社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2020年10月01日

変革のドライバー(バーニングプラットフォーム)と「ゆでガエル」
~コロナ禍でようやく気付くデジタルの恩恵~

コキア

8月末に安倍前首相が辞任表明し、9月16日に菅首相が就任しました。安倍さんは憲法改正、拉致問題、北方領土問題に加えて新型コロナ対応、東京オリンピックと重い課題が残されていましたから来年9月の任期満了まで責任を全うしたかったに違いありません。健康上の理由とはいえ、そんな中での辞任とは、これを正に断腸の思いというのでしょう。これは経験した人でないと理解しがたいと思いますが、下痢の便意を制御出来ないという事は心身ともに想像を絶する辛さです。重要な会談、会議、判断に支障をきたし、「首相としての責任を全うできない」というご発言を近くにいた自民党幹部も尊重せざるを得なかったのでしょう。とはいえ、これまで憲政史上最長の政権をリードしてきた功績は讃えられて然るべきと思います。晩年はモリ・カケや桜など周りに足を引っ張られ、支持率も下がっていましたが、辞任が表明されると惜しんだり、功績を認めたりで支持率が急上昇しました。日本の世論も調子が良いものですね。そしてその後を託された菅首相ですが、所信表明や記者会見にお人柄も滲み出て個人的には大きな期待をもっています。足元のコロナ対応をはじめ安倍政権で積み残した課題の遂行継承だけではなく、縦割り行政による弊害を見直すというメッセージやそれを具現化する行革省やデジタル庁の設置など菅さんの独自色が出されています。特にデジタル庁は21年設置、トップは民間人起用と言うことですが、各省庁のシステムを一元管理し行政手続きのまずさや電子化の遅れの解消、公務員の生産性や品質の向上はもちろんの事、日本全体の生産性を高めてもらいたいものです。

私はこのコラムで令和時代はデジタル時代と言い続けてきました。また経産省も「DXレポートITシステム2025年の崖」というメッセージを出しており、コロナ禍が発生するまでは各企業の投資余力のなかでそれなりにデジタル化の投資は行われてきました。しかしながらデジタル化の企画検討や推進する人材不足等の理由で日本のDX化は欧米先進国や中国、東アジア諸国と比べて大きく後れを取ってきた事は否めません。この事態を招いた根本原因は日本のマネジメント層の環境変化に対する鈍感さではないかと私は思っています。これまでの仕事のやり方や成功体験から抜け出せず、市場やテクノロジー、経営環境の変化に気付かない、言わば「ゆでガエル」になっているのではないでしょうか。急に熱湯がかかれば逃げ出すでしょうが、ぬるま湯が徐々に熱くなっている事に気付かず茹で上がって死んでしまう。

コンサルタントがクライアントの変革を支援する際に「変革のドライバー」の例えとして「バーニングプラットフォーム」を良く挙げます。ご存じの方も多いと思いますが、これは1988年北海の石油生産プラットフォームでの爆発事故の事例です。海上50mの高さにある台が燃え盛り、このままじっとしていると確実に焼け死ぬ。しかし50mの高低差がある海面には飛び降りる事をためらうほどの鉄鋼の破片が散乱している上に海水の水温を考えると、海に飛び込んだとしても、20分以内に救助されなければ命を落とすと思えました。結果として229人の作業員のうち167人が死亡、生存者はたったの62人でこれらは海に飛び込んだ人たちでした。生存者が飛び込んだ理由は「飛び込まなければ、焼け死んでいたから。」彼らには『絶対に死ぬ』か『死ぬかもしれない』という、二つの選択肢しかなかったわけです。この事例は変化する事にリスクがあり、やりたくない理由が多くあったとしても、何もしないと確実に死ぬ、負けるという事がわかれば人は動く事を示しています。

そこでターゲット(変革対象である人、組織)を変革させるには、このままでは確実に衰退する事を理解させ、変革を促す要因(変革ドライバー)であるバーニングプラットフォームをターゲットに提示する事が必須であると言われています。これを意識したのかは不明ですが前経済同友会代表幹事の小林喜光三菱ケミカルHD会長が「ゆでガエルの意識を変えるのは簡単だ。ヘビを放り込めばいい」とコメントをしています。ヘビが変革のドライバーだという事ですが、最近になって小林さんは「このデジタルゆでガエル日本をぬるま湯から飛び出させるヘビが必要と考えていたら何と新型コロナがそれを担ってくれた」と言われています。今までもWeb会議システムなど在宅ワークの環境は技術的には整っていたのですが、誰も本気で取り組んでいなかった。ところが新型コロナで否応なしの在宅勤務となり、経営層も中間層も現場も全社で在宅ワークに取組まざるを得なくなった。正にヘビが放り込まれたのですね。そうしたら、「やってみたら案外Web会議は使えるね、やり方次第だけど対面より効率的かも」といった風に全社で浸透し、そしてオンライン飲み会など企業以外に一般社会でもデジタル化が広がってきました。ようやくデジタル化の恩恵に腹の底から気付いたのでしょう。

さて日本人は変化対応には遅れがちですが、一度気付いてからの対応は早く、そこからの改善は得意です。デジタルツインとかCyber & Physicalの摺合せもデジタル時代に必要な重要技術ですが、これらも日本の得意領域です。これを機にデジタル庁も含めて官民一体でデジタル変革に取組み、令和時代はNewノーマルでのデジタル時代として日本の地位を高めたいものですね。弊社もその一翼を担うべく、高い目的意識をもって取り組みたいと思います。

2020年10月

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