menu

ものづくりコラム 設計、生産管理、原価管理などものづくりに関するトピックを毎日お届けします。

2024年11月01日

製造業の人的資本経営に向け、戦略的スキル管理のすすめ

これまで日本の製造業は、欧米企業に比べて設備投資やR&D投資には積極的なものの、人的投資に消極的でした。しかし、これまでコストと見られていた人的投資が、最近は収益や株価に直結するものと見做されるようになってきました。「企業は人なり」の言葉通り、企業経営においては、まず何よりも人を育て、人を活かしていく、人的資本経営が重要となっています。そこで今回は、製造業各社が事業戦略や組織課題に応じた人材育成や配置を推進していく上で肝となる、「戦略的スキル管理」について考察したいと思います。

■戦略的スキル管理でスキルギャップを可視化

製造現場の慢性的な人手不足への対応、ベテラン社員の技能継承、そして少量多品種にシフトしていくための多能工化、これらは日本の製造業各社における人材面の共通課題です。さらに、AI、ロボット、IoTといったデジタル技術活用や脱炭素対策など、ものづくり環境を革新していける人材確保も急務となっています。このように自社事業の内外環境変化に応じた人材確保や組織力向上を着実に実践していくために、改めて重要となるのが戦略的スキル管理です。
事業戦略に基づいて組織全体の人的資本構成を計画し、人材の採用・育成・配置策を打っていくにはスキルの保有状況を定量的に把握する必要があります。感覚的に分かっていても、可視化しなければ確かな策は打てません。「現在、社内の何人がどのレベルのスキルを持っているか。」、「5年後、事業展開と熟練者退職を踏まえた社内のスキル需給バランスはどうなっているか。」これらの問いに直ぐに答えられる企業は、そう多くはないでしょう。
戦略的スキル管理では、まずスキル可視化の前提となる、自社人材が持つべきコアスキルを適切に定義し、必要に応じて見直しを行います。次に、事業戦略の遂行や組織課題の解決に向けて、組織が中期的に保有すべきスキルとその保有者数を可視化します。その上で、現在の保有状況を把握し、ギャップを明確化することで、的確な人材マネジメントへとつなげていきます。

戦略的スキル管理図表1:戦略的スキル管理

(クリックして拡大できます)

■戦略的スキル管理では能力、知識でなくスキルを中心に管理

人材を可視化する情報としては、スキル、能力、知識、キャリア、評価などがありますが、戦略的スキル管理で重視するのはスキルです。スキルとは、経験や訓練を積み重ねることで磨くことができる力です。一方、能力は人材が生まれながらに保有している才能や力を指します。戦略的スキル管理では、社内人材を育成していくことを優先するため、能力よりもスキルを管理する方が重要となります。知識もよくスキルと混同されがちですが、知識が特定の物事や情報について理解している状態を指すのに対し、スキルは行動に移せる状態を意味します。従って、戦略的スキル管理の目的からは、知識ではなくスキルを中心に管理していくことになります。
また、キャリアはよくスキルとともに併せて管理される情報です。キャリアは過去の職務経験や職務に伴う継続的訓練で得た力で、スキルに関する具体的な実績を表します。戦略的スキル管理では、中期的な育成を主眼にスキルに焦点を当てながら、必要に応じて知識や能力、キャリアも合わせて管理していくことで、人材マネジメントの向上を図ります。

人材を可視化するための情報
図表2:人材を可視化するための情報

(クリックして拡大できます)

■力量管理から戦略的スキル管理のステップへ

製造業では、既にISO認証取得に合わせて力量管理を導入済みの企業も多いかと思います。力量管理は業務に必要な力量を特定し、その力量を持つ人材を育成・確保することを目的として、個々の業務に必要な技能、知識、資格、経験等を管理します。このように、戦略的スキル管理と一見するとよく似た仕組みですが、その狙いや実態はかなり異なります。力量管理が現行業務を遂行していくために各人のスキルを管理するに対し、戦略的スキル管理では将来的な目標からバックキャストし、組織が持つべきスキルの量と質を管理します。これにより育成や配置等のITマネジメントへの活用が可能となります。さらに、ISO要求事項における力量管理を厳格に行なっていくには、多くの手間と時間が必要です。そのため、例えばスキルマップの更新もISO認証更新時のみに限定されるなど、力量管理はどうしても認証取得がメインの目的となりがちです。
そこで、これまで力量管理を行ってきた企業は、今後さらに戦略的、組織的にスキル情報を活用していけるように、ステップアップさせていくことをお奨めします。戦略的スキル管理として、自組織のスキル保有状況を継続的に更新・管理し、人材マネジメントで活用することで、組織能力を最適化し、事業価値を高めていくことができれば、向かう方向は同じです。昨今のものづくり人材に求められるスキルは急速に変化しています。スキル項目は一度設定したらそのままではなく、経営課題に応じてタイムリーに更新していく必要があります。また、一部の人のみが戦略的スキル管理に関与すればよいのではなく、社員各人の認識を合せて、自律的にスキル管理できる運用体制を構築することが求められます。そのため、スキル項目の改訂やスキル保有登録を、誰もが効率よく、いつでもできるようなシステム化も必要となります。

人的資本経営に向けた日本の製造業の取組みは道半ばです。各社が戦略的スキル管理に本腰を入れることで、企業価値向上に寄与していくことを期待します。

2024年11月

ITの可能性が満載のメルマガを、お客様への想いと共にお届けします!

Kobelco Systems Letter を購読

電話でのお問い合わせ

営業時間 9:00-17:30(土・日・祝日は除く)

Webでのお問い合わせ

お問い合わせ