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2024年05月01日

高速水着「レーザー・レーサー」の教訓
~技術革新に追随するルールと人間~

マラソン

今春のセンバツから導入された新基準バットのように時代の要請で規則ができ、それに応えるために新しいテクノロジーが開発されることを前回のコラムで書きました。ところが逆に技術革新のスピードが速すぎるために、新しい技術にルールが追いつかないという事態が生じることがあります。
その代表的な例が2008年の北京五輪に向けて開発された高速水着「レーザー・レーサー」です。イギリスに本社を置くspeedo社がNASAの協力を得て開発したこの水着は、ナイロン素材をレーザーで圧着してつなぎ合わせた前例のない規格外の水着でした。その特徴は着用によって体の体積が極限まで締め付けられ、筋肉の振動を抑えることに加え、表面の凸凹までも極限に削り水の抵抗を抑えるようになっていました。着用するのも大変で、要する時間は、男性でも30分、女性では1時間とも2時間とも言われました。
その異質ともいえる水着が異次元の性能の高さを発揮したことで、当然ライバル各社もウェットスーツ素材を使った浮力性能の高い水着で対抗、高速水着の開発競争が激化しました。結果として、北京五輪では32種目中21種目で世界記録が更新され、さらに翌年の世界水泳では43の世界記録が誕生するという事態になり、高速水着は規制(事実的な禁止)され、素材の厚さや浮力性能などに関するルールが定められたのです。

陸上界でもナイキの「厚底シューズ」が席巻して話題となりました。それまでトップランナーの履くレース用シューズは、極限まで軽量化された「薄底シューズ」が主流でした。ところがナイキは17年7月に厚底のレーシングシューズを発売。ソールには航空宇宙産業で使われる軽量素材を採用し、厚底であっても軽く、加えて湾曲したカーボン製のプレートを内蔵することで、足が着地する際にプレートが曲がり、それが元に戻る際に反発力を生む構造を創り出しました。
ナイキの厚底シューズを履いた選手によって、次々とマラソンの世界記録が塗り替えられました。その後も各種目で好記録が相次ぎ、最終的に世界陸連は、靴底の厚さやカーボンプレートの枚数などの新たな規制ルールを制定しました。

技術の進化にルール形成が追い付かないことは、スポーツの世界に限ったことではありません。近年、生成AIをはじめ様々な先進技術とそれに基づく新しい製品やサービスが次々と利用できる状態になってきています。一方で、業務利用に際して既存の社内規程で認められているか判断できなかったり、そもそも適用される社内ルールが存在しないことで新しい技術の活用が遅れてしまったりということもあります。
例えば、コロナ禍でのリモートワークで爆発的に広がったWeb会議システムは代表例で、以前から存在していたにもかかわらず、勤務規程はじめ社内ルールの壁によってほとんど活用されていませんでした。
今、話題の生成AIも社内ルールが整備されていないために活用が遅れれば、潜在的なビジネスチャンスを逃してしまうことにもなりかねません。新しい技術をタイムリーに活用するためには、経営陣が先進技術に関する情報を頻繁に得るとともに、新たな社内ルールを作るプロセスが迅速かつ適切に実行されているかを注視することが大切だと感じています。

技術の進化とそれに伴う用具の改良によって、スポーツの競技レベルは飛躍的に向上してきました。その中で、人間の持つ身体能力や精神力を競うはずの競技が、高速水着のように用具の優劣を競う場になってしまうこともあるでしょう。しかし長期的に見ればレベルアップの過程なのです。
高速水着の登場によって「体幹を安定させ、身体を水面近くでキープすること」で速く泳ぐことができると分かり、その後の泳法を進化させたと言われています。実際に高速水着時代に出た世界記録は現在、女子で全種目、男子でも一部を除くほとんどの種目で塗り替えられています。
ルールの範囲内でさらなる技術開発も進んでいるとはいえ、最後は人間の力。北京五輪の直前、北島康介選手はTシャツに日本語、英語、中国語で「泳ぐのは僕だ」と書きました。技術革新によって見えてくるパフォーマンス向上の可能性を人間が信じて、行動や考え方を変え、努力し続けることで、自らも進化し社会を発展させることができるのではないでしょうか。

※:今春のセンバツから採用された新基準バット
https://www.kobelcosys.co.jp/column/president/20240401/

2024年5月

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