アンリツ株式会社様

アンリツ株式会社様

業務プロセスが異なるグループ5社について、わずか4年でSAP ERPの導入を完了

導入前の問題

  • 国内グループ各社のシステムがバラバラ
  • グループ会社間の取引が煩雑
  • 東日本大震災をきっかけとするBCP対策見直しの必要性
→

導入後の効果

  • システム運用の効率化とIT統制の実現
  • 基幹システムの統合で情報連携がスムーズに
  • 有事でも事業継続が可能な業務環境を実現

導入のきっかけ

業務プロセスが異なるグループ5社について、わずか4年でSAP ERPの導入を完了

スマートフォンなどを開発・製造する際に用いる計測器の開発、製造、販売を手がけるアンリツ株式会社(以下、アンリツ)。同グループではこれまで、国内グループ各社が個別にシステムを導入、運用してきましたが、この状態では万が一の際のBCP対策への対応が不十分と考え、基幹システムをSAP ERPへ統合することを決断しました。業務プロセスが異なるグループ5社について、わずか4年という短期間で導入を完了させました。

BCP対策の拡充を契機に、国内グループ各社の基幹システムをSAP ERPへ統合

アンリツは1895年の創業以来、スマートフォンの源流となる音声無線電話機を世界で初めて実用化するなど、情報通信分野のパイオニアとして120年以上の歴史を刻んできました。現在は、世界中の通信事業者、電子・電気機器メーカーに対し、さまざまな通信方式に対応した計測ソリューションを提供しています。

現状(2015年3月期)、売上高の73.6%、主力の計測器事業については80%以上を海外の顧客が占めており、今後はネットワークインフラが急速に拡大しているアジアや中南米といった新興国市場への進出を計画中です。2020年の企業像を示した中期計画「2020 VISION」では、「グローバル・マーケットリーダーになる」「事業創発で新事業を創造する」という2つの目標を掲げ、強靭な利益体質の実現、企業価値の創造、新しい分野での先進性の発揮などを目指しています。

近年、同社がビジネスを進めていく上で取り組まなければならなかった課題のひとつに、分社化に伴う国内グループ各社におけるシステムの乱立がありました。アンリツ本体は、2006年にSAP ERPを会計、購買、販売、生産管理まで含めフルモジュールで導入。ホストベースで稼働していた既存の基幹システムを全面的に刷新していました。しかし一方で、国内グループ各社はそれぞれが個別にホスト系のシステムやパッケージを導入、運用していたため、グループ間の情報連携はスムーズにいかないことが多かったのです。

こうした中、各社の生産管理系システムのバージョンアップ時期が近づいてきたことで、同社はSAP ERPによる基幹システムの統合を決断しました。その背景について、経営情報システム部 兼 経営企画室 部長の宇佐美学氏は次のように説明します。

アンリツ株式会社 経営情報システム部 兼 経営企画室 部長 宇佐美 学 氏
アンリツ株式会社
経営情報システム部
兼 経営企画室
部長 宇佐美 学 氏

「きっかけとなったのは2011年の東日本大震災です。当時はグループ各社がバラバラにシステムを導入、運用していたのですが、退職などによりシステムの中身がわかる管理者も少なくなっていまして、こんな状態で大規模な災害に遭ったら、果たしてまともに復旧できるのだろうかと不安を覚えました。そこでBCP対策を拡充することになったのですが、その一環としてグループのシステムをSAP ERPに統合し、継続的に管理ができる体制へ改めることにしました」

この時点で、本体のSAP ERPはBCP対策として大阪のデータセンターへ移行を済ませていました。それゆえ、グループ各社のSAP ERPも同様に大阪へ置けば、例え本社やグループ会社が被災しても、マザー工場のある福島と情報を共有することで出荷業務を継続できます。また、大阪のデータセンターがダメになったときも、関東にあるDR(ディザスタリカバリ)サイトへ切り替えることで、本社での業務の継続が可能となります。さらに、SAP ERPを同じサーバー上へ導入し、ワンインスタンス/マルチカンパニー対応とすれば、管理効率の向上も期待できます。

導入の経緯

ソリューション 選定ポイント・考慮点

PMの理解力/推進力、コンサルタントの技術力/経験を評価

国内グループ各社へのSAP ERPの導入を決定したアンリツは、導入プロジェクトをスタート。2011年末よりパートナーの選定に着手し、提案依頼書(RFP)を送った数社の中からコベルコシステムを採用しました。選定の経緯について宇佐美氏は「SAP社と相談し、製造系システムの導入で実績のある会社をいくつか紹介していただきました。その後、各社から提出された提案書とスタッフのスキルを吟味。複数社への導入を短期間で終わらせる弊社のチャレンジに応えていただける提案内容と充実したサポート体制を評価し、最終的にコベルコシステムを選びました」と語ります。

この選定の途中では、プロジェクトの責任者となるコベルコシステムのPMと直接対話し、その理解力や推進力、人物なども確認したという。コンサルタントについても、経営情報システム部のメンバーが、モジュールごとに一人ひとりと面談を実施し、技術力や経験、さらには人柄まで考慮して合格・不合格の判断を下しました。

「2006年に本体へSAP ERPを導入して以来、当社は自身でその保守・運用を手がけてきており、それなりの知見を持っていると自負しています。それゆえ、作業の丸投げは考えておらず、泥臭いことまで含めて、私たちと一緒にプロジェクトを進めてくれるパートナーを求めていました。私たちの意見を聞かず勝手にカスタマイズするような方では困りますし、言われたことだけをこなす人でも困ります。そこで、PMとコンサルタントの選定においては、コミュニケーション能力を重視しました」(宇佐美氏)

業務プロセスが異なる5社への導入ほか、一連の作業をわずか4年間で完了

2012年6月、業務内容が比較的シンプルで規模も小さい「アンリツデバイス」と「アンリツエンジニアリング」の2社から導入をスタート。半年後の2013年1月に作業を完了し、システムを稼働させました。2013年4月からは、業務プロセスが複雑で規模も大きい「アンリツネットワークス」と「アンリツインフィビス」への導入に着手し、アンリツネットワークスは6カ月後の2013年10月、アンリツインフィビスは12カ月後の2014年4月にサービスインしています。

アンリツ株式会社 経営情報システム部 BPR推進チーム 部長 中島 久美子 氏
アンリツ株式会社
経営情報システム部
BPR推進チーム
部長 中島 久美子 氏

SAP ERPをグループ企業へ導入する場合、まずベースとなるテンプレートを作成し、そこへ会社ごとの要件を追加することで導入期間の短縮を図るのが一般的です。しかし今回の導入対象となった4社は、半導体デバイスを製造するプロセス生産系、ネットワーク装置を製造する組立生産系、産業機械の設計から製造、据え付け工事から売り上げ計上する個別受注生産系、ソフトウェア開発を行うプロジェクト管理系と、業務プロセスがそれぞれ異なっていました。そのためテンプレート化は行わず、業務に合わせてビジネス設計することになりました。この点について経営情報システム部 BPR推進チーム 部長の中島久美子氏は「タイトなスケジュールの中、個々の要件に合わせて導入モジュールを変えたり、アドオン開発を行ったりする必要があったため、難易度の高いプロジェクトとなりました。それでもどうにか間に合ったのは、当社の導入チームとコベルコシステムのPM、コンサルタントが協力し合って進めたことが大きいと思います。現場の担当者の工数が確保できないときなどは、コベルコシステムのスタッフに作業の一部をサポートしていただくこともありまして、非常に助かりました」と振り返ります。

SAP ERPよる統合基盤

なお、先に挙げた4社の中では、業務プロセスが一般的な計測器の生産と異なり、既存システムの個別最適化が進んでいたアンリツインフィビスへの導入が特に苦労したそうです。

「この会社では手組みのシステムをフル活用していました。しかしそのシステムを構築した人間もいなくなり、大半がブラックボックス化してしまっていたのです。そこで担当者から要件をヒアリングしたり、関係ベンダーを集めて打ち合わせしたりしながら全体像を把握し、最終的にどのシステムを残してどのシステムをSAP ERPに置き換えるかを判断。必要なインターフェースを構築しました。実際の導入においては、プロジェクトルームのボードにタスクを記した付箋を貼って進捗状況を見える化し、さらに毎朝行われる朝会で情報共有を行うなど、効率化のためのさまざまな工夫を行いました」(宇佐美氏)

プロジェクトも終盤に差し掛かりサービスインを2か月後に控えた2014年2月、関東甲信に観測史上1位の記録的な大雪に見舞われ工場の屋根が破損するという不測の事態も起きました。このときは業務ユーザーが工場の復旧作業に手を取られ、スケジュールへの影響も必至と思われましたが、プロジェクトメンバー総出でデータ整備作業にあたるなど、チームが一丸となってリカバリーすることで体勢の立て直しに成功。結果的にメンバー同士の結束も深まったといいます。

「一時は茫然自失となりました。しかし、経営陣の“プロジェクトを遅らせてはならない”という強い意志を確認し、緻密なスケジュール調整を行いながら全員が一丸となって取り組みました。プロジェクトを予定通り完遂し、経営陣の期待にも応えられてほっとしました。」(中島氏)

グループ4社への導入を終えた後、SAP ERPへのエンハンスメントパッケージ(EhP)の適用をコベルコシステムにあらためて依頼。EhPの適用は2014年11月に完了しました。さらには国内の主力生産工場である東北アンリツへのSAP ERPの導入に着手し、こちらは2015年10月に本稼働を迎えました。貿易管理ソリューション「SAP GTS」の本体への導入プロジェクトも、2014年8月に第1弾が完了。第2弾も2016年4月に終えています。

アンリツが実施したSAP ERPプロジェクト
アンリツが実施したSAP ERPプロジェクト

導入の効果

国内10社をSAP ERPで統合、ワンインスタンス/マルチカンパニー対応を実現

アンリツの国内グループ各社は、本社に加え、コベルコシステムが導入をサポートした5社と、アンリツが自身で導入した5社、併せて10社がすべてSAP ERPで統合され、大阪のデータセンターにおけるワンインスタンス/マルチカンパニー対応が実現しました。その効果について中島氏は「会社間の取引がすべて自動化されたため、各社が請求書を1枚交換するだけで済むようになり、業務の効率は大幅に向上しました。月次決算のスピードも確実に早くなっています」と語ります。

また、国内グループ全体がSAP ERPを使うことで、「指図」「利益センター」といったSAP ERP特有の「共通言語」で会話できるようになったことも大きいといいます。さらに、グループ全体のマスター統合とワンインスタンス化によって、複数システムの煩雑な管理から解放され、システム運用が効率化されるとともに、IT統制も実現できたとのことです。

今後の展望

実績情報の見える化と海外への導入を推進

左から、コベルコシステム 桝田(担当PM) アンリツ 宇佐美 氏 アンリツ 中島 氏 コベルコシステム 森田(担当営業)
左から、コベルコシステム 桝田(担当PM)
アンリツ 宇佐美 氏
アンリツ 中島 氏
コベルコシステム 森田(担当営業)

今後アンリツでは、国内グループ各社のSAP ERPについて、実績情報の見える化を進めていく予定です。宇佐美氏は「現在は実績情報がSAP ERPに蓄積され始めている状況です。今後BIツールを駆使し、SAP ERPに加えてPDMやCRMなどグループ共通のシステムの実績も集約しながら、さまざまな情報を可視化し、業務面、経営面に貢献していきます」とその展望について語ります。

また同社では、世界中に広がる海外拠点へSAP ERPを導入し、基幹システムのグローバル統合を見据えています。これについて中島氏は「海外導入は自社の要員を中心に進めていくことが予想されますが、コベルコシステムのサポートにも期待しています」と語っています。

※この記事は2016年7月時点の内容です。

導入された企業様

Anritsu Advancing beyond
アンリツ本社
アンリツ 本社

アンリツ株式会社

創業:1895年(明治28年)3月
設立:1931年(昭和6年)3月
所在地:神奈川県厚木市恩名5-1-1
URL:https://www.anritsu.com/ja-JP
資本金:190億5,200万円 (2016年3月31日現在)
売上:955億3,200万円 (連結:2015年度)
従業員数:803名(単独)/3,846名(連結) (2016年3月31日現在)

同社の主要製品
同社の主要製品(左から)
パフォーマンステストシステム
シグナリングテスタ
シグナルクォリティアナライザ

〈事業内容〉
電子計測器、光計測器、光応用機器等の開発、製造、販売

〈会社概要〉
モバイルブロードバンドサービスのさらなる進化を支える計測事業を柱に、食品・医薬品の品質保証用検査機、遠隔監視制御システムや帯域制御装置、高速電子デバイスなど、幅広い分野において安全・安心な社会づくりに欠かせないソリューションを提供している。

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