神鋼鋼線工業株式会社様

製品品質の向上を目指しリアルタイムでデータを取得・分析できる環境を構築、スマートファクトリーの実現へ
- 導入したソリューション
- IoTプラットフォームサービス
- キーワード
- IoT、MES、ERP、クラウド、BIツール、スマートファクトリー
導入前の問題
- 生産設備から取得したデータを紙に記録していたため、分析に多くの手間がかかっていた
- 取得した設備データの内容が不十分なため、それだけでは状況が把握できないケースがあった
- 複数工程にまたがるデータ分析が難しく、品質改善に必要な原因特定や対策立案に制約があった

導入後の効果
- IoTデータ分析基盤の構築により、必要なデータをリアルタイムで取得できる環境が実現
- ダッシュボード上で設備の状況が確認できるようになり、トラブルへの対処が容易になった
- MESデータと連携したデータ分析基盤の整備により、設備稼働率向上のための施策が可能になった
導入のきっかけ
DX推進の一環として、リアルタイムのデータ収集が可能な仕組みを構築し品質向上を目指す
神鋼鋼線工業は、KOBELCOグループの一員として、特殊鋼線事業、鋼索事業、エンジニアリング事業などを展開する線材二次加工メーカーです。2024年には中期経営計画「Next Innovation 2026」を策定、主要施策として「サステナビリティ経営の実践」を掲げました。具体的には、「カーボンニュートラルへの挑戦」「防災・減災と強靱化への貢献」「品質・提供価値の向上」「人的資本の拡充・高度化」「DXの推進」の5つをマテリアリティ(重要テーマ)に設定し、その実現に取り組んでいます。このうち、「DXの推進」については、業務効率化の推進、計画的なDX人材の育成、DXを活用した製品・サービスの開発などの実績が評価され、2025年6月1日付で経済産業省の「DX認定事業者」に認定されています。

技術総括・DX推進部
主任部員
佐々木 淳志 氏
今回のIoTデータ分析基盤の構築およびMES(製造実行システム)データと連携したデータ分析環境の構築も、「DXの推進」プロジェクトの一環であり、操業データのリアルタイム収集・可視化を通じて品質向上と現場力の強化を目指すものです。その背景としては、生産ラインの設備系データが見たい時に見えないという問題がありました。

技術総括・DX推進部
担当部長
高尾 大 氏
同社は、橋梁や建築物などさまざまな分野で使用されているケーブル・PC鋼材、自動車関連製品やOA機器関連製品に使われるばね用特殊鋼線、産業用機械用のワイヤロープ等の製造を手がけています。生産工程は製品によって異なるものの、一般的には「パテンティング(熱処理)」「酸洗(洗浄)」「コーティング」「伸線加工」「めっき加工」「塗装」「より線」「製鋼」「端末処理」などの複数工程を経て、検査・出荷となります。
これまでは、各工程の設備に設置された制御装置から温度、圧力、速度といったデータを取得していましたが、その記録は担当者が一定時間ごとに紙に手書きするか、一部の重要なデータだけをメモリーカードに保存するにとどまっていました。そこで、リアルタイムで設備データを収集できるIoTデータ分析基盤を構築し、設備の異常を早期に検知して品質向上につなげることにしたのです。技術総括・DX推進部 主任部員の佐々木淳志氏は「従来は、設備のトラブルがあったときは紙などに記録されたデータを調べてExcelに書き出し、分析してレポートを作成していました。しかしこれでは、稼働率を高めるため原因を分析したいと思っても、大量にある紙の日報をひたすらめくるしかなく、大変な手間がかかります。しかも、日報に記録されているデータでは不十分で、作業者へのヒアリングを通さないと実際の状況が見えてこないこともありました。そこで、必要な情報をいつでも見られるデータ可視化・分析環境を作ることで、こうした問題を解決することにしました」と語ります。技術総括・DX推進部 担当部長の高尾大氏も「当社の工場は24時間稼働していますが、夜間に何かあった場合でも、可視化基盤があれば異常を早期に検知できると考えました。また、最終製品の品質に影響する工程が複数あった場合、従来の環境ではほとんど分析できませんでしたが、これらの工程を可視化し、工程単位の原因追究ができるようになれば、最終的な影響が把握可能になるのではないかと期待しました」とそのねらいを説明します。
導入の経緯
製造業やIoTへの知見が豊富なコベルコシステムをパートナーに選定
神鋼鋼線工業は、今回のIoTデータ分析基盤の構築に際し、外部のコンサルタントを含め複数のベンダーに声をかけています。同社は各社から届いた提案を慎重に検討、最終的に同社の生産管理やMESなど基幹システムの構築を手がけた実績があり、製造業やIoTへの知見が豊富なコベルコシステムをパートナーに選定しました。コベルコシステムは2017年からIoTサービスの提供を開始し、製造業におけるIoT導入について経験と実績を積み上げていました。また、同社の業務や製造実行システム(MES)および周辺システムに関する深い知見を活かし、システム間連携で優れた提案を行うことが可能でした。
「PLCのデータを単独でクラウドにアップして可視化するだけなら簡単ですが、基幹システムに蓄積されている製品情報と紐付けて高度な分析を行うとなると、当社の基幹システムについて熟知しているコベルコシステムと組むのがベストと判断しました。また、他部門ではKOBELCOグループのクラウド環境を既に利用していたこともあり、グループ共通のクラウド環境が使えるメリットがあると考えました」(佐々木氏)
構築のポイントは取得するデータの整理と取捨選択
神鋼鋼線工業とコベルコシステムは、プロジェクト初期にはスモールスタートとして2023年から約1年半かけてPoC(概念実証)を実施し、目的に応じたデータ収集・分析の有効性を検証しました。これにより、無駄な投資を回避し、段階的な展開につなげました。その後、2024年10月から本格的な開発・構築フェーズに移行し、2025年5月末より尼崎事業所の生産ラインにおいて本格運用を開始しました。
第1フェーズでは、自動車エンジン部品の弁ばねを生産する工程の中から、伸線工程および熱処理工程の可視化に取り組んでいます。「弁ばねは非常に高い品質基準が求められるため、生産工程には高度な管理が必要です。特に伸線加工は品質の作りこみが難しい工程であり、精度確保の難易度が高いため、この工程を可視化し、安定した品質を実現することを目指しました」(佐々木氏)
この第1フェーズでは、伸線機の設備データは可能な限りすべて取得する方針としました。とはいえ、1台の設備から取得するPLCのパラメータは、設備温度、速度、荷重、圧力、冷却水の温度や流量などを含めると、約300種類に及びます。これが台数ごとに増えていくため、最終的なデータの種類は1,000以上となり、その整理が大変だったといいます。
「伸線機のデータは、標準化と構造化を徹底し、横展開に耐える共通データモデルとして設計しました。これにより、展開時の設計時間と開発費を削減できます。併せて、設備拡張を見据えたマスターキー定義や設備稼働率評価パラメータの設計にも注力しました。」(佐々木氏)

生産本部
設備部 尼崎設備室
水野 弘健 氏
また、生産設備から出力されるデータ量が膨大になるため、データの取捨選択もポイントになりました。生産設備のデータ取得に協力した尼崎事業所 生産本部 設備部 尼崎設備室の水野弘健氏は「開発部隊の要望に応じてアドレス番号とコメントを記載したアドレスマップを用意したものの、それだけで1万点以上ありました。そこで、コベルコシステムの担当者と相談し、データを可視化するダッシュボードのイメージを確認しながら、制御用の内部データ、将来的に品質管理で必要なデータなど、普段のオペレーションでは使わないデータにも考慮しつつ、取得するデータを整理しました」と語ります。
今回の構築では、データ取得専用のPLCを新たに設置し、既に設置済みの設備制御用PLCとネットワークで接続しています。取得したデータはIoT回線を通してKOBELCOグループ共通のクラウド基盤上に構築したデータレイクに蓄積。MESに蓄積されている設備コード、加工日次、指示番号、重量などの生産・実績データや加工条件・指図データなども同様に蓄積されます。一方、データの分析については、BIツールの「MotionBoard」を活用し、設備稼働計画や実績対比画面、製造現状確認画面、異常監視画面、設備状況画面などを作成しました。
「MESを含む生産管理システムやその他の周辺システムとのデータ連携、ダッシュボードの作成については、当社で仕様を整理・確定したうえで、コベルコシステムと緊密に連携しながら実装を進めました。」(佐々木氏)
コベルコシステムは今回のプロジェクトにおいて、各工程の前後関係や工程内の作業手順を十分に把握した上で、IoTとMESの連携を現場に負荷なく実装しました。データ選別が重要となる局面では、プロジェクトマネージャー(PM)が的確な指摘を行い、お客様と共に実用的かつ効果的な仕組みの構築を支援しています。また、目的に照らして「何を可視化すべきか」を精査し、不要なデータ収集・可視化を回避。将来的な工場展開やシステム拡張を見据え、タグ設計の方針についても助言を実施するなど、運用・分析のしやすさに加え、拡張性にも優れた柔軟なシステム構成を実現しています。
導入の効果
稼働率を正確に把握することで、生産性を高める施策を実施可能に
今回、神鋼鋼線工業が構築したIoTデータ分析基盤は、取材時点(2025年7月)ではデータ取得をスタートしたばかりのため、本格的な活用はこれからになります。現時点での効果としては、熱処理炉において、炉の温度変化や失火などの状況がダッシュボード上からリアルタイムで見えるようになり、トラブルへの対処が容易になったことが挙げられます。
今後、生産ライン全体で得られる効果としては、①設備停止の原因分析と短時間停止(チョコ停)の削減、②品質異常の原因分析と再発防止、③OEE(総合設備効率)の正確な算出と改善指標の明確化、④現場の即時把握と判断スピードの向上の4点が期待されています。
「一番の期待は設備稼働率の向上です。これまではデータがないため稼働率の評価すら難しい状況でした。稼働分析が可能になれば、データを見ながら生産性を高める施策が打てるようになります」(佐々木氏)
「品質異常の低減も期待できます。品質異常は設備に起因するものもあれば、操業パラメータに起因するものもあります。データの可視化ができれば失敗の件数も減り、結果的にお客様満足度の向上やカーボンニュートラルへの貢献につながると思います」(高尾氏)

今後の展望
主要設備におけるデータ分析モデルを構築し、3つの工場に横展開
神鋼鋼線工業は今後、第2フェーズとして酸洗等の残りの主要設備に対しデータ分析モデルを構築する計画です。さらに2026年4月より主要モデルにて構築したデータ分析モデルを尼崎事業所、およびロープ製造所の二工場(二色浜、尾上)の各種設備へ横展開することを予定しています。
「将来的には、蓄積データと需要予測を活用し、生産ラインの最適レイアウトや人員配置を実現するスマートな工場運営を目指します。そのカギとなるのは、クラウド上に集約したデータを基盤とした機械学習やAIの活用です。こうした先進的な取り組みを加速させ、ものづくりの高度化と競争力強化を推進していきます。」(佐々木氏)
パートナーであるコベルコシステムについては、要件を引き出すヒアリング力、要件を実現する実行力、製造業や工場に関する現場力などを評価しており、さらなる情報提供に期待を寄せています。
「他社事例で得た知見などを積極的に提供いただくことで、当社のDXへの取り組みも加速していくと思います。KOBELCOグループ全体としてもDXを推進していくという大方針がありますので、互いに情報を共有しながら高みを目指していければと思います」(高尾氏)

神鋼鋼線工業 佐々木氏、水野氏、高尾氏、コベルコシステム 田中(担当営業)
※この記事は2025年7月時点の内容です。
導入された企業様

神鋼鋼線工業株式会社
創業:1954年3月18日
所在地:兵庫県尼崎市中浜町10-1
URL:https://www.shinko-wire.co.jp/
資本金:80億62百万円
売上高:342億93百万円(2025年3月期)
従業員数:連結899名(2025年3月現在)
〈事業内容〉
鋼線事業/ワイヤロープ事業/エンジニアリング事業における製品の製造および販売
〈会社概要〉
KOBELCOグループの線材二次加工メーカー。「社会が前に進むために、『なくてはならない価値』を提供し続ける」をミッションとし、特殊鋼線関連事業、鋼索関連事業、エンジニアリング関連事業の3セグメントで事業を展開している。その技術力は海外からも高く評価されており、耐非自転性ワイヤロープ「ユニロープ」をはじめとした同社の製品は、世界中のさまざまな産業が活用。「EXPO 2025 大阪・関西万博」においても、大阪ヘルスケアパビリオン、ルクセンブルクパビリオンなど複数のパビリオンの構造に採用されている。