2020年06月01日
「Withコロナ」そして「Afterコロナ」の製造業
新型コロナウイルスの感染拡大は緊急事態宣言の解除を経て、なんとか一つの節目を迎えたような様相が広がっています。生産停止や縮小など大きなダメージを被った製造業も生産再開に向けて動き出しました。しかし現在も日々新規感染が起こり、今後も感染の第2波、第3波はやってくることが想定され、当分は新型コロナ感染リスクを前提にした「Withコロナ」環境でのものづくりを行う必要があります。専門家によると、ワクチンが開発され一般に行き渡るまでに最短2年はかかる見通しとのことで、当分は「Withコロナ」環境下において従業員を感染から守ることを最優先とすることが求められます。しかし、単に災いが過ぎるのを委縮して待っているだけではダメです。新型コロナがインフルエンザ並みのリスクになる「Afterコロナ」環境になるまでに、一気に成長軌道に乗せるものづくり、そして新たなパンデミックや自然災害等のリスクに耐える強靭なものづくりの仕組みを構築しておかねばなりません。今回は「Withコロナ」の対策、そして「Afterコロナ」に向けた備えとして、製造業がこれから為すべきことについて考察します。
製造業において、「Withコロナ」への対策と「Afterコロナ」への備えとして為すべきことを、①勤務形態の配慮、②職場の衛生環境、③サプライチェーン確保の3つの観点から見ていきましょう。
「Withコロナ」の対策 | 「Afterコロナ」への備え | ||
観点 | 課題 | 即効策 | 新たなリスク対策と成長の仕組み |
①勤務形態の配慮 | 出退勤時の密回避 | 時差出勤 | 多能工化 |
会社内での密回避 |
在宅勤務推進 (テレワーク、ワークフロー) 生産シフト時間調整 |
サプライチェーン/エンジニアリングチェーンのデジタル化 | |
直接対面の削減 |
WEB会議 朝礼・点呼の制限 |
ー | |
他拠点出張の削減 | WEB会議/WEBカメラ | アバター、IoT | |
②職場の衛生環境 | 各人の感染回避 |
手洗い・マスク 検温の励行 |
ー |
ソーシャル・ディスタンス |
ゾーニング 休憩・食堂スペース確保 |
ロボット、FA化、モジュール化 | |
施設・器具の衛生確保 |
頻繁な消毒・除菌、換気 手袋、設備・機器タッチレス |
工程自動化、モジュール化 | |
ものの衛生確保 | 入荷物コンテナ消毒 | ー | |
③サプライチェーン確保 | 部品確保 | 購入先の複線化 | 3Dプリンター(内製) |
生産能力確保 | 代替生産 | J+2(日本+海外2拠点) |
図表:「Withコロナ」への対策と「Afterコロナ」への備え
まず①勤務形態の配慮から見た「Withコロナ」対策は、製造業だけでなく他の業種にも共通に適用されるものです。しかし、製造業の場合、組み立てのように生産現場でしかできない仕事、点検管理のように製造現場を見て判断する仕事が多く、対策として在宅勤務は限定されます。その上、工場内で紙の図面や帳票を回覧し、伝票上でのサインや押印による合議・承認をしているようでは、在宅勤務はまず無理です。早急に帳票類のワークフロー化を行わなければなりません。さらに「Afterコロナ」の備えとして、サプライチェーンやエンジニアリングチェーンのデジタル化を進めることで、生産管理や購買、設計開発の部門は在宅勤務できる業務範囲を広げられるとともに、開発や生産のリードタイム短縮や生産性向上も成し遂げることができます。また、海外工場の設備導入や改修は、これまで本社工場の技術者が出張して、現地で作業を行ってきました。今回のコロナ禍では一切出張できなくなったため、あるメーカーはアバター技術を使って本社工場から熟練技術者が指示し、リモート作業で無事対応したそうです。「Afterコロナ」でもアバター技術により、本社の熟練技術者が遠方の工場に出向くことなく、現場でハイレベルの作業ができるケースが増えていくと期待できます。
2つ目の観点である職場の衛生環境は、在宅勤務が限定される製造業においては特に重要です。「Withコロナ」対策として、生産現場でのソーシャルディスタンスを保つだけでなく、食堂や休憩室、喫煙場所を含め、密をさけるスペース確保や時間シフトが有効です。また、工場内では製造設備や工具、仕掛品、指示票など、直接ものに触れる機会(タッチ)が頻繁に発生します。工場内でタッチするものは全て、まめな消毒・除菌を行い、手袋は都度交換がベストです。工場内の設備やものの消毒を励行するだけでなく、社外からの納品物へのタッチも見落としてはいけません。「Afterコロナ」の備えとしては、生産工程の省人化やタッチレスを進めるために、ロボット導入やFA化を進めていくべきです。さらに、以前このコラムでも取り上げたモジュール化は、人手を最も要する組み立て工程を省力化することで密を避けられるとともに、生産リードタイムやコスト低減につながります。
3つ目の観点はサプライチェーン確保です。今回の新型コロナウイルスの感染拡大による中国国内のロックアウトで、中国の調達先や生産子会社から日本工場への部品供給が一気にストップしてしまいました。たった一つの部品が足りないために製品は完成できず、多くの国内工場が生産を停止せざるを得ない状況となりました。仕掛在庫のまま製品販売できないため資金繰りに窮する日本メーカーも出てきました。当てにした代替調達先からも部品が届かず、調べてみると2次調達先が同じロックダウン地域にあることが判明したケースもあります。このようなサプライチェーンの分断への対策として、まずは2次調達先まで含む調達の複線化が必要です。「Afterコロナ」の備えとしては、将来のパンデミックやブロック経済の進展も見据えて、日本工場以外に二か国の生産拠点をもつ「J+2生産体制」、及び3次元プリンタによる部品内製の仕組み構築が求められます。
今回のコロナ禍を契機にテレワークの積極採用や9月入学制度移行など、これまで世の中で形だけの検討に終わっていた働き方改革や制度改革が本腰をいれたものになってきました。製造業においても、これまでPoCなどに止まっていたデジタル化に本気で取り組む絶好の機会です。コロナ禍は製造業が目指そうとしていたデジタル化の姿実現を加速する好機と捉えることもできます。大きなピンチをうまく切り抜け、大きなチャンスにつなげていきたいものです。
2020年6月
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