社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2020年03月01日

備えにAI加われば憂いなし
~備えても失敗する、その痛みを風化させない為に~

土筆

新型コロナウィルスのニュースが拡大するばかりで心配です。世界の工場である中国の操業が平常に戻らないと世界経済への影響も大きく出そうですし、日本での拡散もこの2週間が瀬戸際という事で早期終息を願うばかりです。当社も対策本部を設置しましたが、企業・個人各々が自律的に拡散防止に努めたいですね。BCP(Business Continuity Plan)は現実に発生した事象が事前の想定を超えると、その後はそれを織り込んだ対応策を立てて備える事になります。当社でも事業所閉鎖を検討することでe-Work対応やリモート運用レベル進化の必要性に気付きました。同じ被害を二度と繰り返さない様に想定外の事象を想定内として備える事で人類は発展してきたのでしょうね。と、ここまで書き綴って過去の本コラム(※1 2018年8月版)で似たようなことを題材にした事を思い出しました。そこでは準備の大切さをお伝えしていますので、ご興味あれば一読下さい。

2番煎じとなる本稿では「備えあれば憂いなし」の格言の大切さはその通りとして、それを心掛ければほぼ失敗しないのだけど、それでも失敗する場合があることについて考えてみます。周到な準備を重ねてきたにも関わらず失敗したり敗北したりするのはどんなケースがあるのでしょうか。自然界では前例のない規模やある地域では発生しなかった災害などを想定外の災害と呼んでいます。あってほしくはないのだけれど阪神淡路大震災や東日本大震災のような大被害が忘れたころに発生します。スポーツでは個人競技と団体競技、演技型と対戦型で変動要素が大きく違ってきますね。個人・演技型では競技当日のコンディションやメンタルが変動要素で概ね十分な準備ができれば制御可能ですが、それでも世界最高レベルではフィギュアスケートの羽生選手でさえプレッシャーに負けることがあります。対戦型では個々のコンディションやメンタルに加えて相手の作戦が事前の想定外で混乱し、敗北することもあるでしょう。欧米諸国による都合の良いルール変更もままありますね。

ビジネスの世界でも、今年1月にこの世を去ったクレイトン・クリステンセン氏の有名な著作「イノベーションのジレンマ」で取り上げられた様な、持続的成長をしてきた既存事業が破壊的イノベーションにより淘汰された事例は少なからずあります。これらに共通するのは「成功体験」「これまでの常識、ルール」といった偏った想定に対して準備をしている事です。想定が正しければ準備も正しく行われ失敗する事は少ないはずなのですが、「想定外」「予想以上」「考えもしなかった」などの反省は敗軍の将の言い訳と言う事です。

日本人は特に一度経験や発見した問題に対する再発防止対応や改善活動は得意なのですが、破壊的イノベーションやビジネスルール・モデルの創造はどうも苦手な様です。とはいえ、気づいたことに対する対応は素早く誠実なのだから、令和デジタル時代に欧米や中国に負けないよう日本経済も頑張りたいですね。

さて、ここで気を付けなければいけないのは一度経験した事が長い年月を経て風化し、感性が鈍麻して十分な備えを怠ってしまうことです。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ということわざが有りますが、そこには人間の性があり、逆に忘れる事で辛さや苦しみを和らげるという本能に風化の起因があるのかもしれません。その人間の弱点を補完するものこそデジタル、AIではないかと思います。デジタルデータは適切に管理すれば風化しません。AIに過去の痛みのデータを正しく記憶させれば、適切なタイミングで注意喚起や準備の提言をしてくれる筈です。デジタルは痛み、辛さ、苦しみは感じませんが、決して忘れはしないのです。それ故「備えにAI加われば憂いなし」と言っても過言ではないでしょう。過去の経験則や関連するビッグデータを活用して、スポーツやビジネスの世界に加えて自然災害対策でもAIの適用範囲が広がっています。シンギュラリティに脅威を感じるのではなく、人類の弱点を補完し、より良い生活を謳歌するためにAIを駆使したいものです。余談ですがAIのAは一般にはArtificial(人工の)ですが、IBMの研究所の講演ではAugmented(増強された)と言っていましたが、言い得て妙ですね。

余談ついでになりますが、NHK朝ドラと日経新聞の私の履歴書を見る事は私の毎朝のルーティンの一つです。今見ている(2月20日時点)朝ドラ「スカーレット」が信楽焼、私の履歴書が楽焼の15代樂吉左衞門(直入)で双方とも窯での作陶が主題です。十分なセンスと経験に基づいて準備しアイデアを仕込んだ作品を窯に入れた後は、釉薬と薪の灰が炎の流れで融合していく自然現象に最終成果を委ね天からの実りを待つ、というメッセージが伝わってきます。これらを見てデジタルでは制御できない、予測できない、準備できないものが人の世にはまだまだ多いのだなあ、と思います。「人事を尽くして天命を待つ」、こういうことわざもありますね。

※1:2018年8月社長通信 備えあれば憂いなし ~準備の大切さ(私、失敗しないので)~
https://www.kobelcosys.co.jp/column/president/20180801/

2020年3月

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