株式会社神戸製鋼所様
デジタル化基盤としてのSAP S/4HANAを、HI-KORTを活用したFit to Standardで構築
- 導入したソリューション
- SAP ERP プラントエンジニアリング業向けテンプレート: HI-KORT for Eng.
- キーワード
- SAP ERP、SAP S/4HANA、グローバル対応、データ活用、業務プロセス改善
導入前の問題
- 業務システムが旧態依然としており、業界におけるデジタル化に後れをとっている
- 海外取引において必須となるデジタル連携に対応できない
- 業務プロセス・システムが分断されており、運用・保守ともに非効率
導入後の効果
- データ活用によりクイックな意思決定を実現
- デジタル連携可能なシステム基盤を構築し、海外取引に対応できた
- 業務を標準化し、ワンインスタンスでのシステム基盤を構築したことで、スムーズなシステム運用の目途がたった
導入のきっかけ
海外ビジネスにおいて必須要件のデジタル連携で見えてきた課題
神戸製鋼所エンジニアリング事業部門(以下神戸製鋼)は、デジタル化の大きな潮流がエンジニアリングビジネスにも波及している中、旧態依然とした業務システムでは今後の変化に対応できないという焦りを感じていました。デジタル化が先行している海外のビジネス顧客やサプライヤーとの取り引きにはデジタル連携が案件受注の必須要件となっていたためです。
業務改革と新しいITシステムの導入が喫緊の課題となった同社では、エンジニアリングセグメントにおけるERP刷新プロジェクト、通称「エンジERP刷新PJ」をスタートしました。
プロジェクトは2021年に開始されましたが、それ以前の2019から2年間、エンジニアリング事業部門全体の業務改革とデジタル化に向けた構想策定を実施しました。同部門では、これまで会計と調達領域でSAP ECC6.0を使用し、その他の領域は通称“道具箱”というスクラッチシステムを組み合わせて利用していました。構想策定フェーズではERP刷新大方針として、これらのシステムをSAP S/4HANAに移行するとともに、汎用業務をシステムに合わせる標準化、いわゆるFit to Standardを実施することに決定しました。
導入の経緯
大幅な業務標準化を達成のポイントは、入念に行った構想策定フェーズ
エンジニアリング事業部門
企画管理部
担当部長
石本 信也 氏
SAP S/4HANAへの移行にあたって、パートナーはSAPシステムのプロフェッショナルに依頼したいと考え、神戸製鋼所はRFPを発行しコンペを実施。グループ会社か否かにはこだわらず選定しましたが、RFPの提案内容とSAPプロジェクトに関する豊富な実績を評価してコベルコシステムをパートナーに決定しました。本プロジェクトのPMOリーダーを務めたエンジニアリング事業部門企画管理部担当部長の石本氏は語ります。
「SAPの機能を知り尽くしたプロフェッショナルとしてコベルコシステムに参画いただきました。神戸製鋼メンバーがSAPの標準機能を理解するためにも、要件定義の前にプレ要件定義を実施してもらい、その後の要件定義、実現化、検証、教育に至るまでの約3年間伴走いただきました。」
コベルコシステムは導入にあたって、同社オリジナルの製造業向けSAP S/4HANAテンプレート“HI-KORT”の活用を提案。以前のSAPシステムでは標準機能の使用率が6%程度に留まっていましたが、新たなシステムではSAP S/4HANAの適用業務領域を、会計・調達から営業やプロジェクト管理にまで広げることで、標準機能の使用率を80%にまで引き上げるものでした。
大幅な業務刷新は、実際業務をおこなう現場に大きな負担を強いることになりますが、そのハードルを乗り越えることができた要因について石本氏は次のように話します。
「構想策定において経営層から現場までが一体となって進めました。関係者への課題ヒアリングを通してAs-IsとTo-Beのギャップをひとつずつ紐解きながら進めることで、当事者全員が“なぜ基幹システムを刷新するのか”という目的を共有することができました。また、各現場で部分最適化が進んでいることで、デジタル化に必要な全体最適を妨げてしまっているという問題を、構想フェーズで可視化したことで、業務標準化というハードルを超えられました」
コロナ禍の制約を乗り越え、オンスケジュールかつ高品質でサービスイン
エンジニアリング事業部門
CWDセンター
センター長
坂口 武洋 氏
プロジェクトにとって重要となる要件定義、そして外部・内部設計を行っている頃、プロジェクトの前に立ちはだかったのが、新型コロナウイルスでした。コミュニケーション手段が制約され、プロジェクトの遅延も覚悟していました。
しかし、導入パートナーのコベルコシステムは、Web会議と現場での打ち合わせを組み合わせるなど、試行錯誤を重ねながら神戸製鋼所と十分なコミュニケーションを図りました。旧基幹システムの運用・保守を担当していたアウトソーシング部門との情報連携をコベルコシステムがリードし、大きく遅延することなくSAP S/4HANAへの移行が実現しました。こうした密なコミュニケーションの積み重ねを通じて、コベルコシステムを「人」として大いに信頼できたと石本氏は振り返ります。
「受け入れテストにおいて見つかった不具合は、軽微なものがわずか5件でした。高品質な基幹システムが構築出来たのは、コベルコシステムがSAPシステム導入において豊富な実績に基づいたノウハウを持っていたとともに、各領域にプロフェッショナルなメンバーを揃えていたことが大きいです」(石本氏)
また、プロジェクトの進捗管理を行っていた坂口氏は、「要件定義フェーズから一貫して進捗管理の抜けや漏れがなく、常にオンスケジュールであったことから、“引き続きよろしく!”とだけ伝えることがほとんどでした」と笑顔で語りました。
両社間の綿密なコミュニケーションと、コベルコシステムの経験に裏打ちされた着実なプロジェクト推進の結果、エンジERP刷新PJは当初掲げた品質・コスト・スケジュールを外すことなく完遂に至りました。
導入の効果
プロジェクト管理や業務管理の効率化・高度化を実感
本プロジェクトは、検証や教育フェーズを経て2024年4月に稼働を開始しました。この新たな基幹システムは神戸製鋼所社内において通称「Kobelco-SAP」と名付けられています。
稼働後の運用・保守については、これまでエンジニアリング部門と本社・電力事業部門で個別に実施していましたが、本プロジェクトを経て、これら部門のシステムがワンインスタンスとなったことに伴い、体制を変更。2年間かけて計画を立案し、部門横断でコベルコシステムが担う体制にしたことで稼働後も大きな満足感を得ています。
業務プロセスデジタル化の土台が完成したことで、海外取引への対応が可能になったことはもちろん、プロジェクト管理や業務管理の効率化・高度化といった効果も出始めています。基幹システム刷新の目的の一つでもある「クイックな意思決定の実現」について坂口氏は「経営に関わる数値を見たい場合、これまでは経理に依頼してデータを作成してもらい、それをさらにExcelに等に加工していたため、数日掛かっていました。旧システムでは散在していたデータが、新しいSAP S/4HANAに一元化されたことで、いまでは自分でシステムを使い10分で出せます。目的は確実に実現しつつあります」と、実感を語ります。
「変化のめまぐるしい昨今において、従来通りのやり方ではついていけません。いかに生産性を上げてアウトプットできるかという点では業務を変えていく必要があります。今回のプロジェクトは単なるシステムの刷新ではなく、業務プロセス全体を変える潮流を生み出すという効果もあったと思います。」(坂口氏)
今後の展望
ビジネスの現場に近い領域でのさらなるデジタル化推進へ
石本氏は今回完成した新たな基幹システムを、「身体で言えば体幹」であると表現します。
「強い体幹を軸に、今後は手足、つまりより現場に近い領域でのデジタライゼーションを実現していくことになると思います」(石本氏)
神戸製鋼所は今回のプロジェクトをステージ1と位置づけています。同社はEPC(設計、調達、建設)からO&M(操業、保守)といった分野にまでビジネスの裾野を広げており、今後はこれらの領域でのデジタライゼーションを進めるステージ2に踏み出していくといいます。ステージ2においても、SAP S/4HANAとのデータ連携などを行う際に、コベルコシステムの技術力を発揮してもらえるだろうと期待を寄せています。
左からコベルコシステム 向井(担当営業)、神戸製鋼所 坂口氏、神戸製鋼所 石本氏、コベルコシステム 木戸(担当PM)
※この記事は2024年9月時点の内容です。
導入された企業様
株式会社神戸製鋼所
創業:1905年9月1日
設立:1911年6月28日
所在地:兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通2-2-4
URL:https://www.kobelco.co.jp/
資本金:2,509億円(2024年3月31日現在)
売上:2兆5,431億4200万円(連結:2024年3月期)
従業員数:連結 38,050名/単体 11,534名(2024年3月31日現在)
〈事業内容〉
鉄鋼事業、溶接事業、アルミ・銅事業、機械事業、エンジニアリング事業
〈会社概要〉
1911年に設立された日本の大手鉄鋼メーカー。鉄鋼、アルミ、銅などの素材系事業、産業機械やエンジニアリングなどの機械系事業、そして電力事業を3本柱とする複合経営を展開。2024年度からの中期経営計画では、収益性向上、カーボンニュートラルへの挑戦、サステナビリティ経営の強化を柱としている。
導入したソリューション&サービス
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