に対応していることが決め手となりました」

しかし、SAPシステムに統一する方向性は決まったものの、その導入は難航しました。

「これまで独立してシステムを運用してきた長い歴史があります。多くのカスタマイズが施され、改善を重ねた作業やシステムの標準化を現場と進めるのは簡単なことではありませんでした。業務を標準化しようにも、誰も全体をわかっていなかったため、業務をひとつずつ紐解いていく必要がありました」(福島氏)

製造業へのSAPシステム導入に強みを持つコベルコシステムは、この段階で導入プロジェクトに加わり、2年間かけて、各拠点の業務を文字通り丁寧に紐解きながら具体的な導入計画を策定していきました。そして、SAP S/4HANAとMicrosoft Azure(以下、Azure)の正式導入を決定しました。

基幹システム統合イメージ
基幹システム統合イメージ

先進的SAP on Azure事例となるチャレンジ

SAP S/4HANAの基盤としてAzureを選んだ理由について、同社管理部 経営企画課 ICT企画グループ 主事 山田 淳一氏は、次のように説明します。

「旧基幹システムのBIにAzureを使っていたこともあり、その特徴は把握していました。オンプレミスとクラウドで両方検討しましたが、ハードの要件が固まらないと動けないオンプレミスと比べて、クラウドは柔軟なサイジングが可能だった。そこが決め手となりました」(山田淳一氏)

しかし、当時SAPをAzureの基盤上で利用する形態“SAP on Azure”はまだSAP社の認定前。開発は前例のないチャレンジングなものとなりました。困難も少なくありませんでしたがコベルコシステムとマイクロソフト社で連携しシステムは問題なく稼働。同社のシステム導入はSAP on Azureの先進的な事例になりました。

プロジェクトの進行にはMicrosoft365が活用され、細やかな実装作業が行われました。その様子をコベルコシステム株式会社 産業ソリューション事業部 技術理事 統括 PM 山田 憲司氏はこう振り返ります。

「例えば、Teams内に個別の課題に特化したチャンネルを作ることで、場所を選ばず議論を進めることが可能になりました。検証段階でも、離れた拠点の相手に対して即座にバトンを渡していくことが可能になったため、総勢でおよそ200名という関係者の多さにもかかわらず、スピーディーな導入が可能になりました」

導入の効果

情報可視化による業務のスピードアップとランニングコスト削減を実現

2019年、同社の国内4社2工場にSAPシステムの導入が完了。海外への導入を見据えたStep1が終了しました。国内での導入を果たした今、現時点での成果を、福島氏は次のように語ります。

「SAP S/4HANAを中心とした基幹システム群として国内を統一できたのが何よりの成果です。ブラックボックスとなっていたシステムの全体像が明らかになり、情報が可視化されました。その結果、従来は7日間かかっていた月次決算が2日間に短縮され、月1を基本としていた生産指示もより頻繁にできるようになりました。また、生産指示短期化と構築済みのグローバルPSIシステム(順次、海外販社の情報を取り込み中)を合わせることで、需給調整機能の集約ができ、海外生産拠点へ生産リードタイム短縮要請などができるように進めていきます」

さらに、“SAP on Azure”によって、大きなコストメリットも得られました。

「今までは販売・会計・生産と個別にサーバーを立てており、合計十数台が稼働していましたが、半分の仮想マシンで済むようになりました。また、同じパッケージソフトを別部署で所有する多重投資も無くなりました。速度や利用感はオンプレミス時代と変わらないままに、ランニングコストは半分になりました」(山田淳一氏)

また、プロジェクト中は、Azureの柔軟性にも助けられたと山田淳一氏は振り返ります。

「貿易管理業務など、コスト的にどうしてもSAPで対応しきれない領域が発生したのですが、Azureはすぐにサーバーを立てて、別パッケージを加えることができました。もしオンプレミスで進めていたら、とてもスケジュールに間に合わせることができなかったでしょう」

オーディオテクニカの次期基幹システム導入プロジェクトを支援したことに対して、コベルコシステムは『SAP AWARD OF EXCELLENCE 2020』の優秀賞を受賞しています。

今後の展望

海外のグループ会社に横展開し、持続的成長に向けたグローバルSCMの確立へ

国内の統一を終え、今後の展望を小柳氏は次のように語ります。

「これまでは各部門が、自分のところしか見ていないことで、無駄な受発注を何度も繰り返してきました。これからは1つのシステムに集まった共通のデータをみんなで見て、自分の仕事をするだけだった人たちのマインドを切り替えていきます。その先に私たちの目指すべき姿があります」

今後もオーディオテクニカの「ONE AT」を実現するための挑戦は続いていきます。

グローバルマネジメント実現に向けた3ステップ
グローバルマネジメント実現に向けた3ステップ

※この記事は2020年11月時点の内容です。

導入された企業様

オーディオテクニカ社ロゴ

株式会社オーディオテクニカ

設立:1962年4月
所在地:東京都町田市西成瀬2-46-1
URL:https://www.audio-technica.co.jp/
資本金:1億円(2020年11月現在)
従業員数:760名(2020年11月現在、国内関連会社を含む)

〈事業内容〉
音響・映像関連アクセサリ、アクチュエーター関連製品、半導体レーザー関連商品、産業用防塵装置、食品加工機器

〈会社概要〉
オーディオテクニカが創業したのは1962年。国産のレコードカートリッジ(レコード針)をつくるために創業者の松下秀雄氏ほか従業員数3名でスタートしました。その後、高音質なレコード再生を可能にするVM型ステレオカートリッジや、その精密技術を活かしたヘッドホン、マイクロホンなどを次々と開発していき、"audio-technica"は国際的なブランドに成長しています。

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